【2026年10月改正】「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正で新たに追加された手当を解説

同一労働同一賃金とは
「同一労働同一賃金」とは、会社は、職務内容が同じであれば(同一労働)、雇用形態に関わらず(正規雇用か非正規雇用かを問わず)、同じ額の賃金(同一賃金)を従業員に対して支払うべきとする考え方をいいます。
「同一労働同一賃金」は、あくまで法律の根底にある概念(考え方)であって、法律の条文上は、「同一労働同一賃金」という言葉は登場しません。
同一労働同一賃金の基本的な知識については、次の記事をご覧ください。
同一労働同一賃金とは?対象者、不合理な待遇差の判断基準、説明義務など基本的な内容を解説
同一労働同一賃金ガイドライン
パートタイム・有期雇用労働法では、正規雇用と非正規雇用との間における、「不合理な差別(合理的な理由のない差別)」が禁止されています。
したがって、正規雇用と非正規雇用との間の待遇差について、合理的な理由を説明できる限りは、賃金の額に相違があったとしても法律上の問題はありません。
待遇差が不合理であるかどうかを判断するに当たっては、賃金の総額を比較するのではなく、個別の賃金(基本給、賞与、手当など)ごとに、その賃金の趣旨に照らして比較していく必要があるとされています(長澤運輸事件/平成30年6月1日最高裁判所判決)。
そこで、厚生労働省は、「同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日厚生労働省告示第430号)」を公表しており、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者)との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのか、賃金の項目(基本給・賞与・手当)ごとに、原則的な考え方と具体例を示しています。
この同一労働同一賃金ガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます)」について、2026(令和8)年10月1日に改正がありますので、本稿では、改正に伴い新たに追加された手当を中心に解説します。
退職手当【新規追加】
退職手当には、労務の対価の後払い、功労報償などの様々な性質および目的が含まれることがあります。
改正後のガイドラインでは、新たに、通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも退職手当の待遇の性質および待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の退職手当を支給しない場合には、当該退職手当の相違は不合理と認められるものに当たり得ることに留意すべきと定められました。
ただし、退職手当を支給しない場合でも、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べて基本給を高く支給している等の事情がある場合を除きます。
これは、メトロコマース事件の判決を踏まえて追加されたものです。
同判決は、労働契約法第20条は、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給にかかるものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たり得ると示しました(メトロコマース事件/最高裁判所令和2年10月13日判決)。
無事故手当【新規追加】
改正後のガイドラインでは、新たに、通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の無事故手当を支給しなければならないと定められました。
「無事故手当」とは、一般に、トラック運転手やタクシー運転手などを雇用する運送・物流業界において、ドライバーの安全運転に対する意識を高めることなどを目的として、一定期間において交通事故や荷物事故を起こさなかった従業員に対して支給される手当をいいいます。
これは、ハマキョウレックス事件の判決を踏まえて追加されたものです。
同判決は、無事故手当(月額1万円)を契約社員にのみ支給しないことは、当該手当の趣旨が、優良ドライバーの育成や、安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給されるものであることを踏まえ、契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから、安全運転および事故防止の必要性については、職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではなく、また、上記の必要性は、当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や、会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるものではないことを理由に、不合理であると判断しました(ハマキョウレックス事件/最高裁判所平成30年6月1日判決)。
家族手当【新規追加】
改正後のガイドラインでは、新たに、労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給しなければならないと定められました。
ガイドラインが掲げる問題となる例・問題とならない例は、次のとおりです。
問題となる例・問題とならない例
(〇問題とならない例)
A社においては、通常の労働者であるXに対しては家族手当を支給しているが、労働契約の更新を繰り返していないなど、相応に継続的な勤務が見込まれない有期雇用労働者であるYに対しては、家族手当を支給していない。
(×問題となる例)
A社においては、通常の労働者であるXに対しては家族手当を支給しているが、労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者であるYに対しては、家族手当を支給していない。
これは、日本郵便(大阪)事件の判決を踏まえて追加されたものです。
