【36協定】特別条項の「健康及び福祉を確保するための措置」の各内容と記入例を解説

目次

はじめに

会社が特別条項による36(さぶろく)協定を締結する際、36協定の書式において「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置(以下、「健康福祉確保措置」といいます)」を記入する必要があります。

36協定の書式の裏面(記載心得)には、健康福祉確保措置として、10項目が列挙されており、会社はこのうち少なくとも1つの項目を選択する必要があります。

この記事では、健康福祉確保措置について、各項目の内容と、36協定における記入例を解説します。

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健康福祉確保措置の記入欄

健康福祉確保措置の記入欄

36協定の書式では、会社が選択する健康福祉確保措置の項目の番号と、その具体的内容を記入する欄が設けられています

健康福祉確保措置は10項目あり、そのうち複数項目を選択することが望ましいことは当然ですが、ここでは最低限、1項目を選択していれば、36協定は受理されます(記入がなされていなければ、36協定は受理されません)。

なお、健康福祉確保措置は、原則として、特別条項を適用する度に講じる必要があると解されます(改正労働基準法に関するQ&A2-36(2019年4月厚生労働省労働基準局))。

健康福祉確保措置の項目

36協定の書式の裏面(記載心得)には、健康福祉確保措置として、次の10項目が挙げられています。

健康福祉確保措置

  1. 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
  2. 労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。
  3. 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
  4. 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
  5. 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
  6. 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
  7. 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
  8. 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
  9. 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
  10. その他

以下、各項目の内容について解説します。

労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること

取り組みの内容

もともと、労働時間が一定時間を超えた従業員に対しては、労働安全衛生法に基づいて、医師による面接指導を実施する義務が生じることがあります。

同法では、「1ヵ月の法定時間外労働が80時間を超えた場合、従業員からの申出にもとづいて、会社は医師による面接指導を実施しなければならない」と定められています(労働安全衛生法第66条の8・労働安全衛生規則第52条の2)。

36協定において、法令と同様の内容を定めることは意味がないことから、36協定における健康福祉確保措置は、法令を上回る取り組みである必要があると解されます。

36協定の記入例

36協定においては、例えば、従業員の申出によることなく、一定の要件を満たした従業員をすべて面接指導の対象とすることが考えられます。

36協定の記入例

労働安全衛生法の定めに関わらず、特別条項の適用により、1ヵ月の法定時間外労働が80時間を超えた従業員に対しては、その申出の有無に関わらず、医師による面接指導を実施する。

また、面接指導の対象者を、法令よりも拡大することも考えられます。

例えば、面接指導の対象者を、1ヵ月の法定時間外労働が70時間を超えた従業員とする(80時間から70時間に引き下げる)ことなども考えられます。

36協定の記入例

労働安全衛生法の定めに関わらず、特別条項の適用により、1ヵ月の法定時間外労働が70時間を超えた従業員から申し出があった場合には、医師による面接指導を実施する。

労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること

取り組みの内容

「労働基準法第37条第4項に規定する時刻」とは、午後10時と午前5時の時刻をいい、その間の時間帯に働くことを、「深夜労働」といいます

深夜労働は、身体にかかる負担が大きいことから、特別条項を適用する従業員の健康に対する配慮として、その回数に制限を設けるものです。

深夜労働の制限回数については、法律上の決まりはないため、会社が任意に定めることができます。

なお、シフト制による夜勤など、もともと所定労働時間が深夜の時間帯に設定されている場合でも、この取り組みの対象になると解されます(改正労働基準法に関するQ&A2-12(2019年4月厚生労働省労働基準局))。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

特別条項が適用される従業員については、その月における深夜労働の回数を、1ヵ月4回以内に制限する。

深夜労働を何回までに制限するべきかについては、会社ごとの事情によって異なりますので、社内で検討して適切な回数を設定することが必要です。

ここで深夜労働の回数を検討する際の参考として、「改正労働基準法に関するQ&A2-12(2019年4月厚生労働省労働基準局)」があります。

これによると、回数を検討するうえで、労働安全衛生法では、深夜労働が6ヵ月間を平均して1ヵ月あたり4回以上となった場合には、従業員が自発的に健康診断を受けることができる旨を定めていることから、当該回数を目安にすることが考えられるとしています。(労働安全衛生法第66条の2・同施行規則第50条の2)。

終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること

取り組みの内容

この項目は、特別条項を適用する従業員に対して、「勤務間インターバル」を設けることを意味します。

勤務間インターバルとは、前の勤務(前日の終業時刻)と次の勤務(翌日の始業時刻)との間に、一定時間の休息(インターバル)を確保することをいいます。

もともと勤務間インターバルについては、労働時間等設定改善法第2条に定められており、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間(勤務間インターバル)」を設けることが会社の努力義務として定められています(2019年4月1日施行)。

なお、最低何時間以上のインターバルを設けるべきかについては、法律による決まりはありません。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

特別条項が適用される従業員については、その適用される月においては、終業時刻から次の始業時刻までに、10時間以上の継続した休息時間を確保する。

従業員の健康を確保するという目的からすると、一般的な睡眠時間である7時間程度の休息を確保できるようにするためには、9~10時間程度のインターバルが必要になると考えます。

