【法改正】2023(令和5)年4月以降の労務関連の法改正スケジュール一覧

目次

はじめに

この記事では、2023(令和5)年4月以降に予定されている、労務管理に関連する法改正のスケジュールについて、まとめています。

なお、本記事の内容は、2023年1月1日時点で公表されている情報を元に作成しています。

法改正の最新情報については、厚生労働省のWEBサイトなどをご参照ください。

【関連動画はこちら】

2023(令和5)年4月以降の法改正スケジュール

2023(令和5)年4月以降に予定される、労務管理に関連する主な法改正は、次のとおりです。

2023(令和5)年4月以降の主な法改正

  1. 中小企業の割増賃金率の引き上げ【2023(令和5)年4月1日施行】
  2. 給与のデジタルマネー払いの解禁【2023(令和5)年4月1日施行】
  3. 育児休業取得状況の公表義務化【2023(令和5)年4月1日施行】
  4. 医師の時間外労働の上限規制【2024(令和6)年4月1日施行】
  5. 建設業の時間外労働の上限規制【2024(令和6)年4月1日施行】
  6. 運送業(自動車運転者)の時間外労働の上限規制【2024(令和6)年4月1日施行】
  7. 改善基準告示(運送業)の改正【2024(令和6)年4月1日施行】
  8. 短時間勤務の障害者の実雇用率の算定基準【2024(令和6)年4月1日施行】
  9. 健康保険・厚生年金保険の適用拡大【2024(令和6)年10月1日施行】
  10. 高年齢雇用継続給付の支給率の引き下げ【2025(令和7)年4月1日施行】

中小企業の割増賃金率の引き上げ【2023(令和5)年4月1日施行】

法改正の概要

2023(令和5)年4月1日施行の労働基準法の改正により、中小企業においては、1ヵ月60時間を超える法定時間外労働に対する割増率が、現行の25%以上から50%以上に引き上げられます(労働基準法第37条)。

大企業においては、2010(平成22)年4月1日の法改正により、すでに法律が適用されていましたが、中小企業においては、当分の間、その適用が猶予されていました。

2023(令和5)年4月1日以降は、会社の業種・規模・従業員数などを問わず、同じ割増率が適用されることとなります。

法改正の詳細は、次の記事をご覧ください。

【2023年改正】中小企業における60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ(50%)について解説

中小企業の定義

下表において、「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する従業員数」のうち、いずれかに該当する場合は、中小企業に該当します。

業種資本金の額または出資の総額常時使用する従業員数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他(上記以外)3億円以下300人以下

法改正前後の割増率

割増賃金率について、残業の区分ごとに整理すると、下表のとおりです。

 残業の区分引き上げ前の割増率
(2023年3月31日まで)
引き上げ後の割増率
(2023年4月1日以降)
法定内残業法定労働時間(1日8時間・1週間40時間)の範囲内割増不要(通常の賃金)割増不要(通常の賃金)
法定時間外労働①法定労働時間超・60時間以内25%以上25%以上
法定時間外労働②法定労働時間超・60時間超25%以上50%以上

代替休暇の付与

「代替休暇」とは、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超えた場合に、その超える分の割増賃金(割増率が50%になる部分)の一部の支払いに代えて、相当の休暇を与えることにより、割増賃金の支払いを免れることができる制度です(労働基準法第37条第3項)。

代替休暇は、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超える場合に利用できる制度として、大企業では2010(平成22)年4月1日からすでに適用されていますが、2023(令和5)年4月1日以降は中小企業においても制度を利用することが可能になります。

長時間労働をした従業員の心身への配慮、および割増賃金率の引き上げに伴う人件費の削減を目的として、代替休暇を利用することが考えられます。

給与のデジタルマネー払いの解禁【2023(令和5)年4月1日施行】

一般的に、会社から従業員に対する給与(賃金)の支払いは、従業員の指定する銀行口座に振り込むことによって行われています。

これに対して、2023(令和5)年4月1日施行の法改正により、一定の要件を満たす場合には、給与を「デジタルマネー(電子マネー)」で支払う(正確には、従業員のもつ資金移動業者の口座に振り込む)ことが認められることとなりました(労働基準法施行規則第7条の2)。

