有給休暇の斉一的付与(基準日の統一)とは?制度の仕組みと運用上の留意点をわかりやすく解説

はじめに

一定期間にわたり継続勤務した従業員に対しては、労働基準法に基づき、勤務した期間に応じた日数の有給休暇が与えられます。

このとき、有給休暇が与えられる日のことを、「基準日」といいます。

会社の労務管理においては、管理上の負担を軽減することを目的に、有給休暇の基準日を一定の日に統一し(基準日を揃え)、有給休暇を年に1回または2回などのタイミングで一斉に与えることがあり、これを一般に、「有給休暇の斉一的付与」といいます。

有給休暇の斉一的付与は、労働基準法に明記されておらず、その運用については、会社の就業規則などに基づき、独自に運用する必要があります。

ただし、運用の仕方によっては、従業員に不利益が生じ、法違反になるおそれもあるため、制度の導入および運用には、十分に留意する必要があります。

この記事では、有給休暇の基準日を統一し、制度を運用する上での留意点について解説します。

有給休暇の原則と基準日の統一(斉一的付与)

有給休暇の原則

有給休暇は、原則として、入社日から勤続6ヵ月が経過した日に、10日間の有給休暇が与えられます(労働基準法第39条第1項)。

この有給休暇が与えられる日のことを、「基準日」といい、その後は1年ごとに、同じ基準日に有給休暇が与えられます。

例えば、4月1日に入社した従業員は、その6ヵ月後の10月1日が基準日となり、10日間の有給休暇が与えられ、それ以降も同様に、毎年10月1日に有給休暇が与えられます。

法律が定める有給休暇の付与日数は、次のとおりです。

勤続年数6ヵ月1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

基準日の統一(斉一的付与)

原則どおりに有給休暇を与える場合、有給休暇は、従業員ごとに、その入社日に応じて個別に与えられることとなります。

したがって、会社は各従業員について、入社日に応じた有給休暇の基準日を個別に把握し、付与日数や残日数などを管理していく必要があることから、従業員数(特に、入社日の異なる中途入社)が増えるほど、会社の労務管理上の負担が増す傾向があります。

そこで、従業員の入社日に応じて個別に定まる法令上の基準日に関わらず、会社が独自に、従業員に共通した一律の基準日を設けることにより、有給休暇が与えられるタイミングを統一し、労務管理を簡素化することがあります。

このとき、有給休暇の基準日を統一し、同一日に一斉に与えることを、一般に「有給休暇の斉一的付与」といいます。

いつ(何月何日)を基準日とするか、あるいは年に何回の基準日を設けるのかは、会社が独自に定めることができます。

実務感覚としては、基準日を年に1回とする場合には4月1日、年に2回とする場合には4月1日と10月1日を基準日とする会社が多い傾向があります(もちろん年に3回や4回の基準日を設けることも可能です)。

基準日を定める際には、新入社員の入社日、事業年度の区切りなど、会社にとって管理しやすく、従業員にとって記憶しやすい基準日にするとよいと考えます。

基準日を統一する際の留意点

有給休暇の斉一的付与に関する留意点として、次の行政通達(平成6年1月4日基発第一号)があります。

年次有給休暇の斉一的取扱いに関する行政通達

年次有給休暇について法律どおり付与すると、年次有給休暇の基準日が複数となるなどから、その斉一的取扱い(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱いをいう)(中略)が問題となるが、以下の要件に該当する場合には、そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。

1.斉一的取扱い(中略)により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなす(※1)ものであること。

2.次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じまたはそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げる(※2)こと (例えば、斉一的取扱いとして、4月1日入社した者に入社時に10日、1年後である翌年の4月1日に11日付与とする場合(中略)などが考えられること) 。

(※1)有給休暇の出勤率要件

有給休暇が与えられる要件として、6ヵ月間会社に在籍することに加えて、その間の労働日のうち、8割以上出勤することが必要です。

この出勤率(出勤日÷労働日)について行政通達では、例えば、有給休暇の基準日を4月1日に統一した場合で、法律上は本来6月1日に有給休暇が与えられる従業員がいる場合には、短縮された4月1日から5月31日までの期間の労働日については、すべて出勤したものとして扱い、出勤率を算定する必要があるとしています。

(※2)2回目以降の基準日

入社後2回目以降の基準日については、一度基準日を設けたならば、その次年度以降も、同様に繰り上げる必要がある、という当然のことを確認的に示しています。

基準日の統一方法(年に1回の基準日を設ける場合)

