社会保険料(標準報酬月額)はいつ決定・改定される?4つのタイミング(資格取得時・定時・随時・育児休業等終了時)について解説

社会保険と社会保険料

社会保険の定義

会社に勤務する従業員は、一定の要件を満たすことにより、労働保険と社会保険(狭義)に加入することとなります。

労働保険は、労災保険と雇用保険の2種類があり、社会保険(狭義)は、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3種類があります。

なお、これらの保険を総称して、社会保険(広義)ということもありますが、本稿における社会保険とは、あくまで狭義の社会保険をいうこととします。

社会保険料の種類

社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料があります。

社会保険料は、原則として、会社と従業員とで半額ずつ(折半して)負担し、まず会社が全額を納付し、従業員は毎月の給与から社会保険料が天引きされます(なお、労災保険については、全額会社が負担します)。

なお、介護保険料は、40歳以上65歳未満の従業員(介護保険第2号被保険者)について、納付する必要があります。

社会保険料(月額)の決まり方

社会保険料(月額)の決まり方(計算式)

社会保険料(月額)は、次の計算によって決まります。

社会保険料(月額)の決まり方

標準報酬月額×社会保険料率=社会保険料(月額)

標準報酬月額

社会保険料は、従業員に対して支払われる実際の給与の額ではなく、「標準報酬月額」に対して、保険料率を乗じて算出します。

「標準報酬月額」とは、実際の給与の額を一定の幅(等級)に当てはめた、社会保険料を計算する上での、いわば「仮の給与」ともいえます。

これによって、社会保険料の計算を簡便かつ効率的に行うことができるようにしています。

社会保険料率

健康保険と介護保険の社会保険料を算出するための保険料率は、毎年見直され、毎年3月頃に改定されます。

健康保険料率は、協会けんぽ(全国健康保険協会)か、健康保険組合かによって異なり、さらに協会けんぽであっても、都道府県によって料率が異なります。

一方、厚生年金保険の保険料率は、2017(平成29)年以降、18.3%で固定されています。

社会保険料(標準報酬月額)が決定・改定される4つのタイミング

社会保険料を算出するための標準報酬月額は、まずは社会保険への加入時(入社時)に決定され、その後は3つのタイミングで決定・改定されることとなります。

社会保険料(標準報酬月額)が決定・改定されるタイミングを整理すると、次のとおりです。

【社会保険料(標準報酬月額)が決定・改定される4つのタイミング】

 タイミング手続名 (作成する書類)手続の期限
社会保険に加入するとき(入社時)資格取得時決定 (資格取得届)資格取得日から5日以内
年に1回の見直しをするとき定時決定 (算定基礎届)毎年7月1日から7月10日まで
昇給などにより、固定的賃金が変動したとき随時改定 (月額変更届)固定的賃金が変動した月から4ヵ月目以降、速やかに
育児休業等が終了した後、標準報酬月額が変動したとき産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定 (月額変更届)標準報酬月額が変動した月から4ヵ月目以降、速やかに(被保険者の申出により行う)

なお、毎月納付する社会保険料の他、会社が賞与を支払った場合には、その賞与についても、賞与の額に応じた社会保険料を納付する必要がありますが、本稿では割愛します。

以下、4つのタイミングについて、順に解説します。

【資格取得時決定】(社会保険に加入するとき)

資格取得時決定とは

従業員が会社に入社し、かつ社会保険への加入要件を満たすときは、入社と同時に社会保険への加入手続を行う必要があります。

このとき、まだ従業員には給与(これを「報酬」といいます)が支払われていないことから、ここでは、入社時における「報酬の見込み額」をもって標準報酬月額を決定することとなり、これを「資格取得時決定」といいます(健康保険法第42条)。

資格取得時決定の手続

資格取得時決定の手続としては、「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」に報酬月額(報酬の見込み額)を記載して、従業員の入社後5日以内に、管轄の年金事務所(または健康保険組合)に届け出る必要があります(健康保険法施行規則第24条第1項)。

報酬とは

報酬の内容

標準報酬月額の決定の基礎となる「報酬」には、基本給や手当など、実際に支払われる給与額だけでなく、「現物支給されるもの」も含めることに留意する必要があります。

例えば、通勤定期券、社宅・寮の提供、社員食堂での食事支給などは、現物支給されるものとして、所定の方法により金銭に換算して、報酬に含める必要があります。

また、報酬には、残業代(割増賃金)や歩合給など、入社時点では不確定なものについても、その見込み額を含める必要があります。

報酬と賞与の違い

社会保険において、「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、従業員が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、年に4回以上支払われるものをいいます(健康保険法第3条第5項)。

一方、年に3回以下支払われるものについては、「賞与」として扱われ、賞与を支払う都度、その賞与額に対して社会保険料を納める必要があります(健康保険法第3条第6項)。

有効期間(適用期間)

資格取得時決定で決定された標準報酬月額の有効期間は、次のとおり、資格を取得した時期によって異なります(健康保険法第42条第2項)。

資格取得時決定で決定された標準報酬月額の有効期間

  • 1月1日から5月31日までの間に被保険者資格を取得した場合…資格を取得した月から、その年の8月までの各月の標準報酬月額とする
  • 6月1日から12月31日までの間に被保険者資格を取得した場合…資格を取得した月から、翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする

【定時決定】(年に1回の見直しをするとき)

