就業規則(労働条件)の不利益変更とは?手続(従業員の合意)と判断基準(合理性)について解説

「労働条件」とは、労働時間や賃金などに関する従業員の待遇をいい、労働基準法では、労働条件のうち、労働時間など特に重要な事項については、必ず就業規則に記載することと定めています(労働基準法第89条)。

会社は、経営状況や時代の変化などに応じて、自社の就業規則の内容を適宜変更していくことが一般的です。

このとき、就業規則に記載されている労働条件を、従業員にとって不利な内容に変更することを「就業規則(労働条件)の不利益変更」といい、適切な対応をしておかないと、その変更が法的に無効なもの(変更の効力が認められないもの)と取り扱われるおそれがあります。

したがって、会社が就業規則を変更する際には、「不利益変更に該当しないか」、「不利益変更に該当する場合には、手続などが法的に問題ないか」という点に十分配慮して対応する必要があります。

就業規則の不利益変更とは?

就業規則の変更手続

就業規則の内容を変更する場合には、会社は労働基準法に定められている所定の手続を行う必要があります(労働基準法第90条)。

具体的には、就業規則の変更は、変更後の就業規則について、従業員の過半数代表者から意見を聴取し、その意見書を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出ることによって行います。

このとき、仮に従業員の過半数代表者から、就業規則の変更について「反対」や「異議あり」の意見があったとしても、手続を進めることができます。

【就業規則の届出手続】従業員代表者の選出、意見書、届出方法などを解説

就業規則(労働条件)の不利益変更とは?

会社が就業規則を変更する場合において、労働条件を従業員にとって不利な内容に変更することを、「就業規則(労働条件)の不利益変更」といいます。

就業規則の不利益変更には、例えば、次のような場合が該当します。

就業規則の不利益変更の具体例

  • 従業員の賃金を減額する(支給している手当を減額・廃止するなど)
  • 退職金を減額する
  • 所定休日数を減らす
  • 従業員の労働時間(就業時間)を長くする(賃金は据え置き)

変更が利益にも不利益にもなる可能性がある場合

実際には、会社の所定休日数を減らすなど、明らかに不利益変更に該当する場合もあれば、変更の内容が、従業員にとって利益にも不利益にもなり得る可能性がある性質の変更もあり、このような変更が不利益変更に該当するかどうかが問題になることがあります。

例えば、基本給をベースとして毎月定額の給与を支給していた会社が、成果主義の色濃い歩合給制度に変更する場合、従業員が頑張って成果を上げれば今よりも給与は増える(利益になる)可能性があるものの、成果を上げることができなければ、今よりも給与が減ってしまう(不利益になる)可能性があるというような場合です。

この点について、従業員にとって不利益になる可能性がある以上は、就業規則の不利益変更に該当すると判断した裁判例(ハクスイテック事件/大阪高等裁判所平成13年8月30日判決)もありますので、基本的には、不利益になる可能性がある以上は、不利益変更に該当するものとして対応することが望ましいと考えます。

就業規則の不利益変更の手続

原則的な手続

会社が就業規則の不利益変更を行う場合には、原則として、その就業規則の変更によって不利益を被る従業員について、全員の別の合意が必要になると解されています。

ここでは、個々の従業員の同意が必要であり、例えば、従業員代表者の意見を聴くことでは足りないことを意味します。

このことは、労働契約法第9条に定められています。

労働契約法第9条

(就業規則による労働契約の内容の変更)

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

就業規則には、「最低基準効」という効力があります。

「最低基準効」とは、就業規則は従業員の労働条件(労働時間や賃金など)について、最低の基準を定めたものとして効力を有するものと捉え、従業員は、就業規則で定められている労働条件を下回る条件で働く義務はないとするものです。

この最低基準効があるからこそ、会社は就業規則を一方的に不利益変更することが認められず、変更するためには、従業員に対してその不利益の内容を説明し、個々に合意を得る必要があるのです。

なお、従業員の合意は、後日のトラブルを防止するために、口頭ではなく、書面(合意書など)で合意の内容や合意した日付、署名や押印などを残しておくことが望ましいと考えます。

「黙示の合意」は有効か?

