農業の労務管理|労働基準法の適用除外(労働時間・休日・割増賃金など)と就業規則の規定例(記載例)について解説

はじめに

農業における労務管理においては、労働時間や休日など、労働基準法の適用が一部除外されています。

したがって、労働基準法のうち、どの規定が適用され、または適用されないのかを適切に理解した上で労務管理を行う必要があります。

この記事では、農業における労働基準法の適用除外について解説します。

労働基準法の適用除外

適用除外される事項

農業において、労働基準法が適用除外とされている事項は次のとおりです。

農業における労働基準法の適用除外

  1. 労働時間(労働基準法第32条)
  2. 休憩(労働基準法第34条)
  3. 休日(労働基準法第35条)
  4. 割増賃金(労働基準法第37条)
  5. 年少者の特例(労働基準法第61条)

適用除外とされている理由

農業について、労働基準法が一部適用除外とされている理由は次のとおりです。

  • 事業が天候などの自然条件に左右されること
  • 事業と労働の性質から、1日8時間や週休といった規制になじまないこと
  • 天候が悪いときや農閑期など、適宜休養を取ることができるので、労働者保護に欠けるところがないこと

適用除外となる事業の種類

適用除外となる事業の種類は次のとおりです(労働基準法第41条・別表第一第六号・七号)。

  • 土地の耕作、植物の植栽・栽培・採取等の事業
  • 畜産・養蚕・水産等の事業

なお、林業は、適用除外とされていません。

労働時間

一般の産業

労働時間について、一般の産業では、「法定労働時間」として、1日8時間・1週40時間という上限を設けており、原則として、この時間を超えて働くことは残業(時間外労働)となり、残業代(割増賃金)の支払いが必要となります(労働基準法第32条)。

農業

農業においては、法定労働時間について適用除外とされています。

したがって、例えば「1日12時間」などの労働時間を定めたとしても、違法になりません。

そこで、農業における所定労働時間を定める場合には、経営上必要な労働時間を個別に定めることができます

農業においては、自然環境(雨・風・雷など)の影響によって、作業の中断を余儀なくされ、天候の回復を待つまでの待機時間などが生じる場合があります。

さらに、作業の再開が困難と判断する場合には、早く切り上げて終了する場合もあることなどから、一般的には、農業の所定労働時間は、法定労働時間よりも長めに設定されることが多いようです。

また、事業所によっては、夏季は長めの所定労働時間を定める一方、冬季は短めに定めるなど、季節によって所定労働時間を変化させる事例もあるようです。

なお、長めの労働時間を設定することで、労働時間をコントロールし易くなりますが、一方で、従業員の募集・採用においては不利になるという側面もありますので、様々な事情を勘案して、慎重に所定労働時間を定める必要があるといえます。

労働時間の繰り上げ・繰り下げ

農業においては、圃場の状態によって、例えば、圃場がぬかるみ午前中は作業ができない、または稲穂が湿気って午前中は稲刈りできないなどといった場合が生じます。

そこで、このような場合に労働時間を繰り上げ・繰り下げることを可能するために、就業規則に定めておく必要があります。

例えば、始業8時・終業18時の場合、前日までに「始業時刻を2時間繰り下げ、始業10時・終業20時とする」と指示することにより、同様の所定労働時間のまま始業・終業時刻を変更することができます。

就業規則の規定例(労働時間の繰り上げ・繰り下げ)

第●条 会社は、業務の都合により、始業時刻および終業時刻を繰り上げまたは繰り下げることがある。

36(さぶろく)協定

一般の産業では、法定労働時間を超えて労働をする場合、または法定休日に労働をする場合には、36協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出る義務があります。

一方で、農業については、もともと労働時間や休日について労働基準法が適用されないことから、法定労働時間を超え、または法定休日に働く場合でも、36協定を締結する義務はありません

休憩

一般の産業

休憩について、一般の産業では、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を与える必要があります(労働基準法第34条)。

