懲戒処分を行う際の手続(調査・弁明の付与・懲戒委員会など)を流れに沿って解説

はじめに

一般的な会社では、社内の秩序を維持するために、組織のルールを定めており、これに違反する行為(以下、「違反行為」といいます)をした従業員に対しては、その行為に対する制裁として「懲戒処分」を行うことがあります。

懲戒処分は、就業規則の懲戒事由に該当し、かつ、懲戒権の濫用に当たらない範囲内で行うことができますが、実際に処分を行う際には、懲戒処分の決定・実行に至るまでに、手続的な面で検討しなければならない事項がいくつかあります。

この記事では、会社が実際に懲戒処分を行う際に検討すべき手続について、処分の決定・実行に至るまでの流れに沿って解説します。

なお、懲戒処分の種類や事由など、基本的な内容については次の記事をご覧ください。

懲戒処分とは?懲戒処分の種類や具体例、留意点などをわかりやすく解説

就業規則への懲戒事由の規定(懲戒処分の前提)

会社が従業員に懲戒処分を行う場合には、その前提として、あらかじめ就業規則において懲戒の種類と事由を定めておき、その内容を従業員に周知する手続が必要です。

これは、「罪刑法定主義」という刑事手続上の考え方に類するもので、罪刑法定主義とは、「事前に犯罪として法律に定められた行為だけが、犯罪として処罰することができる」という考え方をいいます。

また、就業規則が法的な効力を生じるためには、単に就業規則に懲戒処分の根拠規定を定めるだけでは足りず、その内容を従業員に周知する必要があります(労働基準法第106条)。

なお、懲戒処分の根拠規定は、従業員が違反行為をした時点で存在していることが必要であり、就業規則への規定前になされた違反行為に対して、懲戒規定を遡及して適用することはできません(不遡及の原則)。

事実確認のための調査の実施

事実確認のための調査の実施

従業員による違反行為が発覚した場合、会社はまず、調査を実施して、就業規則上の懲戒事由に該当する行為があったのかどうか、事実関係を確認する必要があります。

会社の調査権限と従業員の調査協力義務

会社には違反行為をした従業員に対する調査権限があり、違反行為をした従業員は、会社の実施する調査に対する協力義務を負うと解されます(富士重工業事件/最高裁判所昭和52年12月13日判決)。

自宅待機命令

従業員による違反行為が発覚した後、その事実関係を調査し、処分を検討するまでの期間において、会社が従業員に対して自宅待機を命じることがあります。

自宅待機命令(自宅謹慎命令)は、従業員による違反行為の証拠の隠滅(証拠物を処分するなど)、他の従業員への口封じ、不正行為の再発などを防止するために行うことがあります。

自宅待機命令は、会社による業務命令の一環として行うことができると解されており、自宅待機期間においては、従業員は、就業時間中は自宅で待機しておき、会社から事情聴取などのために出勤を命じられれば、直ちにこれに応じることができる態勢に整えておく必要があります。

なお、自宅待機命令は、懲戒処分としての「出勤停止」には該当しないと解されています(中央公論社事件/東京地方裁判所昭和54年3月30日判決)。

したがって、自宅待機命令の後、懲戒処分を行う場合であっても、二重処罰(同じ行為に対して、二重に処罰すること)には該当しないと解されます。

また、待機期間中の賃金について、自宅待機は会社の業務命令に基づくものであり、これをもって従業員の労務提供義務は尽くされていると解されることから、会社は、原則として、自宅待機期間中の賃金を支払う義務を負います(日通名古屋製鉄作業株式会社事件/名古屋地方裁判所平成3年7月22日判決)。

弁明の機会の付与

会社が懲戒処分を行う際に、どのような手続きをとるべきか、法律には特に定められていません。

ただし、懲戒処分が懲戒権の濫用に当たらないようにするためには、懲戒処分の検討・決定・実行段階において、それぞれ適正な手続を行うことが求められます。

違反行為をした従業員に対して、弁明の機会を与えることは、法律上、必ずしも義務付けられるものではありません。

しかし、明らかに懲戒事由に該当する場合を除いては、従業員から懲戒事由に対する説明や反論を一切聴取することなく、会社が一方的に懲戒事由の有無を判定することは、公平性を担保した適正な手続とはいえず、懲戒権を濫用したものとして争われるリスクが残ると考えます。

懲戒委員会(賞罰委員会・懲罰委員会)

懲戒委員会とは

会社が従業員の懲戒処分の内容を決定する際に、これに先立って懲戒委員会を開催し、審議することがあります。

懲戒委員会は、一般に、懲戒処分を適正に行うことを目的として、社内に設置される機関をいい、賞罰委員会や懲罰委員会と呼ばれることもあります。

懲戒委員会は、懲戒処分の決定を民主的に行うために置かれるものであり、決裁者の独断により処分に偏重が生じることを避け、公平さを担保しながら慎重に懲戒処分を決定することを目的としています。

