「事業場外のみなし労働時間制」とは?出張時の労働時間の算定方法について解説

はじめに

労務管理において、従業員の労働時間を正確に把握することは、もっとも基本的かつ重要といえます。

しかし、出張業務や、営業職の外回りなど、従業員が会社の外(事業場外)で働く時間については、労働時間を正確に把握することが困難な場合があるため、労働基準法では、「事業場外のみなし労働時間制」という制度を設けています。

事業場外のみなし労働時間制は、正しく運用されていないケースも散見され、会社にとって思わぬ労務リスクが生じる場合があります。

本稿では、事業場外のみなし労働時間制について、制度の内容、適用要件、手続など、基本的な内容を解説するとともに、制度を運用する際に問題となりやすい事業場内労働(内勤)が混在する場合の取り扱いについて解説します。

「事業場外のみなし労働時間制」とは

事業場外のみなし労働時間制」とは、従業員が事業場外で業務に従事することにより、その労働時間を算定することが困難な場合において、当該従業員の労働時間について、あらかじめ取り決めた時間を働いたものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の2)。

本来、会社には従業員の労働時間を正確に把握する義務があります。

しかし、従業員の出張、外回り営業(製品やサービスの営業販売、保険の勧誘など)、新聞記者による取材など、従業員が会社の外(事業場外)で仕事をする場合には、労働時間を正確に把握することが難しい場合があります。

そこで、このような場合の便宜を図るため、例外的に、一定の要件を満たすことにより、会社の労働時間の把握義務を一部免除し、事業場外での労働時間については、あらかじめ取り決めた時間を働いたものとみなすことが認められています。

なお、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、有効回答3,768社のうち、事業場外のみなし労働時間制を採用している会社は12.4%でした。

制度を適用するための要件

制度を適用するための要件

従業員が事業場外で働くからといって、当然に事業場外のみなし労働時間制を適用することができるものではありません。

制度を適用するためには、次の3つの要件を満たす必要があります(昭和63年1月1日基発1号)。

事業場外のみなし労働時間制の適用要件

  1. 事業場外で業務に従事すること
  2. 使用者の具体的な指揮監督が及ばないこと
  3. 労働時間の算定が困難であること

「使用者の具体的な指揮監督」とは、例えば、上司が取引先への訪問日時、面談時間、取引先間の移動時間を細かく指定するなど、業務にかかる時間配分について、従業員が具体的な指示命令を受けながら事業場外で業務に従事することをいいます。

時間配分について具体的な指揮監督をしているのであれば、自ずとその業務遂行に必要な労働時間も把握することができるため、制度の適用対象にはなりません

したがって、制度を適用するためには、事業場外における業務に要する時間配分の決定について、従業員に裁量を与えておくことが必要となります。

制度を適用することが認められない場合

上記の要件について、行政解釈によると、次のような場合には、使用者による指揮監督が及んでおり、制度を適用することは認められないと解されています(昭和63年1月1日基発1号)。

制度を適用することが認められない場合(昭和63年1月1日基発1号)

  1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者(※1)がいる場合
  2. 無線やポケットベルなどによって、随時使用者の指示を受けながら(※2)事業場外で労働している場合
  3. 事業場において、訪問先、帰社時刻など当日の業務の具体的な指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、事業場に戻る場合

(※1)労働時間の管理をする者

「労働時間の管理をする者」とは、職務権限上、労働時間について管理責任がある者をいい、単に上司や先輩というだけでは、必ずしも労働時間を管理する者に当たらないと解されます。

(※2)随時使用者の指示を受けている場合

「無線やポケットベル」というのは、行政通達が発出された昭和63年当時における例示であって、現在では、携帯電話、メール、Line、チャットツールなどが広く該当します。

行政通達の発出当時に比べると、今では連絡が容易になり、さらにはGPS機能などによって従業員の居場所を確認することが可能になったため、制度の適用にはより慎重になるべきといえます。

つまり、会社から指示をしようと思えば、いつでも指示できる状況にあるため、制度を適用するためには、携帯電話などによって随時会社から時間配分の指示をしないこと、および業務途中で頻繁な状況報告を行わせないなどの工夫が必要と考えます。

なお、裁判例では、携帯電話などの情報通信機器の活用や、従業員からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能であったとしても、業務に関する従業員の裁量の大きさや、使用者による指揮命令が及んでいないと認められる各事情から、事業場外のみなし労働時間制の適用を肯定したものがあります(ナック事件/東京高等裁判所平成30年6月21日判決)。

参考裁判例

会社が海外旅行の添乗員に対し、国際電話用の携帯電話を貸与し、常にその電源を入れておくものとした上、添乗日報を作成して提出することを指示していた事案において、裁判所は、次の理由から、添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法が定める「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断し、事業場労働のみなし労働時間制の適用を否定しました(阪急トラベルサポート事件/最高裁判所平成26年1月24日判決)。

(制度の適用を否定した理由)

  • 添乗業務は、旅行日程がその日時や目的地などを明らかにして定められることによって、業務の内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲およびその決定に係る選択の幅は限られているものといえる。
  • 添乗日報には、行程に沿って最初の出発地、運送機関の発着地、観光地などの目的地、最終の到着地およびそれらに係る出発時刻・到着時刻を正確かつ詳細に記載し、各施設の状況や食事内容なども記載するものとされており、添乗日報の記載内容は、添乗員の旅程の状況を具体的に把握することができるものとなっている。

事業場外のみなし労働時間制に関する裁判例については、次の記事をご覧ください。

「事業場外のみなし労働時間制」に関する裁判例【10選】を解説

労働時間の算定方法

労働時間の算定方法(みなし労働時間の決め方)