定時決定とは

定時決定」とは、年に1回、7月1日現在のすべての被保険者について、標準報酬月額の見直しを行うための手続をいいます(健康保険法第41条)。

従業員の給与は、昇給・降給、昇進、あるいは残業の増減など、様々な要因によって変動します。

そこで、従業員の給与の実態を標準報酬月額に反映するための手続として、定時決定が行われます。

ただし、次の者については、定時決定の対象になりません。

定時決定の対象にならない者

  • 6月1日以降に入社した従業員
  • 6月30日までに退職した従業員
  • 7月改定の月額変更届を提出する従業員
  • 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った従業員

定時決定の手続

定時決定の手続として、毎年7月1日から7月10日までの間に、「健康保険・厚生年金被保険者報酬月額算定基礎届」を管轄の年金事務所(または健康保険組合)に届け出る必要があります。

このとき、算定基礎届には、その年の4月から6ヵ月までの3ヵ月間に支払われた報酬の平均額を報酬月額として記載します。

このとき、算定基礎届の対象となるのは、給与の締め日に関係なく、4月・5月・6月に支給日がある(支払われた)給与です。

例えば、3月1日から3月31日までの給与を、4月10日に支払う場合、会社としては「3月分の給与」として取り扱うとしても、実際に支払われた月が4月であるため、算定においては「4月」の報酬月額として取り扱うこととなります。

また、4月・5月・6月支給の給与のうち、算定の対象月になるのは、原則として、支払基礎日数が17日以上の月です(パートタイム労働者・短時間労働者については、例外あり)。

「支払基礎日数」とは、給与を計算する基礎となる日数をいい、月給制で給与の減額対象となる欠勤や日割計算などがなければ、支払基礎日数はその月の暦日数(日曜日や休日などを含めた日数)となります。

有効期間(適用期間)

定時決定で決定された標準報酬月額は、原則として、その年の9月から翌年の8月まで適用されることとなります。

ただし、その途中で随時改定、産前産後休業終了時改定、育児休業等終了時改定に該当する場合を除きます。

【随時改定】(昇給などにより、固定的賃金が変動したとき)

随時改定とは

定時決定された標準報酬月額は、翌年の8月まで適用されるのが原則ですが、それまでの間において、大幅に報酬額に変動が生じた場合には、その実態を標準報酬月額に反映する必要があり、そのための手続を「随時改定」といいます。

具体的には、次の要件に該当する場合には、変動月から4ヵ月目の標準報酬月額を改定します。

随時改定の要件

  1. 固定的賃金に変動があったこと
  2. 変動した月から3ヵ月間の報酬の平均が、これまでの標準報酬に比べて2等級以上変動したこと
  3. 2.の3ヵ月の支払基礎日数がすべて17日以上あること

「固定的賃金の変動」とは、基本給や時給単価の変更(昇給・降給など)、毎月固定で支払われる手当の額の変更(手当の新設・廃止など)などをいいます。

一方、残業時間に応じて残業代が増減する場合や、仕事の成果に応じて歩合給が増減する場合などは、固定的賃金の変動に該当しません。

随時改定の手続

随時改定の手続としては、固定的賃金の変動があった月以後3ヵ月間の報酬額を、当該変動月から4ヵ月目に、速やかに、「健康保険・厚生年金被保険者報酬月額変更届」を管轄の年金事務所(または健康保険組合)に届け出る必要があります(健康保険法施行規則第26条第1項)。

有効期間(適用期間)

随時改定で決定された標準報酬月額の有効期間は、次のとおりです(健康保険法第43条第2項)。

随時改定で決定された標準報酬月額の有効期間

  • 1月から6月までの間に随時改定された場合…随時改定された標準報酬月額は、その年の8月までの各月の標準報酬月額とする
  • 7月から12月までの間に随時改定された場合…随時改定された標準報酬月額は、翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする

【産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定】(育児休業等が終了した後、標準報酬月額が変動したとき)

産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定とは

従業員が産前産後休業や育児休業を取得し、その後これらの休業から職場に復帰したときに、育児(例えば、保育園の送迎など)が理由で就労時間が減り、給与が下がる場合があります。

このとき、復帰した月から3ヵ月間を平均した標準報酬月額が、休業前と比べて1等級以上変動した場合に、被保険者からの申出に基づき、復帰月から4ヵ月目の標準報酬月額から改定する手続のことを、「産前産後休業終了時改定」「育児休業等終了時改定」をいいます。

育児休業等終了時改定は、育児休業等の終了日において、3歳未満の子を養育している従業員が対象となります。

このとき、届出をすることは義務(強制)ではなく、あくまでも従業員の申出に基づいて行われることが特徴です。

これにより、例えば復帰後に標準報酬月額が増えた場合には、届出をしないことを選択することもできます。

産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定の手続

産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定の手続としては、賃金の変動があった月以後3ヵ月間の報酬額を、当該変動月から4ヵ月目に、速やかに、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を管轄の年金事務所(または健康保険組合)に届け出る必要があります(健康保険法施行規則第26条の2、第26条の3)。

有効期間(適用期間)

産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定で決定された標準報酬月額の有効期間は、次のとおりです(健康保険法第43条第2項)。

産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定で決定された標準報酬月額の有効期間

  • 1月から6月までの間に改定された場合…改定された標準報酬月額は、その年の8月までの各月の標準報酬月額とする
  • 7月から12月までの間に改定された場合…改定された標準報酬月額は、翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする