【NPO法人の労務管理】労働基準法の適用・社会保険の加入などについて解説

はじめに

NPO法人は、NPO法に基づいて設立された特殊な法人ではありますが、「労務管理」という観点から見れば、株式会社など他の法人と適用される法律は基本的に同じであり、他の法人と同様に労務管理を行う必要があります

しかし、NPO法人は、その掲げる理念の実現のために存在し、その働きがボランティアと同視されやすいこともあり、労務管理の必要性を認識しにくく、その取り組みへの優先順位が低い場合があります。

NPO法人であっても、人の集合体である以上、労務管理を疎かにしていれば、いずれ事業運営は立ち行かなくなることから、労働基準法や社会保険について、正しい知識と取り組みが必要となります。

NPO法人とは?

NPO法人」とは、「特定非営利活動促進法」(NPO法)に基づいて、認証を受けて法人として設立された団体をいいます。

「非営利活動」とは、無償のボランティア活動を行うという意味ではなく、NPO法人であっても事業活動(物品の販売など)をして事業収益を上げる(利益を得る)ことは可能です。

ただし、事業活動によって得た利益については、株式会社などのように株主に配当する(分配する)ことは認められず、当該利益は次の事業活動のための活動資金とする必要がある点に大きな特徴があります。

NPO法人として認証されるためには、「特定非営利活動」を行う法人である必要がありますが、「特定非営利活動」とは、NPO法で掲げられる20種類の活動内容に該当し、かつ不特定多数の人々のためになる活動(広く社会一般の利益になる活動)を行うことを目的とする必要があります。

NPO法人の「役員」「社員」「職員」と労働基準法の適用

NPO法人を設立する際には、その組織の役員として、「理事」と「監事」を選任したうえで、「社員」が必要となります。

役員

NPO法人は、役員として「理事」と「監事」を選任する必要があります。

これらは、株式会社における取締役や監査役と類似する役割を担います。

理事は3人以上、監事は1人以上選任する必要があり、最低でも4人以上の役員の選任が必要になります(特定非営利活動促進法第15条)。

役員は、法律上はNPO法人との間で委任契約を締結しており、労働基準法上の労働者には該当しないため、原則として、労働基準法の適用を受けません

ただし、役員でありながら、例えば現場に赴き、スタッフとしても働く場合(「使用人兼務役員」などといいます)には、労働基準法上の労働者に該当する場合があります。

また、形式的には役員とされていても、実態としては労働者であるという場合にも、労働基準法の適用を受けることに留意する必要があります。

社員

NPO法人は、最低でも10人以上の「社員」を選任する必要があります(特定非営利活動促進法第10条第1項第三号)。

NPO法人における「社員」は、株式会社などにおける「従業員としての社員」(いわゆる会社員)とは異なるもので、社員総会で議決権をもつ、NPO法人の構成メンバーをいいます。

社員は、NPO法人を運営するうえで重要な意思決定に参加する役割を担っており、必ずしもNPO法人に雇用されるものではないため、原則として、労働基準法の適用を受けません。

職員

株式会社などにおける従業員は、NPO法人においては「職員」といわれ、NPO法人と雇用契約を締結して雇用される職員については、株式会社など他の法人における従業員と同様に、労働基準法などの労働関係法規が適用されます

その他(業務委託契約)

その他、NPO法人の活動において、ある業務を外部の第三者(個人事業主、フリーランスなど)に委託する場合があります。

その際、業務委託契約を締結することになりますが、業務委託契約は雇用契約とは異なり、労働基準法などの労働関係法規は適用されません。

「有償ボランティア」と労働基準法

NPO法人が事業を行うためには資金が必要であり、その収入源のひとつとして、寄付金を集めることがあります。

その際、金銭による寄付以外にも、NPO法人の活動に賛同する人からの労働や物の提供なども広義の寄付といえます。

そして、労働を有償で提供する場合において、通常の賃金相場よりも低い額を謝礼程度に渡すことを、「有償ボランティア」(労働力の寄付)ということがあります。

しかし、表向きは「有償ボランティア」とされていても、実態として、労働基準法上の労働者に該当する場合(NPO法人の指揮監督下にあること、報酬が労務の対償として支払われるなど)には、労働基準法などの労働関連法規が適用され、例えば、最低賃金に満たない報酬を支払うことなどが認められないことに留意する必要があります。

