会社に義務付けられる「一般健康診断」とは?その種類・検査項目・内容を解説
はじめに
会社は、従業員の健康を管理する立場にあることから、労働安全衛生法に基づき、医師による健康診断の実施を義務付けられています。
健康診断の種類には、大きく次の3つがあります。
健康診断の種類
- 一般健康診断(一般従業員向け)…雇い入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣者の健康診断、給食従業員の健康診断
- 特殊健康診断(有害業務従事者向け)…特殊健康診断、歯科医師による健康診断
- その他の健康診断…臨時健康診断、自発的健康診断
この記事では、健康診断のうち、「一般健康診断」について、その種類や項目、実施後の対応などについて解説します。
一般健康診断の種類
会社が従業員一般に向けて行うことが義務付けられる「一般健康診断」の種類は、次のとおりです(労働安全衛生法第66条第1項)。
一般健康診断の種類
- 雇い入れ時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣者の健康診断
- 給食従業員の健康診断
以下、順に解説します。
雇い入れ時の健康診断
会社は、常時使用する従業員を新たに雇い入れる際は、医師による健康診断を行うことが義務付けられています(労働安全衛生規則第43条)。
ただし、雇い入れ時の健康診断は、従業員が雇い入れの前3ヵ月以内に、自ら健康診断を受け、その結果を会社に提出した場合には、会社は健康診断を行う必要がありません。
なお、「雇い入れる際」とは、雇い入れの直前または直後のことをいうと解されます(昭和23年1月16日基発第83号)。
雇い入れの「前」に実施する場合には、前述のとおり、3ヵ月以内であれば自ら健康診断を受けることを認めていることから、雇い入れの3ヵ月前までに実施する必要があります。
雇い入れの「後」に実施する場合には、特に基準はありませんが、雇い入れ時の健康診断の趣旨は、従業員の入社後の適正配置、健康管理の基礎資料に資するために実施を義務付けるものであることから(昭和47年9月18日基発第601号の1)、当該趣旨からは、雇い入れからできる限り速やかに(遅くとも、1ヵ月以内には)実施することが望ましいといえます。
雇い入れ時の健康診断の項目は、次のとおりです。
雇い入れ時の健康診断の項目(労働安全衛生規則第43条)
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
定期健康診断
会社は、常時使用する従業員に対して、1年以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を行うことが義務付けられています(労働安全衛生規則第44条)。
定期健康診断の項目は、次のとおりです。
定期健康診断の項目(労働安全衛生規則第44条第1項)
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- 胸部エックス線検査および喀痰(かくたん)検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
定期健康診断においては、厚生労働省の告示に基づき、一定の項目について、医師が必要でないと判断するときは省略することができます(労働安全衛生規則第44条第2項、平成10年6月24日労働大臣告示第88号)。
同告示においては、例えば、腹囲の検査では40歳未満の者(ただし35歳を除く)について医師が必要でないと認めるときは省略することができるなどの基準を示しています。
特定業務従事者の健康診断
会社は、特定の業務に常時従事する従業員に対して、その業務に配置替えする際、および6ヵ月以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を行うことが義務付けられています(労働安全衛生規則第45条)。
健康診断を行う際の項目は、定期健康診断と同様であり、特定業務従事者については、定期健康診断を実施する必要はありません。
健康診断の対象となる「特定の業務」とは、次の業務をいいます(労働安全衛生規則第13条第1項第3号)。
特定の業務
- 多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務および著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- さく岩機、鋲(びょう)打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務(※)
- 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
- 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗化(ふつ)水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務
- 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務
(※)「深夜業を含む業務」とは、行政通達により、常態として、深夜業を1週に1回以上または1ヵ月に4回以上行う業務をいいます(昭和23 年10 月1日基発第1456号)。
パート・アルバイトなど短時間で勤務する従業員
雇い入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断の対象は、法律上、「常時使用(従事)する従業員」とされています。
パート・アルバイトなど、正社員よりも短時間で勤務する従業員については、次の【要件1】と【要件2】のいずれにも該当する場合は、健康診断の対象者に含まれます(平成19年10月1日基発1001016号他)。
短時間勤務の従業員に対する健康診断の実施要件
【要件1】
期間の定めのない労働契約により使用される者、または、期間の定めのある労働契約により使用される者であって、①当該契約の契約期間が1年(特定業務従事者は6ヵ月)以上である者、②契約更新により1年(特定業務従事者は6ヵ月)以上使用されることが予定されている者、③1年(特定業務従事者は6ヵ月)以上引き続き使用されている者
【要件2】
その者の1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上(※)であること。