事業場外のみなし労働時間制を適用する場合においては、次のいずれかの時間によって、労働時間を算定する(みなす)こととなります。

なお、「みなす」とは、「そうであると仮定する」ことを意味し、従業員の実際の労働時間に関わらず、みなし労働時間を働いたものとして取り扱うこととなります。

いずれの方法によって労働時間を算定するかは、就業規則または労使協定によって定める必要があります(手続については後述)。

事業場外労働のみなし労働時間の算定方法

  • 所定労働時間
  • 業務の遂行に通常必要とされる時間(通常必要時間)

所定労働時間

「所定労働時間」とは、1日の原則的な労働時間であり、労働契約に基づき、始業時刻から終業時刻まで働いたときの労働時間(休憩時間を除く)をいいます。

例えば、従業員について、始業時刻が午前9時、終業時刻が午後6時、休憩時間が1時間と定められていれば、その従業員の所定労働時間は8時間になります。

通常必要時間

従業員が事業場外で行う業務の量によっては、労働時間が所定労働時間を超える場合があります。

そこで、事業場外の業務を遂行するための時間が、通常所定労働時間を超える場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間(通常必要時間)を働いたものとみなすことが認められています。

「通常所定労働時間を超える場合」とは、次の場合をいいます。

労働時間の「全部」を事業場外で業務に従事する場合

通常必要時間が所定労働時間よりも長い場合をいいます。

例えば、所定労働時間が8時間の会社で、事業場外で行う業務が、平均的にみて9時間程度要するものであれば、通常必要時間を9時間と取り決めておく必要があります。

労働時間の「一部」を事業場外で業務に従事する場合

事業場内で業務に従事した時間に、事業場外における通常必要時間を加えた時間が所定労働時間よりも長い場合をいいます。

例えば、所定労働時間が8時間の会社で、事業場内で3時間勤務し、事業場外で行う通常必要業務が6時間である場合には、合計時間(9時間)が所定労働時間(8時間)を超えることから、通常必要時間を6時間と取り決めておく必要があります。

上記いずれの場合にも、通常必要時間は、事業場外で実際に必要とされる労働時間を基準に設定します。

通常必要時間が、業務の種類や時期(繁忙期、閑散期)などによって異なる場合には、それぞれ別の時間を定めることも考えられます。

事業場外のみなし労働時間制の適用手続

会社が事業場外のみなし労働時間制を適用する際の手続は、次のとおりです(労働基準法第38条の2第2項)。

事業場外のみなし労働時間制の適用手続

  1. 「みなし労働時間所定労働時間」のとき→就業規則に定める
  2. 「みなし労働時間所定労働時間」のとき→労使協定を締結する

1.の場合は、就業規則において、事業場外のみなし労働時間制について定めることとなります。

2.の場合は、前述の「通常必要時間」を労使協定(従業員の過半数を代表する者との間で締結する協定)で締結する必要があります(労働基準法第38条の2第2項)。

さらに、通常必要時間が法定労働時間(1日8時間)を上回る場合には、労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第38条の2第3項)。

労使協定を締結せず、労働基準監督署に届け出ない場合には、罰則として30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第120条第1号)。

事業場内労働(内勤)が混在する場合の取り扱い

事業場外のみなし労働時間制を採用する場合に、運用上問題となりやすいのが、従業員が事業場内で働いた時間(以下、「内勤」といいます)の取り扱いです。

外回りの営業職など、仕事の大部分が事業場外で行われる職種であっても、営業資料の作成や社内会議などのために内勤をすることがあります。

従業員が内勤をした時間については、原則どおり、業務に従事した実労働時間を把握する必要があり、内勤時間について労働時間をみなすことは認められません

そこで、1日の中で事業場外のみなし労働時間制が適用される業務と、内勤業務とが混在する場合の労働時間の算定は、次のように取り扱います。

事業場外労働と内勤が混在する場合の取り扱い

  1. 1日の労働時間=事業場外におけるみなし労働時間+事業場内の実労働時間
  2. 1.の時間が所定労働時間を下回る場合には、所定労働時間とする

以下、事例をもとに説明します。

事例(事業場外労働と内勤とが混在する場合)

  • 所定労働時間…8時間(午前9時から午後6時まで/休憩1時間)
  • みなし労働時間(通常必要時間)…3時間
  • 午前9時から3時間内勤をした後、事業場外で働き、直帰した

この事例では、内勤時間である3時間は実労働時間で把握します。

次に、事業場外で働いた時間については、事業場外労働のみなし労働時間が適用されることにより、実労働時間に関わらず、労働時間は3時間となります。

これらを合計すると、6時間(3時間+3時間)になります。

この事例では、所定労働時間が8時間であることから、上記2.(合計時間が所定労働時間を下回る場合)が適用されることにより、結果として、この1日は所定労働時間(8時間)働いたものとして労働時間を算定することとなります。

一方、例えば、みなし労働時間(通常必要時間)を6時間と定めていた場合には、内勤時間3時間と通常必要時間6時間を合計すると、9時間になります。

この場合には、上記1.が適用されることにより、この日は9時間働いたものとして労働時間を算定することとなります。

割増賃金、休憩、休日、深夜労働との関係

事業場外のみなし労働時間制は、あくまで労働時間の算定方法に関する制度であって、法定労働時間や割増賃金の適用について、例外を認めるものではありません

したがって、例えば、みなし労働時間が法定労働時間である8時間を超える場合には、割増賃金の支払いが必要となります。

また、事業場外のみなし労働時間制についても、休憩、休日、深夜労働などに関する規定は適用されるため、会社は従業員に対して適宜休憩を与えなければならず、また、休日労働や深夜労働をさせた場合には、割増賃金の支払いが必要になります。