農業

農業においては、休憩時間について適用除外とされています。

したがって、休憩を与えないこととしても、違法にはなりません。

ただし、事業主には、従業員に対する「安全配慮義務」があります(労働契約法第5条)。

したがって、実際には休憩を与えることなく作業を継続し、疲労の蓄積などによって病気やケガといった労働災害が生じた場合には、事業主には安全配慮義務違反による損害賠償責任などが生じることがあります。

特に夏場における屋外での作業では、熱中症などにも気を付けながら、休憩時間に関するルール(1時間に1回、10分間休憩するなど)を定め、運用することが必要です。

休日

一般の産業

休日について、一般の産業では、毎週少なくとも1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないとされています(労働基準法第35条)。

農業

農業においては、休日について適用除外とされています。

したがって、休日を上記のとおり与えないこととしても、違法にはなりません。

割増賃金(残業代)

一般の産業

割増賃金について、一般の産業では、法定時間外労働に対しては25%以上、法定休日労働に対しては35%以上の割増賃金を支給する必要があります(労働基準法第37条)。

農業

農業においては、時間外労働、休日労働に対する割増は適用除外とされています。

したがって、時間外労働、休日労働があった場合でも、従業員に対しては通常の賃金(割増しない賃金)を残業代として支給すれば足りることとなります。

ただし、農業においても深夜労働の割増賃金は必要です。

なお、割増が不要、というだけであって、時間外労働をした場合には、通常の賃金を支給する必要がある(無償で残業をさせることができる訳ではない)ことに留意する必要があります。

年少者の特例

一般の産業

年少者(満18歳に満たない者)について、一般の産業では、深夜労働に就かせてはならないとされています(労働基準法第61条)。

農業

農業においては、年少者の特例が適用除外とされています。

したがって、年少者について時間外労働、休日労働、深夜労働をさせることが認められます。

有給休暇

農業においても、有給休暇に関する規定の適用は除外されていないため、他の産業と同様に、有給休暇を与える必要があります。

天候不良への対応

農業では、天候や圃場の状態などによって、作業ができなくなる場合があります。

このような場合の対応としては、振替休日の取得または休業手当の支払いがあります。

振替休日の取得

振替休日とは、出勤日と休日とを振り替えることによって、事前に休日を変更する制度をいいます。

振替休日の就業規則の規定例

就業規則の規定例(振替休日)

第●条 会社は、業務の都合によりやむを得ない場合は、休日を他の日に振り替えることがある。

例えば、週刊の天気予報などで天候の悪い日が判明した時点で、その日に休日を振り替え、当初の休日に仕事をすることができるようになります。

休業手当の支払い

事前に天候不良を予測することができず、当日になって臨時休業する場合において、その休業が事業主の都合による休業に該当する場合には、従業員に対して平均賃金の60%以上を、休業手当として支払う義務が生じます。

休業手当の就業規則の規定例

就業規則の規定例(休業手当)

第●条 天候不良や経営の都合、または天災事変等やむを得ない事由によって通常の業務ができないときは、所定労働時間の全部または一部について臨時に休業するときがある。

2 前項の場合、その休業が会社の責めに帰すべき事由によるときは休業手当を支払う。

外国人技能実習生

「外国人技能実習生制度」とは、開発途上国などの人材育成による国際協力を目的とした制度をいいます。

農業でも、日本人の従業員を確保しにくい事業所が、この制度を活用することがあります。

外国人技能実習生については、農林水産省の通達(平成12年3月)により、「他産業並みの労働環境等を確保するために、基本的に労働基準法の規定を準拠する」こととされています。

したがって、外国人技能実習生については、労働基準法が適用除外とならないことに留意する必要があります。

就業規則への記載の必要性

農業は労働時間・休憩・休日について労働基準法の適用除外とされていますが、これらの内容は、就業規則における絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)に該当することから、その内容を就業規則に必ず記載する必要があります。

適用除外だからといって、就業規則に記載する必要がないという事にはならないことに留意する必要があります。

その他(労働保険)

従業員を1人でも雇っている事業場は、労働保険(労災保険・雇用保険)に加入する義務があります(強制適用事業)。

しかし、5人未満の従業員を使用する個人経営の農林水産の事業については、強制適用事業の対象外とされているため、労働保険に加入する義務がありません(法人では従業員1人でも加入義務あり)。