無断欠勤(音信不通・行方不明)の従業員への対応と、就業規則の規定例(記載例)を解説
- 1. 従業員の無断欠勤(音信不通・行方不明)
- 2. 基本的な対応方針
- 2.1. 本人への連絡(複数回・複数手段)
- 2.2. 解雇(懲戒解雇)
- 2.3. 就業規則に基づく自動退職(自然退職)
- 2.4. 従業員の家族から退職願が提出された場合
- 3. 無断欠勤をした従業員に対する解雇(懲戒解雇)
- 3.1. 無断欠勤の期間(日数)
- 3.2. 解雇(懲戒解雇)が無効となる場合
- 3.2.1. 正当な事由がない場合
- 3.2.2. 退職願の提出後の無断欠勤の場合
- 4. 解雇(懲戒解雇)の通知方法
- 4.1. 家族が通知を受領した場合
- 4.2. 公示送達による通知
- 5. 就業規則の定めによる無断欠勤への対応
- 5.1. 就業規則に基づく自動退職(自然退職)
- 5.2. 解雇の通知表示の到達
- 5.3. 解雇(懲戒解雇)
- 6. その他の対応事項
- 6.1. 従業員に対する給与(賃金)の支払い
- 6.2. 社会保険の資格喪失手続
従業員の無断欠勤(音信不通・行方不明)
会社の労務管理においては、従業員が突如として会社に出社しなくなり(無断欠勤)、連絡を取ることができず(音信不通)、所在も分からない(行方不明)といったトラブルが生じる場合があります。
このような場合、会社としては、従業員との連絡を取ることができない状況下において、どのように退職手続を進めてよいのか、判断に迷うことがあります。
本稿では、従業員の無断欠勤が続いており、かつ連絡(電話、訪問、家族への連絡など)をしても本人と連絡を取ることができない状況を想定し、当該状況における会社の対応と、対応に備えるための就業規則の規定例について解説します(なお、本稿では、犯罪に巻き込まれた場合など、事件性のあるケースを除きます)。
基本的な対応方針
本人への連絡(複数回・複数手段)
従業員が会社に申請することなく、無断で欠勤を開始した場合、まず会社として行うべき対応は、本人への連絡を複数回、複数手段によって試みることです。
この対応を十分に行わずに、すぐに解雇や退職手続などを進めることにはリスクが伴います。
このとき、本人の携帯電話に何度か電話をしたというだけでは不十分であり、他の連絡手段(家族への連絡、手紙の郵送、メール、SNSへのメッセージ送信など)を行うとともに、併せて、できる限り本人の住所・居所を訪問し、接触を試みることが必要といえます。
その際、試みた連絡内容とその日時を記録し、本人と連絡を取ることができなかったことを証拠として保存しておくことが重要です。
例えば、電話の発信記録、郵便物の送付記録、訪問記録など、本人と連絡を取るために、会社が十分に手を尽くしたことを記録しておく必要があります。
解雇(懲戒解雇)
本人への連絡を十分に試みたにも関わらず、一向に連絡を取ることができない場合には、会社は、当該従業員との労働契約(雇用関係)を終了せざるを得ないことになります。
このとき、従業員から退職の意思表示(退職願の提出など)がなされない以上、会社から一方的に労働契約を終了させるための手段として、解雇(懲戒解雇)せざるを得ないことがあります。
会社が解雇(懲戒解雇)を行う際の留意点については、後述します。
就業規則に基づく自動退職(自然退職)
会社は、あらかじめ就業規則において、従業員の無断欠勤(音信不通・行方不明)など、一定の要件に該当したことをもって、自動的に退職したものとして取り扱う旨を定めることができます。
このとき、従業員が就業規則上の要件に該当することにより、自動的に退職することとなりますので、解雇によらずとも、労働契約を解約することが可能となります。
就業規則の規定例については、後述します。
従業員の家族から退職願が提出された場合
従業員の家族(両親など)と連絡を取ることができた場合に、従業員の家族から、会社に対して退職の意思表示があり、あるいは退職願が提出されることがあります。
しかし、たとえ家族であっても、従業員が民法上の未成年者(18歳未満)である場合を除き、当然に本人を代理することはできませんので、家族から退職願が提出されたとしても、これを有効なものとして受理することはできません。