同判決は、扶養手当に関し、継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給することは、使用者の経営判断として尊重し得るとして使用者の裁量があると述べつつも、契約社員について、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給する趣旨は妥当するため、扶養手当を契約社員に支給しないことは不合理であると判断しました(日本郵便(大阪)事件/最高裁判所令和2年10月15日判決)。
住宅手当【新規追加】
改正後のガイドラインでは、新たに、住宅手当が、「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、通常の労働者と同一の転居を伴う配置の変更がある短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の住宅手当を支給しなければならないと定められました。
ガイドラインが掲げる問題となる例・問題とならない例は、次のとおりです。
問題となる例・問題とならない例
(〇問題とならない例)
A社においては、転居を伴う配置の変更が見込まれる通常の労働者であるXには住宅手当を支給している。 一方で、有期雇用労働者であるYには、転居を伴う配置の変更が見込まれないため、住宅手当を支給していない。
(×問題となる例)
A社においては、転居を伴う配置の変更が見込まれることを理由として、通常の労働者であるXに対し、住宅手当を支給しており、当該変更が見込まれないことを理由として、有期雇用労働者であるYには住宅手当を支給していないが、A社では実態として通常の労働者に対しても、転居を伴う配置の変更を命じていない。
これは、ハマキョウレックス事件の判決を踏まえて追加されたものです。
同判決は、事案における住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得るとして、正社員に対して住宅手当を支給する一方で契約社員に対してこれを支給しないとする労働条件の相違は、不合理であるとはいえないと判断しました(ハマキョウレックス事件/最高裁判所平成30年6月1日判決)。
福利厚生施設【一部追加(利用料金・割引率等の利用条件)】
改正後のガイドラインでは、新たに、福利厚生施設(給食施設、休憩室および更衣室をいいます)の利用料金・割引率等の利用条件についても、短時間・有期雇用労働法第8条の適用を受けるものであると定められました。
そして、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質および目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとされています。
病気休職【一部追加(病気休暇中の給与の保障)】
改正後のガイドラインでは、新たに、通常の労働者に病気休職期間にかかる給与の保障を行う場合には、労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の給与の保障を行わなければならないと定められました。
ガイドラインが掲げる問題となる例・問題とならない例は、次のとおりです。
問題となる例・問題とならない例
(〇問題とならない例)
A社においては、労働契約の期間が1年である有期雇用労働者であるXについて、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとしている。
(×問題となる例)
A社においては、通常の労働者であるXには、病気休職期間にかかる給与の保障を行っているが、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者であるYには、病気休職期間にかかる給与の保障を行っていない。
これは、日本郵便(東京)事件の判決を踏まえて追記されたものです。
同判決は、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方、同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は不合理であると判断しました(日本郵便(東京)事件/最高裁判所令和2年10月15日判決)。
夏季冬季休暇【新規追加】
改正後のガイドラインでは、新たに、短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならないと定められました。
ガイドラインが掲げる問題となる例は、次のとおりです。
問題となる例
(×問題となる例)
A社においては、繁忙期に限定された短期間の勤務ではない有期雇用労働者であるXに対し、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与していない。
これは、日本郵便(佐賀)事件の判決を踏まえて追記されたものです。
同判決は、郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇などとは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は、上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていないことから、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当すると判断しました(日本郵便(佐賀)事件/最高裁判所令和2年10月15日判決)。
褒賞【新規追加】
改正後のガイドラインでは、新たに、褒賞であって、一定の期間勤続した労働者に付与するものについて、通常の労働者と同一の期間勤続した短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の褒賞を付与しなければならないと定められました。
これは、メトロコマース事件の判決を踏まえて追記されたものです。
同判決は、「業務上特に顕著な功績があった社員に対して褒賞を行う」と定められているものの、実際には、勤続10年に達した正社員には一律に表彰状と3万円が贈られており、当該要件は形骸化していることから、業務の内容にかかわらず一定期間勤続した従業員に対する褒賞ということになり、その限りでは正社員と契約社員とで変わりはなく、契約社員にこれらが一切支給されないのは、不合理であると判断しました(メトロコマース事件/東京高等裁判所平成31年2月20日判決)。

