【2022女性活躍推進法改正】男女賃金格差の情報開示(公表)の義務化について解説
- 1. はじめに
- 1.1. 女性活躍推進法の改正
- 1.2. 男女賃金格差の現状(法改正の背景)
- 2. 法改正の内容
- 2.1. 女性活躍推進法とは?
- 2.2. 法改正の内容
- 2.3. 法改正後、初回の対応期限はいつまで?
- 3. 男女の賃金の差異の公表方法
- 3.1. 公表のポイント
- 3.2. 公表イメージ
- 4. 男女の賃金差異の算出手順
- 4.1. 【1】自社の従業員を「男性・女性」および「正規・非正規」の4種類に分類する
- 4.2. 【2】4種類の従業員それぞれについて、対象事業年度の総賃金と人員数を算出する
- 4.2.1. 総賃金の算出
- 4.2.2. 人員数の算出
- 4.3. 【3】4種類の従業員それぞれについて、平均年間賃金を算出する。
- 4.4. 【4】正規・非正規の総賃金・人員数を利用して、全ての従業員の年間平均賃金を男女別に算出する
- 4.5. 【5】「正規」「非正規」「全労働者」の3区分ごとに、「(女性の平均年間賃金)÷(男性の平均年間賃金)」により、割合(パーセント)を算出し、公表する
はじめに
女性活躍推進法の改正
2022(令和4)年7月8日に女性活躍推進法が改正され、常時301人以上の従業員を雇用する会社に対して、「男女の賃金の差異」に関する情報を開示(公表)することが義務付けられました。
男女賃金格差の現状(法改正の背景)
内閣官房による「新しい資本主義実現会議(2022年5月20日開催)」の資料によると、日本における男女の賃金格差(正規・非正規雇用のフルタイム労働者を対象に、男性の賃金の中央値に対して、女性の賃金の中央値がどれほど低いかを示す指標をいう)は22.5%であり、他の先進国(アメリカ17.7%、カナダ16.1%、ドイツ13.9%、イギリス12.3%、フランス11.8%、イタリア7.6%)と比較して高い水準にあるといえます。
また、日本の管理職に占める女性の割合は、13.2%であり、他の先進国(アメリカ41.4%、イギリス36.8%、フランス35.5%、ドイツ28.1%)と比較して低い水準にあります。
現状、日本の労働者の男女賃金格差は、他の先進国と比較して大きく、性別のみを理由とする賃金の差異を解消し、働くことを希望する女性が十分にその能力を発揮することができる環境を整備するため、男女の賃金差異の開示が求められることとなりました。
法改正の内容
女性活躍推進法とは?
「女性活躍推進法」は、職場における女性が活躍しやすい環境づくりを目的とした法律として、2016(平成28)年4月1日に施行されました。
施行当初は、従業員を常時301人以上雇用する会社が対象とされていましたが、その後の法改正により、2022(令和4)年4月1日からは、従業員を常時101人以上雇用する会社にまで対象が拡大されました(ただし、取り組みの内容は異なります)。
女性活躍推進法では、会社に対して次の3つの取り組みを行うことを義務付けています。
会社が実施するべき3つの取り組み
- 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
- 1.の課題を解決するのにふさわしい数値目標や取組内容などを盛り込んだ行動計画として、「一般事業主行動計画」を策定・届出・周知・公表
- 3.自社の女性の活躍に関する情報の公表
法改正の内容
今回の法改正により、変更が生じるのは、主に上記3.の「自社の女性の活躍に関する情報の公表」についてです。
法律の改正前は、従業員を常時301人以上雇用する会社が公表すべき情報については、厚生労働省令によって、次のとおり定められていました。
情報の公表項目(法改正前)
- 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績…8項目から1項目を選択する
- 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績…7項目から1項目を選択する
これに対して、法律の改正後は、上記の「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」において、必須の情報公表項目として「男女の賃金の差異」が追加されました。
これによって、会社は合計3項目以上の情報開示が求められることとなります。
法律の改正後は、各公表項目について、次のとおりとなります。
女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供(①から⑧までの8項目から、任意の1項目を選択) ※法改正による影響あり | 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備(①から⑦までの7項目から、任意の1項目を選択) ※法改正による影響なし |
