変形労働時間制(1ヵ月・1年単位)の残業時間(時間外労働)の把握方法について解説

はじめに

会社が1ヵ月単位の変形労働時間制、または1年単位の変形労働時間制を導入する場合には、当該制度を運用する期間においては、特定の日または週について、法定労働時間を超えて働くことが認められます。

このとき、残業時間(時間外労働)の把握の方法について、法定労働時間制による場合とは異なるため、注意を要します。

この記事では、1ヵ月単位および1年単位の変形労働時間制における、残業時間(時間外労働)の把握方法について、解説します。

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変形労働時間制における残業時間(時間外労働)の把握方法

変形労働時間制においても、あらかじめ定めた所定労働時間を超えて働いた場合には、残業時間(以下、「時間外労働」といいます)として、残業代(以下、「割増賃金」といいます)の支払いが必要となることがあります。

ただし、変形労働時間制は、法定労働時間制と比べて、時間外労働の把握の方法が異なります。

時間外労働を把握する手順としては、法定労働時間制による場合、時間外労働の把握は、「1日→1週」の順に行います

一方、変形労働時間制においては、時間外労働の把握は、「1日→1週→変形期間(対象期間)」の順に行います

「1日」単位の時間外労働の把握

法定労働時間制による場合(変形労働時間制を導入しない場合)

法定労働時間である1日8時間を超えて働く時間について、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。

一方、所定労働時間が法定労働時間に満たない場合(例えば、1日の所定労働時間が7時間の場合)には、所定労働時間を超えて法定労働時間まで働く時間(7時間を超え、8時間までの時間)については、所定外労働(法定内残業)として把握し、割増をしない通常の賃金を支払うこととなります。

変形労働時間制による場合

変形労働時間制においては、会社が定めた1日の所定労働時間が、法定労働時間以内であるのか、法定労働時間を超えるのかによって、時間外労働の把握方法に違いが生じます。

1日の所定労働時間が8時間以内の場合

変形労働時間制において、1日の所定労働時間を8時間以内とする場合は、法定労働時間制による場合と同じ取り扱いとなります。

つまり、1日8時間を超えて働く時間について、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。

例えば、1日の所定労働時間を6時間と定めた場合には、8時間を超えた時間について、(法定)時間外労働として把握し、割増賃金を支払う必要があります。

なお、1日の所定労働時間の6時間を超え、8時間までの間の時間に行われた、所定外労働(法定内残業)については、割増をしない通常の賃金を支払うこととなります。

1日の所定労働時間が8時間超の場合

変形労働時間制において、1日8時間を超える所定労働時間を定めた場合には、その「所定労働時間を超えた時間」について、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります(昭和63年1月1日基発1号)。

例えば、1日の所定労働時間を10時間と定めた場合で、1日に12時間働いた場合には、10時間を超える2時間が(法定)時間外労働となり、その時間について割増賃金を支払うこととなります。

「1週」単位の時間外労働の把握

法定労働時間制による場合(変形労働時間制を導入しない場合)

法定労働時間制による場合、時間外労働の把握は、「1日→1週」の順に行いますので、まずは「1日」単位で時間外労働を把握した後、「1週」単位で時間外労働を把握します。

法定労働時間である1週40時間を超えて働く時間について、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。

ただし、「1日」単位でみて、すでに時間外労働としてカウントされた時間を除くことに留意してください。

一方、所定労働時間が法定労働時間に満たない場合(例えば、1週の所定労働時間が35時間の場合)には、所定労働時間を超えて法定労働時間まで働く時間(35時間を超え、40時間までの時間)については、所定外労働(法定内残業)として把握し、割増をしない通常の賃金を支払うこととなります。

変形労働時間制による場合

変形労働時間制においては、時間外労働の把握は、「1日→1週→変形期間(対象期間)」の順に行いますので、まずは「1日」単位で時間外労働を把握した後、「1週」単位で時間外労働を把握します。