無断欠勤をした従業員に対する解雇(懲戒解雇)
無断欠勤の期間(日数)
無断欠勤が続いている従業員を解雇(懲戒解雇)する場合に問題となるのが、その日数です。
無断欠勤をした日数が何日程度続けば、解雇(懲戒解雇)が法的に有効となるかについて、明確な基準はありません。
この点については、行政通達により、懲戒解雇に相当する「労働者の責めに帰すべき事由」として、「原則として2週間以上、正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」が挙げられていることから、2週間がひとつの目安になるといえます(労働基準法第20条第1項、昭和23年11月11日基発1637号、東京地方裁判所平成12年10月27日判決など)。
一方で、6日間程度の無断欠勤で解雇した場合は、不当解雇と判断している裁判例がありますので、1週間に満たない無断欠勤をもって解雇をするには、ややリスクがあるといえます(東京地方裁判所昭和48年12月7日判決など)。
解雇(懲戒解雇)が無効となる場合
正当な事由がない場合
無断欠勤が続いている場合であっても、解雇(懲戒解雇)が当然に有効となるものではありません。
従業員が不慮の事故にあった場合や、あるいは何らかの事件に巻き込まれているような場合には、まずは慎重な事実確認が必要となります。
特に、無断欠勤が続いている場合でも、その原因が、うつ病など、従業員のメンタルヘルスの不調(精神疾患)であることが疑われる場合は、当該欠勤がはたして正当な理由のない欠勤といえるかどうか、慎重に判断すべきといえます。
裁判例では、約40日間にわたって欠勤を続けた従業員を諭旨退職処分(懲戒処分)としたところ、会社は精神科医による健康診断を実施するなどして、必要な場合は治療を勧め、休職などの対応も検討すべきだったとして、そのような対応をとらなかった状況下では、正当な理由のない無断欠勤があったとはいえず、懲戒処分は無効であると判断したものがあります(日本ヒューレット・パッカード事件/最高裁判所平成24年4月27日判決)。
また、失踪による無断欠勤について、当該欠勤の理由は精神疾患によるもので、これを上司も認識し得たことから、懲戒免職処分は裁量権を逸脱・濫用したものとして同処分を取り消した裁判例もあります(国・気象衛星センター事件/大阪地方裁判所平成21年5月25日判決)。
退職願の提出後の無断欠勤の場合
無断欠勤をする前に、退職願をすでに提出しており、退職の効果が生じていれば、その後に解雇(懲戒解雇)することはできません。
裁判例では、退職金が争われた事案において、従業員に到達した懲戒解雇は、すでに退職の効果が発生し、従業員たる身分を喪失した後になされたものということができることから、退職金請求権の取得に消長を来たすものではない(影響を与えない)と判断したものがあります(東京ゼネラル事件/東京地方裁判所平成11年4月19日判決)。
解雇(懲戒解雇)の通知方法
従業員と連絡が取ることができない場合に問題となるのは、会社による解雇(懲戒解雇)の意思表示の通知方法です。
解雇の効力が生じるためには、従業員に対して、会社による解雇の意思表示が「到達」する必要があるためです(民法第97条第1項)。
従業員が音信不通・行方不明である場合において、単に本人の住所に通知書を郵送したとしても、本人が当該通知書を受領する可能性は低く、郵送したことをもって解雇の意思表示が到達したと解することはできません。
家族が通知を受領した場合
「到達」とは、本人が現実にその内容を知らなくても、知り得る状況に置かれればよいとされています(最高裁判所昭和36年4月20日判決)。
したがって、音信不通といっても、単に会社との連絡がとれないだけであり、実際には家族と同居していて、家族が解雇通知を受領したような場合には、解雇の意思表示が本人に到達したことになります。
一方、本人の居所がまったく分からないような場合には、次の公示送達による方法しかありません。
公示送達による通知
公的な制度によって意思表示の送達の手続を行う方法として、「公示送達」があります(民法第97条の2)。