会社がデジタルマネーによって給与を支払うことができるのは、第二種資金移動業者のうち、厚生労働大臣の指定を受けた「指定資金移動業者」が取り扱うデジタルマネーに限られます(労働基準法施行規則第7条の3)。

法改正の詳細は、次の記事をご覧ください。

【2023年法改正】「デジタルマネー(電子マネー)」による給与(賃金)の支払いについて解説

育児休業取得状況の公表義務化【2023(令和5)年4月1日施行】

常時雇用する従業員数が1,000人を超える会社は、年に1回、男性の育児休業の取得状況を公表することが義務付けられます

公表する内容は、次の1.または2.のいずれかを選択し、自社のホームページまたは厚生労働省の運営するウェブサイト「両立支援のひろば」など、インターネットを利用して公表します。

公表する内容

  1. 男性の育児休業等の取得率
  2. 男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率

男性の育児休業等の取得率

育児休業等の取得率は、会社が雇用する男性従業員について、「公表前の事業年度中に、配偶者が出産した者の数」に対する、「公表前の事業年度中に、育児休業等を取得した者の数」の割合をいいます。

男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率

育児休業等と育児目的休暇の取得率は、会社が雇用する男性従業員であって、「公表前の事業年度中に、配偶者が出産した者の数」に対する、「公表前の事業年度中に、育児休業等を取得した者の数」と、「小学校就学前の子を養育する従業員に向けた、育児を目的とした休暇制度(育児休業等及び子の看護休暇を除く)を利用した者の数」の合計人数との割合をいいます。

医師の時間外労働の上限規制【2024(令和6)年4月1日施行】

時間外労働の上限に関する一般原則(一般の業種)

労働基準法の定める法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えて働くことを「法定時間外労働」といいます。

法定時間外労働は、36(さぶろく)協定を締結することにより、原則として月45時間以内・年360時間以内を上限として行うことが認められます。

ただし、臨時的な特別の事情がある場合には、月100時間未満(休日労働を含む)、2~6ヵ月平均で80時間以内(休日労働を含む)、年720時間以内(休日労働を含まない。月45時間を超えることができるのは、1年のうち6ヵ月以内)を上限に働くことが認められます。

医師への適用猶予の終了

一般の業種については、大企業は2019(令和元)年4月1日から、中小企業は2020(令和2)年4月1日から、上限規制が適用されていますが、医師については、2024(令和6)年3月31日まで上限規制の適用が猶予されていました。

そして、2024(令和6)年4月1日以降は、医師について、3つの分類に基づく上限規制が適用されます

原則の上限時間(月45時間以内・年360時間以内)については、一般の業種と同じです。

原則の上限時間を超える場合、一般の勤務医はA水準、地域医療確保のために長時間労働が必要となる医師はB水準、初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医などはC水準とされ、それぞれ次のとおり時間外労働の上限規制が適用されます。

水準対象時間外労働の上限
A水準医業に従事する一般の医師
(診療従事勤務医)
年960時間以内(休日労働含む)
月100時間未満(休日労働含む)(例外あり)
B水準(B、連携B)地域医療確保暫定特例水準
(救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関)
年1,860時間以内(休日労働含む)
月100時間未満(休日労働含む)(例外あり)
C水準(C-1、C-2)集中的技能向上水準
(初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や、高度技能獲得を目指すなど短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師)
年1,860時間以内(休日労働含む)
月100時間未満(休日労働含む)(例外あり)

いずれの水準についても、月の上限時間である100時間を超える場合には、「面接指導」と「就業上の措置」を実施することが義務付けられており、B水準およびC水準では、これに加えて「健康確保措置」を実施することが義務付けられます(A水準では努力義務)。

「健康確保措置」とは、月の上限時間を超えて働く医師に対して、28時間の連続勤務時間制限を設け、さらに勤務間インターバルを9時間確保したうえで、代償休息を付与する措置をいいます。