変形労働時間制においては、会社が定めた1週の所定労働時間が、法定労働時間以内であるのか、法定労働時間を超えるのかによって、時間外労働の把握方法に違いが生じます。

1週の所定労働時間が40時間以内の場合

変形労働時間制において、1週の所定労働時間を40時間以内とする場合は、法定労働時間制による場合と同じ取り扱となります。

つまり、1週40時間を超えて働く時間について、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。

ただし、「1日」単位でみて、すでに時間外労働としてカウントされた時間を除くことに留意してください。

例えば、1週の所定労働時間を35時間と定めた場合には、40時間を超えた時間について、(法定)時間外労働として把握し、割増賃金を支払う必要があります。

なお、1週の所定労働時間の35時間を超え、40時間までの間の時間に行われた、時間外労働(法定内残業)については、割増をしない通常の賃金を支払うこととなります。

1週の所定労働時間が40時間超の場合

変形労働時間制において、1週40時間を超える所定労働時間を定めた場合には、その「所定労働時間を超えた時間」について、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります(昭和63年1月1日基発1号)。

ただし、「1日」単位でみて、すでに時間外労働としてカウントされた時間を除くことに留意してください。

例えば、1週の所定労働時間を50時間と定めた場合で、1週に60時間働いた場合には、50時間を超える10時間が(法定)時間外労働となり、その時間について割増賃金を支払うこととなります。

労働時間の特例が認められる事業

1ヵ月単位の変形労働時間制では、労働時間の特例が認められる事業においては、週の法定労働時間である1週40時間について、「1週44時間」になります。

労働時間の特例が認められる事業とは、常時10人未満の従業員を使用する、商業(卸売業、小売業など)、映画・演劇業(映画製作業を除く)、保健衛生業(病院、診療所など)、接客娯楽業(旅館、飲食店など)をいいます。

当該事業に該当する場合には、前述の「40時間」は「44時間」と読み替えます。

なお、1年単位の変形労働時間制においては、労働時間の特例が認められる事業であっても、週の法定労働時間は「1週40時間」となります。

変形期間(対象期間)」単位の時間外労働の把握

変形労働時間制においては、時間外労働の把握は、「1日→1週→変形期間(対象期間)」の順に行いますので、まずは「1日」単位および「1週」単位で時間外労働を把握した後、最後に、「変形期間(対象期間)」単位で時間外労働を把握します。

変形期間(対象期間)とは?

「変形期間(対象期間)」とは、会社ごとに定める変形労働時間制の適用単位となる期間をいいます。

1ヵ月単位の変形労働時間制では、「1ヵ月以内の一定の期間」を「変形期間」として、当該期間内において、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(1週40時間、特例が適用される事業においては1週44時間)を超えないように所定労働時間を定めます。

また、1年単位の変形労働時間制では、「1ヵ月を超え、1年以内の期間」を「対象期間」として、当該期間内において、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(1週40時間)を超えないように所定労働時間を定めます。

1ヵ月単位の変形労働時間制の場合

1ヵ月単位の変形労働時間制においては、法定労働時間をもとに算出した「変形期間における労働時間の総枠」に収まるように、日々の所定労働時間を定めます。

そして、法定労働時間制における時間外労働の把握方法と異なり、「変形期間における労働時間の総枠」を超える時間についても、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります(昭和63年1月1日基発1号)。

ただし、「1日」および「1週」単位でみて、すでに時間外労働としてカウントされた時間を除くことに留意してください。

1ヵ月単位の総枠の法定労働時間を求める際の計算式は、次のとおりです。

変形期間における労働時間の総枠の計算式

40時間(1週間の法定労働時間)÷7日×変形期間の歴日数

この計算式によって計算すると、変形期間を1ヵ月とする場合、当該1ヵ月の労働時間の総枠は、次の表のようになります(小数点第2位以下を切捨)。

1ヵ月の歴日数労働時間の総枠
28日160.0時間
29日165.7時間
30日171.4時間
31日177.1時間

1年単位の変形労働時間制の場合

1年単位の変形労働時間制においては、法定労働時間をもとに算出した「対象期間における労働時間の総枠」に収まるように、日々の所定労働時間を定めます。

そして、法定労働時間制における時間外労働の把握方法と異なり、「対象期間における労働時間の総枠」を超える時間についても、(法定)時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります(昭和63年1月1日基発1号)。

ただし、「1日」および「1週」単位でみて、すでに時間外労働としてカウントされた時間を除くことに留意してください。

1年単位の総枠の法定労働時間を求める際の計算式は、次のとおりです。

対象期間における労働時間の総枠の計算式

40時間(1週間の法定労働時間)÷7日×対象期間の歴日数

対象期間を1年(365日)とする場合の労働時間の総枠は「2,085.7時間」となります(小数点第2位以下を切捨)。

したがって、対象期間の時間外労働の合計時間が、「2,085.7時間」を超える場合には、その時間を時間外労働として把握し、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。