労災保険の「特別加入制度」とは?対象者・加入要件・保険料などを解説

はじめに

労働者災害補償保険(以下、「労災保険」といいます)は、本来、労働者の業務上の災害に対する補償を行うための社会保険です。

しかし、労災保険では、中小企業の事業主や一人親方など、その業務の実態から、実質的に労働者に準じて保護することがふさわしい者に限り、特例的に労災保険に加入することができる「特別加入制度」を設けています。

本稿では、労災保険の特別加入制度について、その対象者や加入要件などを解説します。

なお、労災保険の基本的な仕組みについては、次の記事をご覧ください。

「労災保険(労働者災害補償保険)」とは?労災保険の仕組み・保険給付などを解説

特別加入制度とは

特別加入制度とは

特別加入制度」とは、中小企業の事業主や一人親方など、その業務の実態から、実質的に労働者に準じて保護することがふさわしい者に限り、その申請に基づき特例的に労災保険への加入を認め、業務災害や通勤災害が起きた場合に、労働者と同様の保険給付を行う制度をいいます

特別加入者の区分

労災保険に特別加入できるのは、「第1種特別加入者」、「第2種特別加入者」、「第3種特別加入者」のいずれかに該当する者です。

以下、順に解説します。

第1種特別加入者(中小事業主等)

第1種特別加入者」とは、下表の範囲に該当する中小事業の事業主と、その家族従事者等(事業主の家族、重役など労働者に該当しない者)をいいます(労災保険法第33条第一号、第二号、同法施行規則第46条の16)。

【表】中小企業の範囲

主たる事業の種類使用する労働者数(※)
金融業・保険業・不動産業・小売業常時50人以下
卸売業・サービス業常時100人以下
上記以外の事業常時300人以下

(※)1つの企業に工場や支店などがいくつかあるときは、それぞれに使用される労働者の数を合計した人数をいいます。

第1種特別加入者の特別加入の要件は、次のとおりです。

特別加入の要件(第1種特別加入者)

  1. 雇用する労働者について、労災保険にかかる保険関係が成立していること
  2. 労働保険事務組合(※1)に労働保険事務の処理を委託していること
  3. 事業主と家族従事者等を包括して加入(※2)すること

(※1)

「労働保険事務組合」とは、労働保険料徴収法に基づき、労働保険料の納付など、労働保険に関する手続きを、事業主の委託を受けて行う団体をいいます(労働保険料徴収法第33条)。

(※2)

次のいずれかに該当する就業実態のない事業主が、自らを包括加入の対象から除外することを申し出た場合には、当該事業主のみを特別加入者としないことができます(平成15年5月20日基発第0520002号)。

  • 病気療養中、高齢その他の事情のため、実際に就業していない事業主
  • 事業主の立場において行う事業主本来の業務のみに従事する事業主

第2種特別加入者(一人親方等)

第2種特別加入者」とは、労働者を使用しないで、一定の事業(※1)を行う者(一人親方等)および特定の作業(※2)に従事する者をいいます

これらの者は、同種同業の団体を結成し、その団体が特別加入することが認められています。

このとき、各々の一人親方等は、その団体に使用される労働者とみなされて、労災保険の給付を受けることができます(労災保険法第33条第三号、第四号、第五号)。

(※1)「一定の事業」の例(労災保険法施行規則第46条の17)

・自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業(個人タクシーなど)

・土木、建築その他の工作物の建設、解体等の事業(大工など)

・漁船による水産動植物の採捕の事業

(※2)「特定の作業」の例(労災保険法施行規則第46条の18)

・特定農作業

・特定農業機械作業

第3種特別加入者(海外派遣者)

第3種特別加入者」とは、海外派遣者をいい、その事業主または団体が特別加入の申請を行うことで、当該事業に使用される労働者として、労災保険の給付を受けることができます(労災保険法第33条第六号、第七号)。