労働基準法が適用される場合

NPO法人の職員などについて労働基準法が適用される場合には、NPO法人について特有の法律や制度があるものではないため、株式会社など他の法人の例を参照して、法律の内容を確認してください。

適用される労働基準法として、例えば、次の内容があります。

労働条件通知書(雇用契約書)

NPO法人が職員を雇用する場合には、その雇入れの際に、職員の労働時間や賃金など重要な労働条件を記載した「労働条件通知書」を作成し、職員に交付する必要があります(労働基準法第15条)。

法定労働時間

NPO法人における職員の労働時間は、原則として1日8時間、1週間40時間以内とする必要があります(労働基準法第32条)。

職員がこれを超えて働いた場合には、会社はその時間に対して25%以上を割増した賃金(割増賃金)を支給する必要があります(労働基準法第37条)。

また、職員が法定労働時間を超えて働く場合には、NPO法人は、職員の過半数代表者との間で36(さぶろく)協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第36条)。

休憩時間

NPO法人は、職員について、労働時間が1日6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える必要があります(労働基準法第34条)。

休日

NPO法人は、職員に対して毎週少なくとも1日の休日(法定休日)を与える必要があります(労働基準法第35条)。

ただし、4週間を通じて4日以上の休日を与えることも認められます。

有給休暇

NPO法人は、職員について入社後6ヵ月が経過し、その労働日の8割以上出勤した場合には、少なくとも10日の有給休暇を与える必要があります(労働基準法第39条)。

最低賃金

NPO法人においても、株式会社など他の法人と同様に、最低賃金法が適用されるため、各都道府県における最低賃金を下回らない賃金を支払う必要があります。

就業規則の作成

一つの事業場において、職員が常時10人以上いる場合には、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第89条)。

「就業規則」とは?作成義務・記載内容・届出手続などをわかりやすく解説

社会保険・労働保険への加入

NPO法人においても、職員を雇用して事業運営を行うときは、株式会社など他の法人と同様に、社会保険(厚生年金保険・健康保険)や労働保険(労災保険・雇用保険)に加入する義務があります。

社会保険制度においては、NPO法人について特有の法律や制度があるものではないため、株式会社など他の法人の例を参照して、社会保険への加入要件を確認してください。

ここでは、NPO法人における、役員の労働保険について解説します。

理事の労災保険への加入

労災保険は、主に業務上(勤務中)におけるケガや病気に対する治療費などを保障する保険であることから、業務に従事することのない理事には、原則として適用されません。

しかし、NPO法人においては、役員である理事が賃金を得て働くことも可能であり、例えば、介護事業所のNPO法人において、理事自身もヘルパーなどとして業務に従事することがあります。

このように、理事自身が業務に従事して賃金を得る場合には、労災保険の加入要件を満たす場合があります

また、NPO法人の代表者である理事は、株式会社など他の法人と同様に「特別加入」という制度によって、労災保険に加入することもできます。

理事の雇用保険への加入

理事は原則として雇用保険に加入することはできませんが、その実態として、職員と同様に業務に従事している場合には、雇用保険に加入することができる場合があります。

理事が雇用保険に加入するためには、公共職業安定所(ハローワーク)にて、「兼務役員雇用実態証明書」を提出する必要があります。

ただし、NPO法人の代表者である理事は、雇用保険に加入することはできません。

監事の社会保険・労働保険への加入

NPO法人の監事は、株式会社における監査役と同様に、独立的な立場から、理事を監督し、法人の財産の状況を監査する必要があります。

そこで、監事は理事を兼任することはできず、NPO法人の職員になることはできないとされています(なお、社員を兼任することはできます)。

したがって、監事について、社会保険・労働保険に加入することはできません