ここからは、実際に、基準日をどのように統一すればいいのかについて解説します。

基準日を統一する上で、最も留意すべきポイントは、基準日の統一によって、従業員にとって法律よりも不利になってはならないという点です。

以下、年に1回、基準日を4月1日に統一する場合を前提に、法的に認められる例と認められない例を説明します。

認められない取り扱い

例えば、5月1日に入社した従業員を例に説明します。

この従業員に対しては、法律どおりに運用すれば、入社日から6ヵ月が経過した「11月1日」が入社後初めて迎える(1回目の)基準日となり、10日間の有給休暇を与える必要があります。

これに対して、会社が4月1日を基準日として設定した場合、本来11月1日に与えられるべき有給休暇が、法定の基準日に与えられることなく、翌年の4月1日まで後倒しされることになります。

このような取り扱いは、法律を下回り、法律よりも従業員にとって不利になることから、このままでは認められません。

認められる取り扱い

この問題を解消するためには、基準日を統一するだけでなく、基準日が到来するまでに、一定日数の有給休暇を与えておくことが必要になります。

例えば、5月1日に入社した従業員に対して、入社した当日に、まず10日間の有給休暇を特別に与えるとします。

そして、入社後初めて到来する基準日である翌年4月1日に、11日間の有給休暇を与えるとします。

すると、前述のとおり、法律どおりに運用すれば、入社日から6ヵ月が経過した「11月1日」が入社後初めて迎える(1回目の)基準日となり、10日間の有給休暇を与える必要がありますが、すでに入社日の5月1日において10日間の有給休暇を前倒しして(法律よりも早いタイミングで)与えていることになります。

このような取り扱いは、法律を上回り、法律よりも従業員にとって有利になることから、問題ありません。

つまり、4月1日を基準日とする場合、4月1日から9月30日までの間に入社した従業員については、最初の基準日までの期間が6ヵ月を超えることから、法違反とならないためには、入社後6ヵ月が経過するまでの間に、どこかで特別に(法を上回る)有給休暇を与える必要があるということになります。

なお、実務感覚としては、入社日に有給休暇を特別付与することが多い傾向がありますが、例えば4月1日から9月30日までの間に入社した従業員については、初回に与える有給休暇に限り、法定どおり(入社日後、6ヵ月が経過した日)に有給休暇を与え、10月から3月までの間に入社した従業員については、基準日(4月1日)までは有給休暇を与えないとする運用も考えられます。

基準日統一のデメリット(不公平感の解消)

前述のとおり、基準日を4月1日に統一した場合、4月1日から9月30日までの間に入社した従業員については、基準日までの期間が6ヵ月を超えることになるため、入社日などに有給休暇を特別に与える必要があります。

一方、10月1日から3月31日までの間に入社した従業員については、基準日までの期間が6ヵ月未満であるため、基準日(4月1日)までは有給休暇を与えないとしても、法律よりも不利になるおそれがないため、法律上は問題ありません。

ただし、これにより、10月1日から3月31日までに入社した従業員との不公平感が生じることがあります。

例えば、9月30日に入社した従業員は、入社日に10日の特別付与があるのに対して、10月1日に入社した従業員には特別付与がないことになり、不公平感が生じます。

一方で、例えば、入社日に関わらず一律に10日を特別付与するとしても、今度は3月31日に入社した従業員は、入社日に10日付与され、その次の日の4月1日にさらに11日付与されることになり、ここでも不公平感が生じることとなります。

このような、入社日から基準日までの長さによって生じる不公平感を解消するための方法として、例えば、下表のように、入社月に応じて特別付与する有給休暇の日数を調整することが考えられます。

なお、調整のための日数(10月から3月の各月に付与する日数)は、何日であっても構いません。

入社月4~9月10月11月12月1月2月3月
入社月の付与日数10日8日6日4日3日2日1日

基準日の統一方法(年に2回の基準日を設ける場合)

次に、基準日を年に2回定める場合における、基準日の統一方法を解説します。

例えば、4月1日から9月30日までの間に入社した従業員については、基準日を10月1日とし、10月1日から3月31日までに入社した従業員については、基準日を4月1日とするとします。

これにより、どのタイミングで入社しても、最初に到来する基準日までの期間が6ヵ月以内となるため、特別付与をしなくても法違反になりません

この点が、基準日を年に1回と定める場合と大きく異なります。

ただし、入社したタイミングによって不公平感が生じる点は、同様です。

例えば、4月1日に入社した従業員は、10月1日まで6ヵ月間有給休暇が与えられないのに対して、9月30日に入社した従業員は、次の日に有給休暇が与えられることとなり、不公平感が生じることがあります。

そこで、不公平感を解消するために、下表のように、入社月に応じて日数を調整して特別付与することがあります。

なお、調整のための日数(各月に付与する日数)は、何日であっても構いません。

入社月入社日の付与日数基準日
4月・5月5日10月1日
6月・7月3日10月1日
8月・9月2日10月1日
10月・11月5日4月1日
12月・1月3日4月1日
2月・3月2日4月1日