社会保険労務士(社労士)とは?業務内容や相談・依頼できることを解説

社会保険労務士(社労士)とは?

社会保険労務士(社労士)とは?

社会保険労務士」とは、昭和43年に制定された社会保険労務士法に基づき、主に労働・社会保険分野を専門として取り扱う国家資格をいいます。

社会保険労務士は、労働・社会保険の関連法令に基づく申請書類や帳簿書類の作成・提出代行、および労働・社会保険に関する相談・指導などを主な業務として行います。

社会保険労務士の登録者数は、2021(令和3)年9月30日時点で、全国で44,063人です。

社会保険労務士の資格

社会保険労務士の資格を取得するためには、原則として、社会保険労務士試験に合格する必要があります。

また、試験に合格した者が、社会保険労務士として業務を行うためには、全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿に登録を受けることが必要であり、登録と同時に、各都道府県の社会保険労務士会の会員となります。

登録のための要件として、原則として、労働・社会保険に関する実務経験が2年以上あることが必要とされています。

社会保険労務士の種類(開業・勤務)

社会保険労務士は主に、事務所を開設して、その業務を行う「開業社会保険労務士」と、一般企業や社会保険労務士法人に属し、その所属する組織の内部で社会保険労務士に関連する業務を行う「勤務等社会保険労務士」に分けられます。

社会保険労務士の試験

社会保険労務士の試験は、1969(昭和44)年度から毎年一回実施されており、2021(令和3)年度まで、53回の試験が実施されました。

試験の内容(科目)は、労働分野からは、主に労働基準法・労働安全衛生法・労働者災害補償保険法・雇用保険法が出題され、社会保険分野からは、主に健康保険法・国民年金法・厚生年金保険法が出題されます。

2021(令和3)年度の試験では、37,306人が受験(申込者数は50,433人)し、合格者数は2,937人、合格率は7.9%でした。

社会保険労務士の業務内容

社会保険労務士が主に取り扱う業務内容は、次のとおりです。

社会保険労務士の取扱業務

  1. 労働・社会保険に関する申請書の作成・提出代行業務
  2. 法定帳簿書類の作成業務
  3. 給与計算業務
  4. 助成金の申請に関する業務
  5. 年金に関する業務
  6. 紛争解決に関する業務
  7. 労務管理・社会保険に関する相談・指導業務

なお、7.以外の業務については、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ、報酬を得て、業として行ってはならないこととされており、社会保険労務士の独占業務とされています。

以下、順に解説します。

労働・社会保険に関する申請書の作成・提出代行業務

業務の内容

労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の関連諸法令に基づく申請書の作成と提出について、社会保険労務士が会社を代行して行う業務です。

「申請書」とは、労働・社会保険に関する諸法令に基づいて、労働基準監督署、公共職業安定所、年金事務所などの行政機関に提出する書類をいいます。

社会保険労務士法では、社会保険労務士が取り扱うことのできる50以上の法令が定められており、当該法令に基づく申請書として、例えば、次のような書類があります。

社会保険労務士が取り扱う申請書の例

  • 時間外・休日労働に関する協定届(労働基準法第36条)
  • 労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条)
  • 労働保険概算・確定保険料申告書(労働保険徴収法第15条・第19条)
  • 雇用保険被保険者資格取得届(雇用保険法第7条)
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(健康保険法第35条・厚生年金保険法第13条)

社会保険労務士に相談・依頼するメリット

申請書の作成・提出代行業務は、一般に多くの社会保険労務士事務所で取り扱っており、社会保険労務士の代表的な業務のひとつといえます。

これらの業務を社会保険労務士に依頼する目的は、例えば、会社が創業して間もないなどの理由で、これらの手続を行う担当者がいない場合や、当該担当者にかかる人件費などのコスト面を考慮して、社会保険労務士に依頼をする場合があります。

また、労働・社会保険に関する申請手続は、法令に基づき、期限内に正確な申請を行う必要性があり、もし加入漏れや申請内容に重大なミスがあった場合には、トラブルに発展する可能性があるため、リスクマネジメントの観点から社会保険労務士に依頼する場合もあります。

法定帳簿書類の作成業務

業務の内容

労働・社会保険に関する諸法令に基づいて、必要とされる帳簿書類を作成する業務をいいます。

会社は、法律に基づいて労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3つの帳簿(法定三帳簿)を作成する必要があり、さらに、労働条件通知書(雇用契約書)、災害補償に関する書類についても、法律によって5年間の保存義務が定められた重要な書類です。

社会保険労務士が取り扱う法定帳簿書類として、例えば、次のような書類があります。

法定帳簿書類の例

  • 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(法定三帳簿)
  • 労働条件通知書(雇用契約書)(労働基準法第15条)
  • 労使協定(労働基準法第36条など)
  • 災害補償に関する書類(労働基準法第109条)