(※)なお、4分の3未満である短時間労働者であっても、上記の【要件1】に該当し、1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者に対しては、一般健康診断を実施することが望ましいとされています。
海外派遣者の健康診断
会社は、従業員を海外に6ヵ月以上派遣しようとするとき、および、海外に6ヵ月以上派遣した従業員を帰国させ、国内における業務に就かせるとき(一時的に就かせるときを除く)は、医師による健康診断を行うことが義務付けられています(労働安全衛生規則第45条の2)。
健康診断を行う際の項目は、定期健康診断と同様とされており、当該項目に加えて、厚生労働大臣が定める項目のうち、医師が必要と認める項目[腹部超音波検査、尿酸値、B型肝炎ウイルス抗体検査、血液型検査(ABO式、Rh式(派遣前に限る))、糞便塗抹検査(帰国時に限る)]についても、健康診断を行うこととされています。
給食従業員の健康診断
会社は、事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する従業員に対して、雇い入れの際、および当該業務への配置替えの際に、検便による健康診断を行うことが義務付けられています(労働安全衛生規則第47条)。
なお、給食従業員の検便による健康診断については、1年に1回など、定期に行うことまでは義務付けられていません。
【一般健康診断の対象従業員・実施時期まとめ】
健康診断の種類 | 対象従業員 | 実施時期 |
雇い入れ時の健康診断 | 常時使用する従業員 | 雇い入れ時 |
定期健康診断 | 常時使用する従業員 | 1年以内ごとに1回 |
特定業務従事者の健康診断 | 特定の業務に常時従事する従業員 | ・配置替えの際 ・6ヵ月以内ごとに1回 |
海外派遣者の健康診断 | 海外派遣する(した)従業員 | ・海外に6ヵ月以上派遣する際 ・海外に6ヵ月以上派遣した従業員を国内における業務に就かせる際 |
給食従業員の健康診断 | 給食の業務に従事する従業員 | ・雇い入れの際 ・配置替えの際 |
一般健康診断の費用負担者
一般健康診断の費用を、会社と従業員のどちらが負担すべきかについて、行政通達では、「労働安全衛生法第66条第1項から第4項までの規定により実施される健康診断の費用については、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること。」として、会社が負担すべきであるとしています(昭和47年9月18日基発第602号)。
健康診断を受診する時間に対する賃金
一般健康診断は、労働安全衛生法の定める受診義務(労働安全衛生法第66条第5項)に基づいて行われるものであり、会社による指揮命令に基づくものではないことから、労働時間とはいえず、会社は従業員に対して、一般健康診断を受診した時間に対する賃金を支払う義務はないと解されます。
ただし、行政通達では、「一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行なわれるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可決な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」としています(昭和47年9月18日基発第602号)。
異常の所見があった場合の対応
医師への意見聴取
会社は、健康診断の結果、健康診断の項目に異常の所見があると診断された従業員については、当該従業員の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴かなければならないとされています(労働安全衛生法第66条の4)。
医師または歯科医師への意見聴取は、原則として、健康診断が行われた日から3ヵ月以内に行う必要があります(労働安全衛生規則第第51条の2第1項)。
また、聴取した医師または歯科医師の意見は、健康診断個人票(後述)に記載する必要があります(労働安全衛生規則第第51条の2第2項)。
意見聴取の実施後の対応
会社は、医師または歯科医師の意見を聴取した後、必要があると判断するときは、当該従業員の実情を考慮して、次の措置を講じる必要があります。
意見聴取実施後の措置(労働安全衛生法第66条の5)
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少等の措置
- 作業環境測定の実施
- 施設または設備の設置・整備
- 衛生委員会・安全衛生委員会・労働時間等設定改善委員会への報告
- その他の適切な措置
再検査、精密検査の必要性
再検査、精密検査については、会社に実施することが義務付けられているものではありません。
なお、法令(有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則など)に基づいて実施される特殊健康診断については、会社に再検査、精密検査を実施することが義務付けられています。
健康診断結果の記録・報告義務
健康診断結果の記録(健康診断個人票)
会社は、健康診断の結果に基づいて「健康診断個人票」を作成し、原則として、これを5年間保存する必要があります(労働安全衛生規則第51条)。
健康診断個人票の作成は、健康診断の種類や、会社の規模、従業員数などを問わず、会社の義務とされています。
健康診断個人票の書式としては、「様式第5号」が示されていますが(労働安全衛生規則第51条)、当該様式にある項目が記載されていれば、異なる様式を用いることも認められます。
また、健診機関によっては、健康診断の結果の会社控えが、様式第5号の項目を満たしていることがあり、その場合には、当該控えをそのまま健康診断個人票として保存することができます。
健康診断結果の報告(定期健康診断結果報告書)
常時50人以上の従業員を使用する会社は、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、または歯科医師による健康診断(定期のものに限る)を行ったときは、遅滞なく、「定期健康診断結果報告書(様式第6号)」を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります(労働安全衛生規則第52条)。