法改正の詳細は、次の記事をご覧ください。

【2024年法改正】医師の時間外労働の上限規制(36協定)の適用(医師の働き方改革)について解説

建設業の時間外労働の上限規制【2024(令和6)年4月1日施行】

時間外労働の上限規制(前述)について、建設業では2024(令和6)年3月31日までは適用が猶予されていましたが、2024(令和6)年4月1日以降は、建設業においても、一般の業種と同じく上限規制が適用されることとなります。

ただし、建設業のうち「災害の復旧・復興の事業」については、月100時間未満と、2~6ヵ月平均80時間以内の上限を適用しないこととされています。

運送業(自動車運転者)の時間外労働の上限規制【2024(令和6)年4月1日施行】

時間外労働の上限規制(前述)について、運送業では2024(令和6)年3月31日までは適用が猶予されていましたが、2024(令和6)年4月1日以降は、運送業においても、上限規制が適用されることとなります。

ただし、その内容は、一般の業種と比べて異なります。

 一般の業種運送業(自動車運転者)
原則・月45時間以内
・年360時間以内
・月45時間以内
・年360時間以内
特別条項・月100時間未満(休日労働を含む)
・2~6ヵ月平均で80時間以内(休日労働を含む)
・年720時間以内(月45時間超は6ヵ月まで)
年960時間以内

運送業の年間の上限時間(960時間)については、一般の業種と異なり、月45時間超の時間外労働を6ヵ月までとする規制は適用されません。

なお、運送業であっても、運行管理者、事務職、整備・技能職、倉庫作業職等、ドライバー以外の業務に従事する従業員は、一般の業種の上限規制に従う必要があります。

改善基準告示(運送業)の改正【2024(令和6)年4月1日施行】

運送業においては、時間外労働の上限規制の適用と同じ2024(令和6)年4月1日に、改善基準告示が改正されるため、併せて対応が必要となります。

「改善基準告示」とは、正式には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」として、トラックなどの自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため、1989(平成元)年に大臣告示として制定された基準をいいます(平成元年労働省告示第7号)。

タクシー・バス・トラックの業態の違いによって基準の内容は異なりますが、共通した改正点としては、拘束時間が短縮され、休息期間が延長されています。

法改正の詳細は、次の記事をご覧ください。

【2024年改正】運送・物流業の改善基準告示(タクシー・トラック・バス)の改正と2024年問題について解説

拘束時間(始業から終業までの時間(休憩時間含む))

 改正前改正後
トラック・年3,516時間以内
・月293時間以内
・1日原則13時間以内(最大16時間/15時間超は週2回まで)
・年3,300時間以内
・月284時間以内
・1日原則13時間以内(最大15時間/14時間超は週2回まで)
(※1)長距離貨物運送の例外あり
バス・4週平均で1週65時間以内(年換算すると年3,380時間、月換算すると月281時間)
・1日原則13時間以内(最大16時間/15時間超は週2回まで)
・①②のいずれかを選択
①年3,300時間かつ月281時間以内
②4週で平均1週65時間以内(現行どおり)
・1日原則13時間以内(最大15時間/14時間超は週3回まで)
タクシー(日勤)・月299時間以内
・1日原則13時間以内(最大16時間)
・月288時間以内
・1日原則13時間以内(最大15時間/14時間超は週3回まで)

(※1)長距離貨物運送の例外

トラックによる長距離貨物運送については、1日の拘束時間について例外が設けられました。

1週間における運行がすべて長距離貨物運送であり、かつ一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合には、例外が認められ、1日の拘束時間を16時間まで延長することが認められます(ただし、1週間に2回まで)。

休息期間(勤務と勤務の間の時間)

 改正前改正後
トラック継続8時間以上継続9時間以上
(11時間以上与えるよう努める)
(※2)長距離貨物運送の例外あり
バス継続8時間以上継続9時間以上
(11時間以上与えるよう努める)
タクシー(日勤)継続8時間以上継続9時間以上
(11時間以上与えるよう努める)