社会保険労務士に相談・依頼するメリット

労務管理においては、労働条件通知書や労使協定など、労働基準法などの法令に基づいて作成することが義務付けられている書類があります。

これらの書類については、関連法令を遵守しながら作成する必要があるため、専門知識なく作成することが困難な場合があります。

そこで、これらの書類の作成を社会保険労務士に依頼することで、法令を遵守し、適切に法定帳簿書類を作成することができます。

給与計算業務

業務の内容

会社が従業員に対して支払う賃金について、社会保険労務士が勤怠管理情報をもとに、各月の割増賃金や控除する社会保険料、税金などの算定を代行する業務をいいます。

社会保険労務士に相談・依頼するメリット

給与計算においては、割増賃金や欠勤控除の算定、社会保険料や税金の算定において、労働・社会保険に関する専門知識が必要であり、専門家である社会保険労務士に依頼することによって、給与計算を正確に行い、かつ担当者にかかる負担や人件費を削減することができるというメリットがあります。

助成金の申請に関する業務

業務の内容

国の施策のひとつとして、人材の雇用や能力開発などに取り組む会社に対する助成金制度があります。

助成金は、会社が直接申請することができますが、各助成金について受給のための要件が異なり、受給するためには社内規程や帳簿書類などの整備が必要不可欠となるため、それらの整備も併せて、助成金の申請を社会保険労務士に依頼する場合があります。

社会保険労務士に相談・依頼するメリット

助成金は、国(行政)の施策によって、助成金ごとに受給要件が定められており、かつその種類が非常に多いため、適切に受給するためには、各助成金について日々の最新情報を把握しておく必要があります。

また、助成金を受給するためには、その前提として、就業規則などの社内規程や、出勤簿・賃金台帳の整備など、労務管理を適切に行うことが必要不可欠であり、それらのアドバイスも含めて社会保険労務士に依頼することで、会社が適切に助成金を受給することができるようになるといえます。

年金に関する業務

業務の内容

社会保険制度のひとつとして、年金制度があります。

年金には、国民年金と厚生年金保険がありますが、いずれも、老齢年金の他に、障害年金や遺族年金があります。

社会保険労務士が、これらの年金の受給要件などについて一般市民からの相談に対応し、適切に受給するための諸手続を代行する場合があります。

社会保険労務士に相談・依頼するメリット

年金制度については、疑問があれば行政の窓口に相談をすることができるうえ、相談者が一般市民(個人)になるため、社会保険労務士の中でも、年金相談を主なサービスとして提供する事務所は少数派といえます。

しかし、例えば、障害年金の申請代行を専門に取り扱う社会保険労務士などもおり、一般市民からの相談に応じ、障害年金の受給要件に関するアドバイスや、受給のための申請代行を行う場合があります。

紛争解決に関する業務

紛争解決に関する業務については、特定社会保険労務士しか行うことができません。

「特定社会保険労務士」とは、紛争解決手続代理業務試験に合格し、社会保険労務士名簿にその旨の付記を受けた社会保険労務士をいいます。

紛争解決に関する業務としては、以下の業務があります。

紛争解決に関する業務

  • 都道府県労働局および都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続の代理
  • 都道府県労働局における障害者雇用促進法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法及びパートタイム・有期雇用労働法の調停の手続の代理
  • 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理 (紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)
労務トラブルの解決手段(あっせん・労働審判・裁判など)と解決までの流れを解説

労務管理・社会保険に関する相談・指導業務

上記の業務以外に、労働・社会保険に関する専門知識を活かして、会社が抱える経営課題について相談に応じ、指導する業務があります。

これらは、いわばコンサルティング業務といえるため、正確な業務内容の定義は存在しませんが、例えば、次のような業務を提供する場合があります。

労務管理・社会保険に関する相談・指導業務の一例

  • 就業規則、賃金規程など、社内規程の作成、相談・指導
  • 労働安全衛生に関する相談・指導 ・人事評価制度の策定に関する業務
  • 賃金制度(賞与・退職金を含む)の策定に関する業務
  • 労務管理におけるトラブル対応業務
  • 労働基準監督署や年金事務所など行政対応に関する業務
  • 研修の講師業務

これらは、各社会保険労務士の専門分野やスキルによって、サービスの内容や質が大きく異なり、すべての業務に精通している社会保険労務士はいないといえます。

また、報酬額も社会保険労務士事務所によって様々であるため、社会保険労務士に依頼をする場合には、その社会保険労務士の専門分野、経歴、報酬額などを総合的にみて、依頼するかどうかを検討する必要があるといえます。