労災保険法の適用においては、属地主義がとられているため、国内の事業からの「出張」の場合には労災保険の対象となりますが、海外の事業に「派遣」され、その事業に使用される場合には労災保険の対象となりません。

そこで、海外派遣者として特別加入をすることにより、労災保険の給付を受けることができます。

海外派遣者の特別加入の対象となる者の範囲は、次のとおりです。

ただし、日本国内で行われる事業または団体につき、労災保険にかかる保険関係が成立していることが特別加入の要件とされています。

  • 開発途上にある地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体が、当該団体の業務の実施のため、当該開発途上にある地域において行われる事業に従事させるために派遣する者
  • 日本国内において事業(有期事業を除く)を行う事業主が、海外において行われる事業に従事させるために派遣する者

特別加入者の給付基礎日額と保険料

給付基礎日額

一般的な労働者については、その実際の賃金から給付基礎日額(労働基準法が定める平均賃金に相当する額)を算定し、給付基礎日額を元に保険給付額が算定されます。

しかし、特別加入者は、労働者と異なり、労働基準法上の「賃金」が存在しません(海外派遣者は、海外での賃金であるため、そのままの額を用いるのは適切ではありません)。

そこで、特別加入者の給付基礎日額は、3,500円から25,000円までの範囲で段階的に定められた額から、特別加入者の希望する額を申請し、都道府県労働局長が決定することとされています

【表】特別加入保険料 算定基礎額表

給付基礎日額保険料算定基礎額給付基礎日額保険料算定基礎額
25,000円9,125,000円10,000円3,650,000円
24,000円8,760,000円9,000円3,285,000円
22,000円8,030,000円8,000円2,920,000円
20,000円7,300,000円7,000円2,555,000円
18,000円6,570,000円6,000円2,190,000円
16,000円5,840,000円5,000円1,825,000円
14,000円5,110,000円4,000円1,460,000円
12,000円4,380,000円3,500円1,277,500円

保険料

第1種特別加入保険料

第1種特別加入保険料は、労災保険にかかる中小事業主等の特別加入者についての保険料です。

第1種特別加入者の年間保険料は、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365)に、それぞれの事業に定められた保険料率を乗じたものになります(労働保険料徴収法第13条)。

例えば、建設事業(既設建築物設備工事業)の場合は、保険料算定基礎額に1,000分の12を乗じて得た額が年間保険料となります。

第2種特別加入保険料

第2種特別加入保険料は、労災保険にかかる一人親方等の特別加入者についての保険料です。

第2種特別加入者の年間保険料は、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365)に、その事業または作業ごとに適用する第2種保険料率を乗じたものになります(労働保険料徴収法第14条)。

第2種特別加入保険料は、26の事業または作業の種類ごとに、最高1,000分の52から最低1,000分の3の範囲内で定められています(労働保険料徴収法施行規則別表第5)。

第3種特別加入保険料

第3種特別加入保険料は、労災保険にかかる海外派遣者の特別加入者についての保険料です。

第3種特別加入保険料は、事業の種類に関わらず、一律に1,000分の3とされています(労働保険料徴収法第14条の2、労働保険料徴収法施行規則第23条の3)。

業務災害・通勤災害の認定

業務災害

特別加入者の業務災害の認定は、特別加入の申請時に記載された業務または作業の実態を基礎として行われます

中小事業主の特別加入の場合には、本来事業主として行うべき業務の遂行中(例えば、法人の執行機関として出席する株主総会、役員会への出席など)において被った災害については、業務災害とはなりません(令和4年6月28日基発0628第9号)。

通勤災害

通勤災害については、原則として、一般の労働者と同様に取り扱われます

ただし、一人親方等の特別加入者のうち、一部の者(自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業など)は、住居と就業場所との通勤の実態がはっきりとしないことから、通勤災害に関する保険給付は行われません。

保険給付

特別加入者は、業務災害および通勤災害に関する保険給付については、原則として、労働者とみなされて、労働者と同様に保険給付を受けることができます。

ただし、二次健康診断等給付については、行われません。