①採用した労働者に占める女性労働者の割合 | ①男女の平均継続勤務年数の差異 |
②男女別の採用における競争倍率 | ②10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合 |
③労働者に占める女性労働者の割合 | ③男女別の育児休業取得率 |
④係長級にある者に占める女性労働者の割合 | ④労働者の1ヵ月あたりの平均残業時間 |
⑤管理職に占める女性労働者の割合 | ⑤雇用管理区分ごとの労働者の1ヵ月あたりの平均残業時間 |
⑥役員に占める女性の割合 | ⑥有給休暇取得率 |
⑦男女別の職種または雇用形態の転換実績 | ⑦雇用管理区分ごとの有給休暇取得率 |
⑧男女別の再雇用または中途採用の実績 | - |
⑨【必須項目】男女の賃金の差異(2022年7月8日法改正により新設) | - |
常時雇用する従業員数が101人以上300人以下の会社は、301人以上の会社よりも公表の負担が軽減されており、上記16項目のうち、任意の1項目以上の情報公表が必要となり、男女の賃金の差異の情報を公表することは義務付けられていません。
なお、従業員数が100人以下の会社については、情報の公表は努力義務(法律で義務付けられてはいないものの、実施することが望ましい)とされています。
法改正後、初回の対応期限はいつまで?
今回の法改正を受けて、会社が初回の「男女賃金の差異」を開示すべきタイミングは、法律の施行後(2022年7月8日)、最初に終了する事業年度の実績について、その翌事業年度の開始後、おおむね3ヵ月以内に公表することとされています。
例えば、事業年度が4月から3月の会社の場合、2022年4月から2023年3月の事業年度における男女賃金の実績をもとに差異を計算し、その情報を2023年6月末までには開示する必要があります。
男女の賃金の差異の公表方法
公表のポイント
求職者などの会社外部の者に対して、比較可能な企業情報を提供するという目的から、「男女の賃金の差異」は、すべての会社が共通の方法で数値を公表する必要があり、そのポイントは次のとおりです。
男女の賃金の差異の公表方法のポイント
- 賃金の差異は、男性従業員の賃金の平均に対する、女性従業員の賃金の平均を割合(パーセント)で示すこと
- 「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3区分での公表が必要となること
公表イメージ
最終的な公表のイメージは次のとおりです。
従業員の区分 | 男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合) ※小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで表示する |
全従業員 | XX.X% |
正社員 | YY.Y% |
パート・有期契約従業員 | ZZ.Z% |
【付記事項(例)】※計算の前提とした重要事項(対象期間、対象労働者の範囲、賃金の範囲など)を付記する。対象期間については、記載が必須とされる。
- 対象期間:令和4事業年度(令和4年4月1日から令和5年3月31日まで)【必須】
- 正社員の定義:会社外への出向者を除く
- パート・有期契約従業員の定義:契約社員、アルバイト、パート、嘱託を含み、派遣社員を除く
- 賃金の定義:基本給、超過労働に対する報酬、賞与等を含み、退職手当、通勤手当を除く
男女の賃金差異の算出手順
男女の賃金差異の具体的な算出方法・手順については、厚生労働省の資料「男女の賃金の差異の算出方法等について(解説資料)」(令和4年7月29日)において、次のとおり記載されています。
男女の賃金差異の算出手順
- 自社の従業員を「男性・女性」および「正規・非正規」の4種類に分類する
- 4種類の従業員それぞれについて、対象事業年度の総賃金と人員数を算出する
- 4種類の従業員それぞれについて、平均年間賃金を算出する。
- 正規・非正規の総賃金・人員数を利用して、全ての従業員の年間平均賃金を男女別に算出する
- 「正規」「非正規」「全労働者」の3区分ごとに、「(女性の平均年間賃金)÷(男性の平均年間賃金)」により、割合(パーセント)を算出し、公表する
【1】自社の従業員を「男性・女性」および「正規・非正規」の4種類に分類する
これは、男女の賃金の差異については、従業員を「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3つに区分して公表することが必要であることに対応するためです。
なお、それぞれの定義は、次のとおりです。
項目 | 定義 |
正規雇用労働者 | 期間の定めなくフルタイム勤務する労働者 |
