【2024年改正】「化学物質管理者」の選任義務化(選任要件・資格要件・職務内容)について解説(労働安全衛生法)

「化学物質管理者」とは

「化学物質管理者」とは

化学物質管理者」とは、化学物質等の管理について必要な能力を有し、事業場における化学物質の管理にかかる技術的事項を管理する者をいいます。

具体的には、化学物質管理者は、ラベル・安全データシート(SDS)などの作成の管理、リスクアセスメントの実施、ばく露防止措置の実施など、化学物質の管理を適切に進める上で不可欠な職務を管理する担当者として位置づけられています。

法改正前(2024(令和6)年3月31日以前)

事業者は、化学物質等のうち、労働者の危険または健康障害を生ずるおそれのあるものについては、危険性または有害性を調査しなければならず、これを「リスクアセスメント」といいます(労働安全衛生法第57条の3第2項)。

そして、リスクアセスメントの実施について、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9月18日付け指針公示第3号)では、リスクアセスメントの実施体制として、事業者は、化学物質管理者を指名し、安全管理者または衛生管理者などの下で、リスクアセスメント等に関する技術的業務を行わせることが望ましいとされていました(化学物質管理者の選任は努力義務)。

法改正後(2024(令和6)年4月1日以後)

2024(令和6)年4月1日施行の労働安全衛生法の改正により、新たな化学物質規制の体系が定められ、その中で化学物質管理者は、事業場の化学物質管理の技術的事項の管理を行う者として位置付けられ、法に基づき選任が義務付けられました

化学物質管理者の選任が義務付けられる事業場

化学物質管理者の選任が義務付けられる事業場

法令の改正により、次に定める事業場ごとに、化学物質管理者の選任が義務付けられます(労働安全衛生規則第12条の5第1項・2項)。

化学物質管理者の選任が義務付けられる事業場

  • リスクアセスメント対象物を製造し、または取り扱う事業場
  • リスクアセスメント対象物の譲渡または提供を行う事業場

「リスクアセスメント対象物」とは、法令に基づく「ラベル表示対象物」(労働安全衛生法施行令第18条)、および安全データシート(SDS)による「通知対象物」(労働安全衛生法第57条の2第1項)をいいます。

化学物質管理者は、事業場ごとに選任する必要があり、「事業場」とは、工場、店舗、営業所など、原則として同一の場所にあるものは一つの事業場として捉えられます(昭和47年9月18日発基第91号)。

したがって、化学物質管理者を個別の作業現場ごとに選任する必要はありません。

また、事業場の業種や規模に関する要件はありませんので、業種・規模に関わらず、上記の要件に該当する事業場は、化学物質管理者を選任する必要があります。

選任時期

対象となる事業場では、化学物質管理者を選任すべき事由が発生した日から、14日以内に化学物質管理者を選任する必要があります(労働安全衛生規則第12条の5第3項第一号)。

選任すべき人数

化学物質管理の人数については、特に要件は定められておらず、事業場ごとに最低1名を選任すれば足ります。

また、化学物質管理者を複数人選任し、職務を分担することは問題ありません。

その場合には、職務に抜け落ちが生じないよう、職務を分担する化学物質管理者や実務担当者との間で、十分な連携を図る必要があります。

選任義務の対象とならない事業場

主として一般消費者の生活の用に供される製品のみを取り扱う事業場においては、化学物質管理を選任する義務はありません。

「一般消費者の生活の用に供される製品」とは、次の製品をいいます。

一般消費者の生活の用に供される製品

  • 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律」に定められている医薬品、医薬部外品および化粧品
  • 農薬取締法に定められている農薬
  • 労働者による取り扱いの過程において固体以外の状態にならず、かつ、粉状または粒状にならない製品(工具、部品など、いわゆる成形品)
  • 表示対象物が密封された状態で取り扱われる製品(電池など)
  • 一般消費者のもとに提供される段階の食品
  • 家庭用品品質表示法に基づく表示がなされている製品、その他一般消費者が家庭等において私的に使用することを目的として製造または輸入された製品

選任要件(資格要件)

化学物質管理者は、事業場の種類に応じて、次の資格要件を満たす者を選任する必要があります(労働安全衛生規則第12条の5第3項第二号)。

事業場の種類資格要件
リスクアセスメント対象物を製造している事業場化学物質の管理に関する専門的講習(※)を修了した者
上記以外の事業場必要な能力を有すると認められる者 (資格要件なし)

(※)厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習の内容

科目時間
【講義】化学物質の危険性および有害性ならびに表示等2時間30分
【講義】化学物質の危険性または有害性等の調査3時間
【講義】化学物質の危険性または有害性等の調査の結果に基づく措置等その他の必要な記録等2時間
【講義】化学物質を原因とする災害の発生時の対応30分
【講義】関係法令1時間
【実習】化学物質の危険性または有害性等の調査、およびその結果に基づく措置等3時間

化学物質管理者を選任する際には、例えば、労働安全衛生法で一定の要件のもと選任が義務付けられている「安全管理者」、「衛生管理者」、「安全衛生推進者」、「衛生推進者」、「作業環境測定士」、「作業主任者」などの中から、化学物質の管理にかかる技術的事項について、専門的な知識を有する者から選任することが考えられます。

また、事業者は、化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知する必要があります(労働安全衛生規則第12条の5第5項)。

化学物質管理者の職務内容

化学物質管理者の職務には、大きく分類すると次の2つがあります。

  • 自社製品の譲渡・提供先への危険有害性の情報伝達に関する職務(下記1.)
  • 自社の労働者の安全衛生確保に関する職務(下記2.から6.)

