「扶養の範囲内で働く」とは?税金・社会保険の「年収の壁」を解説
- 1. はじめに
- 1.1. はじめに
- 1.2. 前提条件
- 2. 税金・社会保険における「扶養」の違い(全体像)
- 2.1. 税金・社会保険における「扶養」の違い
- 2.2. 税金における扶養で得をするのは「夫」
- 2.3. 社会保険における扶養で得をするのは「妻」
- 3. 税金における扶養
- 3.1. 税金(所得税)の仕組み
- 3.2. 配偶者控除
- 3.2.1. 配偶者控除とは
- 3.2.2. 配偶者控除が認められるための年収要件
- 3.3. 配偶者特別控除
- 3.3.1. 配偶者特別控除とは
- 3.3.2. 配偶者控除が認められるための年収要件
- 3.3.3. 201万円の壁
- 4. 社会保険における扶養
- 4.1. 社会保険の仕組み
- 4.2. 健康保険の扶養
- 4.3. 厚生年金保険
- 4.4. 扶養に入るための年収要件(130万円の壁)
- 5. 社会保険における「106万円の壁」
- 5.1. 夫の扶養から外れる場合
- 5.2. 短時間労働者に対する社会保険の適用
- 5.3. 106万円の壁
- 6. 扶養における「年収」の捉え方
- 6.1. 税金における年収
- 6.2. 社会保険の場合
- 6.3. 106万円(月額8万8千円)を判断する際の賃金
- 7. まとめ
はじめに
はじめに
「扶養」とは、一般に、親族間で生活の面倒をみる、経済的な援助をすることを意味します。
扶養する親族がいる場合には、その分家計の負担が増えることを考慮して、税金、社会保険において、それぞれ優遇を受けることができる制度が設けられています。
税金・社会保険において共通することは、「扶養している」と認定されるためには、扶養される側が一定の年収以下であることが要件となっていることから、その基準となる年収のことを「何万円の壁」ということがあります。
この記事では、税金・社会保険において「扶養の範囲内で働く」ことにより、誰に、どのようなメリットがあるのか、そして扶養に入るための要件(年収の壁)について、整理して解説します。
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前提条件
この記事では、基本的な内容を中心に説明するために、前提条件を次のとおりとします。
前提条件
- 夫(扶養する側)…会社員(正社員)として働いていて、給与収入は年間1,095万円以下
- 妻(扶養される側)…パートとして働いている、60歳未満の主婦
- 夫と妻は、同居し、生計を共にしている
夫の年収が上記を超える場合、妻が自営業、60歳以上である場合には、税金・社会保険における要件が異なる場合がありますので、ご留意ください。
税金・社会保険における「扶養」の違い(全体像)
税金・社会保険における「扶養」の違い
まず、一言に「扶養」といっても、「税金」における扶養と、「社会保険」における扶養の2つがあり、両者はまったく別の話といえます。
それぞれにおいて、「誰が、どのように得をするのか」が異なり、また扶養として認められるための要件(年収の壁)も異なりますので、扶養を正しく理解するためには、両者を区別して理解することが重要です。
税金における扶養で得をするのは「夫」
税金における扶養においては、扶養「する」側である「夫」が税金面で優遇を受けることができます。
夫は、その収入に応じて所得税(および住民税)を納めますが、扶養する配偶者(妻)がいる場合には、その家計負担を考慮して税金を計算することができることによって、「夫」が納める所得税の額が少なくなるという「得」が生じます。
社会保険における扶養で得をするのは「妻」
社会保険における扶養においては、扶養「される」側である「妻」が社会保険面で優遇を受けることができます。
社会保険とは、健康保険と厚生年金保険をいいます。
本来、社会保険について、妻は自分で加入して、社会保険料を納める必要があります。
しかし、妻の収入が少ない場合には、夫が会社で加入している社会保険の扶養に入ることにより、夫が納めている社会保険料をもって、妻の社会保険料も納めたことになる、というメリットが生じます。
このとき、夫が納める社会保険料の額は、扶養の有無によって変わらないため、妻にとっては、いわば無料で社会保険に加入することができ、社会保険料を納める必要がなくなります。
つまり、この場合、「妻」にとって社会保険料の納付が不要になる、という「得」が生じます。
税金における扶養
税金(所得税)の仕組み
所得税は、収入に対して、そのまま税率をかけるのではなく、収入から、税法上認められている経費を差し引いた(これを「控除」といいます)後の金額(これを「所得」といいます)に対して、税率をかけて税額を決定する仕組みになっています。
つまり、収入から控除される額が多いほど、所得が減ることから、その分、納める税金も少なくなります。
配偶者控除
配偶者控除とは
収入から控除できる項目のひとつが、配偶者(妻)を扶養している場合に認められる「配偶者控除」であり、最大で「38万円」の控除が認められます。
最大38万円の配偶者控除が認められるのは、夫の給与収入が1,095万円以下の場合であり、控除額は、夫の収入・所得に応じて次のとおり段階的に少なくなります。
夫の収入・所得 | 控除額(70歳未満) |
給与収入1,095万円 (所得900万円以下) | 38万円 |
給与収入1,145万円 (所得900万円超950万円以下) | 26万円 |
給与収入1,195万円以下 (所得950万円超1,000万円以下) | 13万円 |
配偶者控除が認められるための年収要件
配偶者控除は、妻の給与収入が年間103万円以下の場合には、夫の税金の計算において、最大で「38万円」の控除が認められます。
つまり、税金において「扶養に入る(または外れる)」というのは、言い換えると、夫の所得税の計算において、「配偶者控除が認められる(または認められない)」ということを意味します。
妻の年収103万円という水準が、配偶者控除の有無に影響を与えることから、これを「103万円の壁」ということがあります。
配偶者特別控除
配偶者特別控除とは
配偶者控除に加えて、2018年(平成30年)に法律の改正があり、新たに「配偶者特別控除」が認められることとなりました。
この配偶者特別控除も、配偶者控除と同じく、最大で「38万円」の控除が認められます。
配偶者控除が認められるための年収要件
配偶者特別控除は、妻の給与収入が年間150万円以下の場合に、夫の税金の計算において、最大で「38万円」の控除が認められます。
最大38万円の控除を受けるためには、配偶者控除と同様に、夫の給与収入が1,095万円以下であることが要件とされていますが、このことは、夫の給与収入が1,095万円以下である場合には、妻の年収が150万円以下であるうちは38万円の控除を受けることができることを意味します。
つまり、「103万円の壁」は、配偶者特別控除により、実質的には「150万円の壁」に引き上げられているということができます。
201万円の壁
配偶者特別控除は、妻の年収が150万円を超えると、まったく控除を受けることができなくなる(控除額が0円になる)ものではありません。
妻の年収が150万円を超えると、その増加した収入額に応じて、控除額は段階的に減っていき、201.6万円以上になった時点で、控除額は0円になります。
夫の給与収入が1,095万円以下の場合に認められる配偶者特別控除の額は、次のとおりです。
妻の給与収入 | 配偶者特別控除の額 |
150万円以下 | 38万円 |
150万円超155万円以下 | 36万円 |
155万円超160万円以下 | 31万円 |
(略) | (略) |
197.2万円超201.6万円未満 | 3万円 |
201.6万円以上 | 0円 |
配偶者特別控除を最大限(38万円)受けることができる妻の年収を「150万円の壁」といい、配偶者特別控除が適用されなくなる(控除額が0円になる)妻の年収を「201万円の壁」ということがあります。
社会保険における扶養
社会保険の仕組み
「扶養」が関係する社会保険には、「健康保険」と「厚生年金保険」の2つがあります(なお、広い意味での社会保険には「雇用保険」や「労災保険」がありますが、扶養という概念はありません)。
前述のとおり、本来、社会保険については妻が自分で加入して、社会保険料を納める必要があります。
しかし、妻の収入が少ない場合には、夫が会社で加入している社会保険の扶養に入ることにより、夫が納めている社会保険料をもって、妻の社会保険料も納めたことになる、というメリットが生じます。
健康保険の扶養
健康保険には、病院などの医療機関で、かかった治療費について自己負担額が3割になる「療養の給付」などの給付があります。
基本的には、扶養に入ったとしても同じ給付を受けることができますが、「傷病手当金」については、被保険者本人が病気やケガにより働くことができなくなった際の生活保障であることから、被扶養者(妻)には支給されません。
厚生年金保険
年金制度は、老齢・障害・死亡によるリスクから、国民の生活を保障するためにあります。
年金制度は、2階建てで構成されており、日本国内に住んでいる国民(原則として、20歳以上60歳未満)はすべて「国民年金」に加入し、保険料を納める必要があります(年金制度の1階部分)。
「厚生年金保険」は、国民年金に上乗せされる形で、会社員や公務員などの被用者を対象にした制度です(年金制度の2階部分)。
会社員である夫は、会社を通じて厚生年金保険の保険料を納めますが、この保険料には、国民年金の保険料も含まれています。
妻は、夫の扶養に入ることで、自身の健康保険料と国民年金保険料を納める必要がなくなります。
ただし、厚生年金保険については、扶養に入ることはできず、あくまで夫のみが加入していることになるため、妻の年金額を増やしたい場合には、妻は扶養から外れて、自分で厚生年金に加入する必要があります。
扶養に入るための年収要件(130万円の壁)
社会保険において、妻が夫の扶養に入るための要件は、次のとおりです。
社会保険の扶養要件
- 3親等内の親族であること
- 年間収入が130万円未満(※)、かつ、扶養する側の年収の2分の1未満であること
(※)60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満
なお、税金面の扶養とは異なり、扶養する側(夫)の年収要件はありません。
妻が夫の加入している社会保険の扶養に入るためには、妻の収入要件として130万円未満であることが必要となることから、これを「130万円の壁」ということがあります。
社会保険における「106万円の壁」
夫の扶養から外れる場合
妻は、年収が130万円未満であっても、自分の勤め先において一定の要件に該当する場合には、夫の扶養から外れて、自ら社会保険に加入する義務が生じる場合があります。
この要件に該当すると、「扶養に入る・入らない」という選択をする余地はなくなり、妻は自分の勤め先の社会保険に強制的に加入する必要があります。
短時間労働者に対する社会保険の適用
パートなど短時間労働者に対する、社会保険の被保険者資格の要件は、以下のとおりです。
すべての要件を満たすことにより、妻は自分の勤め先の会社を通じて社会保険に加入する(被保険者となる)必要があります。
社会保険の被保険者資格の取得要件
- 特定適用事業所に使用されていること
- 報酬の月額が88,000円以上であること
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が2ヵ月を超えることが見込まれること
- 学生でないこと
1.の要件である「特定適用事業所」とは、社会保険の被保険者数(従業員数ではありません)が、常時101人以上の事業所をいいます。
さらに、2024(令和6)年10月以降は、社会保険の被保険者数が、常時51人以上の事業所が対象となります。
106万円の壁
2.の要件である月額88,000円を年収に換算する(12倍する)と、約106万円になるため、これを「106万円の壁」ということがあります。
つまり、妻はたとえ年収が130万円未満であって、夫の社会保険の扶養に入る要件を満たしていたとしても、年収が106万円を超えることにより、妻が勤めている会社において、自分で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しなければならない義務が生じる場合があることに留意する必要があります。
扶養における「年収」の捉え方
扶養に入るための年収要件について、税金と社会保険とでは、年収の把握の仕方が異なります。
税金における年収
税金における年収は、1月1日から12月31日まで(暦年)の実績額をいいます。
つまり、年末から振り返って、「過去」の収入額の実績で判断します。
また、税金の計算における収入には、通勤手当(ただし非課税限度額まで)、失業手当などを含みません。
社会保険の場合
社会保険における年収は、妻が扶養に入る時点において、その後の見込みの額をいいます。
いわば「将来」の収入を基準にする点が、税金における扶養と異なります。
例えば、会社員として働いていた妻が、6月末日で退職し、7月から夫の扶養に入る場合には、退職まで(6月末日まで)の収入は考慮せず(退職時点ですでに130万円を超えていたとしても)、夫の扶養に入った後、7月以降にいくらの収入が見込まれるのかで判断します。
また、この収入には、交通費(通勤手当)、失業給付(雇用保険)、傷病手当金・出産手当金(健康保険)を含みます。
ただし、妻が扶養に入るかどうかの判断は、あくまで社会保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合など)が行うことに留意する必要があります。
例えば、夫が大企業や官公庁に勤めていて、健康保険組合に加入している場合には、その組合が定めている規約の内容によっては、扶養の判断が異なる場合があるため、事前に確認をする必要があります。
106万円(月額8万8千円)を判断する際の賃金
106万円の要件を判断するための賃金には、最低賃金法で賃金に参入されないものは除くこととされています。
例えば、賞与、割増賃金(残業手当、休日出勤手当など)、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは含まれません。
この点が扶養に入るための年収の把握方法と異なるため、妻は自分の勤務先に確認しておく必要があります。
まとめ
一般論としては、妻の年収を130万円未満に留めておくことにより、税金・社会保険の双方において、扶養のメリットを享受することができるといえます。
ただし、妻の勤め先における社会保険の加入要件を確認する必要があり、場合によっては、社会保険における扶養に入るために、妻の年収を106万円以下に留めておく必要があります。