なお、令和4年度就労条件総合調査(令和4年10月28日公表)によると、勤務間インターバルを導入している企業の割合は5.8%であり、平均間隔時間は10時間22分となっています。

労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること

取り組みの内容

法律上、法定休日に働いた場合には、割増賃金を支払う義務が定められています(労働基準法第35条、37条)が、その際、代休(休日出勤した日に代えて、会社が与える休日)を取得させることまでは義務付けられていません。

この項目は、特別条項を適用して休日労働をした場合に、その代わりの休日を与え、または特別休暇を与えることにより、休息を確保する措置を講じる取り組みを意味します。

なお、法律上、代償休日や特別休暇の日数を何日以上取得させるべきかについて、決まりはありません。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

特別条項の適用によって、月に4回以上、所定休日に出勤した従業員に対しては、その翌月に3日の特別休暇を与える。

労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること

取り組みの内容

会社は、原則として、従業員に対して1年に1回、定期健康診断を受診させる義務があります(労働安全衛生法第66条)。

ここでは、定期健康診断など、法律によって実施される健康診断とは別に、勤務日数や時間外労働の多い従業員に対して、個別に健康診断を実施する取り組みを意味します。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

特別条項の適用により、時間外労働の時間数が3ヵ月平均で月60時間を超えた従業員に対して、速やかに健康診断を実施する。

また、例えば、健康診断に加えて、産業医による保健指導などを実施することも効果的といえます。

年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること

取り組みの内容

ここでは、何日以上の有給休暇が「まとまった日数」に該当するのか、明らかにはされていません。

また、「何日以上にしなければならない」という法律上の決まりもありません。

時間外労働の多い従業員について、心身ともにリフレッシュするために必要な日数を検討する必要があります。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

時間外労働の時間数が3ヵ月平均で月60時間を超えた従業員については、3日以上の年次有給休暇を一度にまとめて取得することができるようするなど、その取得を促進する。

心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること

取り組みの内容

「相談窓口」とは、従業員が心身の問題を相談できる窓口を意味します。

相談窓口の担当者について、特別な資格や経験を求めるものではありませんので、会社が相応しいと判断する者(総務部、人事部などが対応することが一般的ですが、これに限られません)が担当することで足ります。

また、相談窓口は、社内であるか社外(産業医など)であるかを問いません。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

従業員の心とからだの健康問題について、相談窓口を総務部(受付担当者:●●)に設置する。

心とからだの健康問題についての相談窓口については、当該窓口を設置することにより、措置を実施したことになります(改正労働基準法に関するQ&A2-37(2019年4月厚生労働省労働基準局))。

その際、従業員に対して、相談窓口が設置されていることを周知し、当該窓口が実際に機能するようにすることが必要です。

また、記録の保存については、相談窓口を設置し、従業員に周知したことの記録(いつ、どのように周知をしたのか)を保存するとともに、36協定の有効期間中に受け付けた相談件数に関する記録も併せて保存する必要があるとされています。

さらに、これに加えて、相談窓口に相談があった場合には、その年月日、相談者、対応者、相談内容、相談者に対して行った対応などを記録することが望ましいと考えます。

労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

取り組みの内容

従業員が働き過ぎによって心身に支障が生じるおそれがあると会社が判断した場合には、人事異動など配置転換を行うことにより、従業員を心身の負担の少ない業務や部署に異動する取り組みを意味します。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

従業員の勤務状況及びその健康状態に配慮し、会社が必要と認める場合には、他の部署または他の業務に配置転換をする。

必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

取り組みの内容

「必要に応じて」という点について判断基準はありませんが、ある程度の基準を設けておかないと、産業医に対する相談がまったく行われないまま、実効性のない取り組みとなります。

なお、産業医は原則として50人以上の事業場において選任することが義務付けられており、従業員数が少なく産業医を選任していない会社にとっては、選択することが困難な項目であるといえます。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

時間外労働の時間数が3ヵ月平均で月60時間を超えた従業員については、必要に応じて、産業医による助言もしくは指導、または保健指導を受ける機会を与える。

その他

取り組みの内容

その他の項目としては、例えば、「職場における労働時間対策会議の実施」などが考えられます。

これは、従業員の時間外労働を減らすための対策を社内で検討し、実施することにより、従業員の健康を確保することを目的とするものです。

36協定の記入例

例えば、次のように記入することが考えられます。

36協定の記入例

特別条項を適用する場合には、適用後、速やかに労働時間対策会議を開催し、その翌月以降の時間外労働を削減するための対策を協議する。

例えば、時間外労働を減らすための取り組みとして、週に1回、ノー残業デー(定時退社日)を設けることなどが考えられます。

健康福祉確保措置に関する記録の作成・保存義務

会社は、36協定に基づいて実施した健康福祉確保措置について、その実施状況に関する記録を、36協定の有効期間の満了後3年間保存する必要があります(労働基準法施行規則第17条第2項)。

なお、この記録について、決められた書式はないため、会社が作成する任意の様式で構いません。

記録内容としては、例えば、次の内容が考えられます。

健康福祉確保措置に関する記録内容の例

  • 措置の対象となった従業員の氏名
  • 対象従業員の時間外労働の状況
  • 対象従業員の健康状態の状況
  • 措置を実施した年月日
  • 実施した措置の具体的内容