具体的には、次の職務が定められています(労働安全衛生規則第12条の5第1項)。

なお、事業者は、化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者に対し、下記に掲げる事項をなし得る権限を与えなければならないとされています(労働安全衛生規則第12条の5第4項)。

化学物質管理者の職務の内容

  1. ラベル表示、安全データシート(SDS)の確認
  2. 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  3. リスクアセスメントの結果に基づく、ばく露防止措置の選択および実施管理
  4. リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応
  5. リスクアセスメントの結果の記録の作成・保存・周知
  6. リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置が適切に施されていることの確認、労働者のばく露状況、労働者の作業の記録、ばく露防止措置に関する労働者の意見聴取に関する記録の作成・保存・周知
  7. 1.から4.の事項の管理を実施するに当たっての労働者に対する必要な教育

1.ラベル表示、安全データシート(SDS)の確認

事業者は、リスクアセスメント対象物を含む製品をGHSに従って分類し、ラベル表示および安全データシート(SDS)を交付しなければなりませんが、化学物質管理者は、その作業を管理(ラベル表示およびSDSの内容の適切性の確認をすることなど)をすることとされています。

2.化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理

化学物質管理者は、事業者が実施すべきリスクアセスメントを推進し、実施状況を管理することとされています。

具体的には、下記の職務を行うこととされています。

化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理

  • リスクアセスメントを実施すべき物質の確認
  • 取り扱い作業場の状況確認(当該物質の取扱量、作業者数、作業方法、作業場の状況など)
  • リスクアセスメント手法の決定および評価
  • 労働者へのリスクアセスメントの実施およびその結果の周知など

3.リスクアセスメントの結果に基づく、ばく露防止措置の選択および実施管理

事業者がリスクアセスメント結果に基づき実施する、ばく露防止措置について、ばく露防止措置(代替物の使用、装置等の密閉化、局所排気装置または全体換気装置の設置、作業方法の改善、保護具の使用など)の選択および実施について管理することとされています。

4.リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応

化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合には、適切に対応しなければならないとされています。

そのために、事前に労働災害が発生した場合を想定し、その対応や応急措置などに関する訓練の内容・計画の策定を管理することとされています。

5.リスクアセスメントの結果の記録の作成・保存・周知

化学物質管理者は、1.から4.までの事項を記録し、保存することとされています。

また、リスクアセスメント結果について、労働者への周知を管理することとされています。

6.リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置が適切に施されていることの確認、労働者のばく露状況、労働者の作業の記録、ばく露防止措置に関する労働者の意見聴取に関する記録の作成・保存・周知

1年を超えない期間ごとに定期的に記録を作成し、3年間(リスクアセスメント対象物であり、かつ、がん原性物質の場合には30年間)保存することとされています。

7.1.から4.の事項の管理を実施するに当たっての労働者に対する必要な教育

1.から4.を実施するにあたり、労働者に対する必要な教育(雇入れ時教育を含む)の実施における計画の策定や教育効果の確認などを管理することとされています。

規定例(記載例)(安全衛生管理規程など)

化学物質管理者の選任に関する規定例(記載例)は次のとおりです。

労働安全衛生規程などに定めることが一般的です。

化学物質管理者の規定例(記載例)

(化学物質管理者の選任)

第●条 会社は、事業場の化学物質等にかかる技術的事項を実施、管理するために、化学物質管理者を選任します。

2 化学物質管理者は、法令に定めるところにより、化学物質等の適切な管理について必要な資格および能力を有する者のうちから、会社が任命します。

3 化学物質管理者は、法令の対象となる事業場ごとに1名以上選任します。

4 化学物質管理者は、化学物質等にかかる技術的事項として、次の事項を職務として行い、会社は当該事項をなし得る権限を与えることとします。

一、ラベル表示、安全データシート(SDS)の確認

二、化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理

三、リスクアセスメントの結果に基づく、ばく露防止措置の選択および実施管理

四、リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応

五、リスクアセスメントの結果の記録の作成・保存・周知

六、リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置が適切に施されていることの確認、従業員のばく露状況、従業員の作業の記録、ばく露防止措置に関する従業員の意見聴取に関する記録の作成・保存・周知

七、第一号から第四号までの事項の管理を実施するに当たっての従業員に対する必要な教育の実施