就業規則の不利益変更は合意によることが原則ですが、この合意が黙示(いわゆる暗黙の了解)でも足りるかどうかが問題になることがあります。

例えば、社長が全体朝礼で、経営上の理由から賃金カットを宣言し、従業員に就業規則の変更を案内したところ、その場で従業員から特に反対意見などの発言はなく、その後、減額された賃金が振り込まれ、従業員がそれを受領することが継続していたような場合、従業員による「黙示の合意」があったものと認められるのかどうかが問題になります。

裁判例では、「就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は、賃金債権の放棄と同視すべきものであることに照らし、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、有効である」と判断しています(更生会社三井埠頭事件/東京高等裁判所平成12年12月27日判決)。

裁判例を踏まえると、単に意見を述べずに黙っていた、というだけでは「自由な意思で合意した」と評価することはできないため、「黙示の合意」があったものとして認められる可能性は低いと考えるべきでしょう。

また、「自由な意思で合意した」ということを、後になって会社が証明することは、現実的には難しいことから、従業員への説明資料や質疑応答は記録して残しておき、従業員の合意は書面で行うなど、できる限り客観的な資料を残しておく必要があると考えます。

例外(個別の合意がなくても不利益変更が認められる場合)

基本的な考え方は上記のとおりですが、会社は、就業規則の不利益変更をする際、すべての場合において従業員の個別の合意を得なければならないものではありません。

労働契約法では、就業規則の不利益変更に「合理性」がある場合には、個別の合意を得ることなく、不利益変更が認められることを定めています(労働契約法第10条)。

つまり、就業規則の不利益変更について従業員の個別の同意がない場合には、その不利益変更に「合理性」があるかどうかによって、変更が法的に有効または無効となるのかが分かれるということを意味します。

労働契約法第10条

(就業規則による労働契約の内容の変更)

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

裁判例(秋北バス事件/最高裁判所昭和43年12月25日判決)によると、従業員に不利益な労働条件を一方的に課す就業規則の作成・変更について、その就業規則の条項が「合理的なもの」であれば、これに同意しないことを理由として、従業員がその適用を拒否することは許されないと判断しています。

つまり、就業規則の不利益変更について、その内容が合理的なものであると認められるときは、従業員の同意を得ていない場合であっても、法的に効力が認められることを意味します。

「合理性」の判断基準

「合理性」があれば、従業員の個別の同意を得ずして就業規則の不利益変更が認められるとしても、何をもって不利益変更に合理性があると認められるかについては、一定の基準はなく、過去の裁判例などに照らして、個別の案件ごとに判断していくしかありません。

裁判例を踏まえた基本的な考え方としては、合理性を判断する当たっては、「変更の内容」と「変更の必要性」の両面からの考察が要求されているといえます(タケダシステム就業規則変更事件/東京高等裁判所昭和62年2月26日判決)。

このうち、「変更の必要性」について、裁判例では主に次の3つの段階に分けたうえで、必要性と「変更の内容」と比較考量しながら、合理性を判断する傾向があります。

変更の必要性の度合い

  • (通常の)業務上の必要性
  • 高度の業務上の必要性
  • 極度の業務上の必要性

このうち、「極度の業務上の必要性」とは、例えば、会社の存続が危うい場合や、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった場合で、経営危機により人件費を削減する必要性が高く、従業員の被る不利益という観点からみても、失職したときのことを思えば受忍する必要があると判断されるような場合をいいます(みちのく銀行事件/最高裁判所平成12年9月7日判決)。

そして、どの程度の業務上の必要性が求められるかについては、従業員が被る不利益の内容とのバランスを考慮して判断されます。

例えば、労働条件のうち、特に賃金については従業員にとって重要な権利であり、高度の業務上の必要性が求められることが裁判例から見てとれます。

これに対して、会社内の福利厚生(休憩室や更衣室の利用など)は、賃金に比べると、業務上の必要性は低いといえるでしょう。

合理性判断の判断要素

さらに、裁判例では、「合理性」の有効性にかかる判断については、次の7つ要素を総合的にみて判断すべきとしています(第四銀行事件/最高裁判所平成9年2月28日判決)。

合理性の判断基準

  1. 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
  2. 使用者側の変更の必要性の内容・程度
  3. 変更後の就業規則の内容自体の相当性
  4. 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
  5. 労働組合等との交渉の経緯
  6. 他の労働組合または他の従業員の対応
  7. 同種事項に関するわが国社会における一般的状況

これらの判断においては、一定の基準があるものではなく、程度問題ともいえる内容が多いため、会社が判断するに際しては、労働法に精通している弁護士など、外部の専門家の意見も踏まえつつ、慎重に判断をするよう努める必要があります。

不利益変更に合理性が認められない場合

就業規則の不利益変更について、「合理性がない」と判断された場合には、変更後の就業規則には効力が認められません

したがって、この場合には、原則として、従前(変更前)の就業規則に引き続き効力が認められます。

ただし、この場合でも就業規則が完全に無効になるものではなく、不利益変更に同意をしていた従業員に対しては、効力を有する(有効)と解されています。

また、変更後に採用された従業員に対しても、変更後の就業規則が適用されると解されます。