(※2)長距離貨物運送の例外

トラックによる長距離貨物運送については、1日の休息期間について例外が設けられ、1日の休息期間を継続8時間以上とする(拘束時間は最大16時間)ことが認められます(ただし、1週間に2回まで)。

ただし、この場合、一の運行終了後、継続12時間以上の休息期間を与える必要があります。

運転時間

 改正前改正後
トラック2日平均:1日9時間以内
2週平均:1週44時間以内
現行どおり
バス2日平均:1日9時間以内
4週平均:1週40時間以内
(労使協定により、1週44時間まで延長可)
現行どおり
タクシー(日勤)

連続運転時間

 改正前改正後
トラック4時間以内
(運転の中断は1回10分以上、合計30分以上の運転離脱)
・現行どおり
(運転の中断は1回が概ね10分以上で、合計30分以上の原則休憩)
・SA・PA等に駐停車できない場合、4時間30分まで延長できる
バス4時間以内
(運転の中断は1回10分以上、合計30分以上)
現行どおり(高速道路は2時間以内とするように努める)
タクシー(日勤)

トラックの運転中断時間について、改正前は単に運転を離脱していれば、運転以外の作業(荷下ろしなど)や待機などの労働が可能でしたが、改正後は「原則休憩」に変更されました。

一方で、運転中断時間については、「1回10分以上」から「1回が概ね10分以上」の表現に変更されており、10分未満の運転の中断が3回以上連続しないようにする必要があります。

さらに、トラックについては、サービスエリア・パーキングエリアなどに駐停車スペースがなく、やむを得ず連続運転時間が4時間を超えてしまうケースがあることから、運送現場の実情を考慮して、このような場合には連続運転時間を4時間30分まで延長することを認めました。

短時間勤務の障害者の実雇用率の算定基準【2024(令和6)年4月1日施行】

国、地方公共団体、民間企業は、障害者雇用促進法に基づき、その雇用する従業員について一定の割合(法定雇用率)に相当する数以上の障害者を雇用することが義務付けられています(2023年現在の民間企業における法定雇用率は2.3%)。

1週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満の短時間勤務の障害者については、障害者雇用率の算定においては、1人あたり0.5人としてカウントします。

これまでは、1週間の所定労働時間が20時間未満であれば、障害者雇用率の算定においては雇用人数に含めることができませんでしたが、2024(令和6)年4月1日以降は、1週間の所定労働時間が10時間以上20時間未満の短時間勤務の障害者(ただし、精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者に限る)についても、実雇用率の算定において雇用人数に含めることができ、算定においては、1人あたり0.5人としてカウントします

健康保険・厚生年金保険の適用拡大【2024(令和6)年10月1日施行】

2024(令和6)年10月1日施行の法改正により、社会保険の被保険者数が51人以上の会社を対象に、正社員の4分の3に満たない時間働くパート・アルバイトなどであっても、以下の要件を満たす場合には、健康保険・厚生年金保険の被保険者として取り扱い、社会保険に加入することが義務付けられます。

短時間労働者の社会保険の加入要件

  1. 特定適用事業所に使用されていること
  2. 報酬が月額88,000円以上であること
  3. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  4. 雇用期間が2ヵ月を超えることが見込まれること
  5. 学生でないこと

1.の要件である「特定適用事業所」とは、2024(令和6)年9月30日までは、社会保険の被保険者数(従業員数ではありません)が常時101人以上の事業所をいい、2024(令和6)年10月1日以降は、社会保険の被保険者数が常時51人以上の事業所が該当することとなります。

高年齢雇用継続給付の支給率の引き下げ【2025(令和7)年4月1日施行】

60歳以上の従業員を再雇用する場合において、一定の要件(60歳時点の賃金額の75%未満)を満たした場合には、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が支給されます。

高年齢雇用継続給付は、65歳に到達するまでの期間において、60歳以後の各月の賃金の15%が支給されていますが、2025(令和7)年4月1日以降は、この給付率が15%から10%に引き下げられます