「公示送達」とは、裁判所の掲示板に掲示した上で、官報および新聞に少なくとも1回は掲載し、最後に官報または新聞に掲載した日等から2週間経過したときに、相手に到達したものとみなされるという制度です。
ただし、公示送達については、手続が煩雑であり、時間がかかるというデメリットがありますので、実務上はできれば回避したい方法であるといえます。
就業規則の定めによる無断欠勤への対応
就業規則に基づく自動退職(自然退職)
前述のとおり、連絡を取ることができない従業員に対する解雇の意思表示は、その到達をめぐって問題になり得ることから、実務上は、就業規則の定めに基づいて、一定期間以上、正当な理由なく無断欠勤があった場合には、自動的に退職したものとみなす旨を定めておくことが有用です。
就業規則の規定例(記載例)は次のとおりです。
就業規則の規定例1(無断欠勤の場合の取り扱い)
(無断欠勤)
従業員が正当な理由なく無断欠勤を開始し、14労働日以上にわたり本人と連絡を取ることができない場合には、欠勤が開始された日から起算して14労働日が経過した日をもって、退職したものとみなす。
無断欠勤は、従業員が会社に対して負っている労務の提供義務を履行しておらず、労務を提供する意思を放棄していると判断されてもやむを得ないため、このような規定を就業規則に定めることも有効と解されます。
この場合、就業規則に定める事由(上記の例では、14労働日の欠勤)をもって、自動的に会社を退職(自然退職)することとなりますので、退職願の提出や、解雇の手続を要せずに労働契約を解約することができるというメリットがあります。
解雇の通知表示の到達
会社が解雇(懲戒解雇)をする場合には、その意思表示の到達をめぐって問題になり得ることから、公示送達など煩雑な手続によることなく、一定の手続をもって意思表示が到達したものとみなす規定を設けることがあります。
このときの規定例(記載例)は、次のとおりです。
就業規則の規定例2(解雇の通知表示の到達)
(解雇等の通知方法)
無断で欠勤するなど、居所が不明で連絡を取ることが困難な従業員に対する解雇(懲戒解雇を含む)の通知は、本人の住所または居所に対する解雇通知書の送達および社内掲示をもって、解雇の意思表示が到達したものとみなす。
なお、裁判例では、社内掲示により解雇通知を行った点について、全職員が見ることは期待できず有効な解雇の意思表示があったとは認められないと判断したものがありますので、通知方法については留意する必要があります(北錦会事件/大阪地方裁判所平成13年9月3日判決)。
解雇(懲戒解雇)
会社が解雇(懲戒解雇)をする場合には、その根拠となる規定を就業規則に定めておく必要があります。
このときの規定例(記載例)は、次のとおりです。
就業規則の規定例3(懲戒解雇)
(懲戒解雇)
従業員が、次の各号のいずれかに該当する場合は懲戒解雇に処する。ただし情状によっては、諭旨退職、降格、出勤停止、昇給停止または減給にとどめることがある。
一、正当な理由なく無断欠勤が14労働日以上におよび、出勤の督促に応じず、または連絡を取ることができないとき
二、(略)
その他の対応事項
従業員に対する給与(賃金)の支払い
音信不通や行方不明となった従業員に対する賃金のうち、未払いとなっている部分については、日常の支払方法が口座振込による場合には、通常どおり従業員の指定する口座に振り込めば問題ありません。
現金払いなど、口座振込の方法によらない場合には、配偶者など「使者」とみなせる者がいる場合には、その者に支払うこともできますが、「代理人」への支払いは労働基準法第24条(直接払いの原則)に違反することに留意する必要があります(昭和63年3月14日基発150号)。
社会保険の資格喪失手続
従業員の無断欠勤によって退職をした場合の手続として、雇用保険における資格喪失手続については、自己都合退職として処理をすればよく、社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、「健康保険被保険者証回収不能届」を資格喪失届に添付し、被保険者証を回収できない旨を記入して資格を喪失させることとなります。