非正規雇用労働者 | ・パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)に比べて短い労働者) ・有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者) |
全労働者 | 「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の合計 |
なお、派遣社員については派遣元の会社においてカウントし、派遣先の会社における非正規雇用労働者には含めないことに留意する必要があります。
まず、上記の定義に基づき、自社の従業員を「男性・女性」および「正規・非正規」の4種類に分類します。
(例)
雇用形態 | 性別 |
正規雇用 | 男性 |
女性 | |
非正規雇用 | 男性 |
女性 |
【2】4種類の従業員それぞれについて、対象事業年度の総賃金と人員数を算出する
(例)従業員数が600人の会社で、対象事業年度の総賃金が23億9千万円の場合(以下同じ)
雇用形態 | 性別 | 対象事業年度の総賃金 (①) | 人員数 (②) |
正規雇用 | 男性 | 15億円 | 300人 |
女性 | 6億円 | 150人 | |
非正規雇用 | 男性 | 2億円 | 100人 |
女性 | 9,000万円 | 50人 |
総賃金の算出
「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として会社が従業員に支払うすべてのものをいうとされてます。
ただし、退職手当は、年度を超える労務の対価という性格を有すること、また、通勤手当は、経費の実費弁償という性格を有することから、個々の会社の判断により、それぞれ「賃金」から除外する取扱いとして差し支えありません。
人員数の算出
「人員数」については、随時増減するものであることから、どの時点を捉えて算出するかが問題となります。
この算出方法については、法律上は細かな定めがなく、厚生労働省の解説資料によると「対外的に説明責任を果たし得るよう、適切な数え方を採用すること」とされているに留まります。
少なくとも、従業員数の算出方法については、男性と女性とで統一する(異なる数え方をしないこと)とともに、今後の公表を繰り返し行う上で、一貫性のある方法を継続して用いる必要があるとされています。
例えば、対象事業年度の期首から期末までの連続する12ヵ月の各月のうち、特定の日(給与の支払日、月の末日など)における従業員数の平均値を用いることなどが考えられます。
さらに、パート従業員(非正規雇用)については、正社員(正規雇用)の所定労働時間などを参考として、人員数を換算することも差し支えないとされています。
これは、月に20日働く従業員と10日しか働かない従業員、あるいは1日の所定労働時間が8時間の会社において、1日4時間しか働かない従業員について、はたして同じ「1人」としてカウントすべきなのかどうか、という問題があるためです。
【3】4種類の従業員それぞれについて、平均年間賃金を算出する。
(例)
雇用形態 | 性別 | 対象事業年度の総賃金 (①) | 人員数 (②) | 平均年間賃金 (①÷②) |
正規雇用 | 男性 | 15億円 | 300人 | 500万円 |
女性 | 6億円 | 150人 | 400万円 | |
非正規雇用 | 男性 | 2億円 | 100人 | 200万円 |
女性 | 9,000万円 | 50人 | 180万円 |
【4】正規・非正規の総賃金・人員数を利用して、全ての従業員の年間平均賃金を男女別に算出する
(例)
雇用形態 | 性別 | 対象事業年度の総賃金 (①) | 人員数 (②) | 平均年間賃金 (①÷②) |
正規雇用 | 男性 | 15億円 | 300人 | 500万円(b) |
女性 | 6億円 | 150人 | 400万円(a) | |
非正規雇用 | 男性 | 2億円 | 100人 | 200万円(d) |
女性 | 9,000万円 | 50人 | 180万円(c) | |
全労働者 | 男性 | 17億円 | 400人 | 425万円(f) |
女性 | 6億9,000万円 | 200人 | 345万円(e) |
【5】「正規」「非正規」「全労働者」の3区分ごとに、「(女性の平均年間賃金)÷(男性の平均年間賃金)」により、割合(パーセント)を算出し、公表する
(例)
項目 | 男女の賃金の差異 |
正規雇用労働者 | 80.0%(a÷b×100) |
非正規雇用労働者 | 90.0%(c÷d×100) |
全労働者 | 81.2%(e÷f×100) |
男女の賃金の差異はパーセントで表記し、小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで表示します。