懲戒委員会の必要性

法律上、懲戒委員会を設置することは義務付けられていません

懲戒委員会を設置するかどうか、および設置した場合の委員の構成などについては、すべて会社が任意に決めることができます。

ただし、就業規則などに懲戒委員会を定めた場合には、懲戒委員会に諮らずに行われた懲戒処分について、手続上の問題が残る可能性があります。

懲戒委員会を設置する際の検討事項

懲戒委員会を設置する際には、例えば次の内容を検討する必要があります。

懲戒委員会を設置する際の検討事項

  • 懲戒委員会の位置づけ(意思決定までするか、諮問機関に留めるか)
  • 取り扱う懲戒処分の範囲(懲戒解雇など重大な懲戒処分のみを対象とするか、すべての懲戒処分を対象とするか)
  • 懲戒委員の構成(役員、管理職、従業員代表など)

事前協議約款・同意約款

会社内に労働組合が組織されている場合には、会社と労働組合との間の労働協約によって、会社が解雇などの人事権を行使する際には、事前に労働組合との協議を経る必要がある旨が取り決められていることがあり、これを「事前協議約款」といいます。

さらに、事前協議に加えて、労働組合の同意を得る必要がある旨の労働協約の定めを「同意約款」といいます。

労働協約において、事前協議約款や同意約款が定められているにも関わらず、これらの手続を行わずになされた懲戒解雇などの懲戒処分は、無効になると解されます。

除外認定手続(懲戒解雇の場合)

懲戒処分のうち、解雇を伴う懲戒処分として、諭旨解雇と懲戒解雇がありますが、会社が懲戒処分によって従業員を解雇する場合には、労働基準法によって、解雇までに次のいずれかの手続を行う必要があります(労働基準法第20条)。

解雇の手続

  • 解雇をする30日以上前に「解雇予告」をすること
  • 平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を支払うこと

つまり、会社が従業員を解雇する場合には、30日以上前に解雇日を予告しておく必要があり、もし直ちに(予告をしないで)解雇をしようとする場合には、解雇予告手当を支払う必要がある、というのが原則です。

一方、従業員の違反行為に基づいて懲戒解雇する場合にまで、上記と同じ手続により、解雇予告手当を支払う必要があるのかが問題となる場合があります。

そこで、労働基準法では、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合(懲戒解雇をする場合)には、事前に労働基準監督署に申請することにより、「解雇予告、または解雇予告手当の支払をしなくてもよい」という認定を受けることができ、この認定のことを解雇予告の「除外認定」といいます(労働基準法第20条)。

懲戒解雇をする際には、一般的には、この除外認定を得てから、解雇予告手当を支払うことなく解雇をすることが多いといえます。

ただし、除外認定を得ることができるかどうかは、個別の事案ごとに労働基準監督署が判断するため、必ずしも除外認定を得ることができるとは限りません。

解雇予告の除外認定(懲戒解雇・即時解雇)の要件と労働基準監督署への申請手続を解説

懲戒処分の通知

法律上、懲戒処分の通知方法には決まりがないため、口頭で通知することでも足ります。

しかし、懲戒処分の対象となる従業員に対して、懲戒処分の重大さを理解させ、問題行動を改めさせるためには、懲戒処分は書面で通知することが望ましいといえます。

また、懲戒処分については、後に従業員から争われる可能性があることも考慮し、できる限り会社が適正な手続を経て懲戒処分を行ったことを記録として残しておく意味でも、書面で通知することが望ましいといえます。

懲戒処分の通知書面には、懲戒処分の種類、懲戒処分の実施日、具体的な懲戒事由、懲戒事由にかかる就業規則の根拠規定などを記載することが一般的です。

懲戒処分内容の社内公表

会社が従業員に対して懲戒処分を行った後、今後、他の従業員が同様の違反行為を行わないように、懲戒処分の内容を社内で公表する場合があります。

懲戒処分内容を社内で公表することについて、裁判所は、「懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるものでない限り何ら不当なものとはいえないと解される」としています(X社事件/東京地方裁判所平成19年4月27日判決)。

一方で、懲戒処分の内容の公表は、再発防止のために有効である反面、懲戒処分を受けた従業員の信用を低下させることにもつながるため、あくまで必要最小限の範囲に留めたうえで、従業員の名誉を傷付けることのないように、配慮する必要があります。

裁判例では、懲戒処分の社内公表が認められるのは、「公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用い、かつ被解雇者の名誉、信用を可能な限り尊重した公表方法を用いて事実をありのままに公表した場合に限られると解すべきである」としています(泉屋東京店事件/東京地方裁判所昭和52年12月19日判決)。