労働基準法が定める「労使協定」15種類を整理して解説(届出義務・有効期間など)

労使協定とは

労使協定」とは、会社と従業員の過半数を代表する者(従業員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合。以下同じ)との間において、書面によって締結される、従業員の労働条件に関する協定をいいます。

労働基準法では、15種類の労使協定が定められています。

労使協定は、その種類によって、労働基準監督署への届出義務がある(様式の指定がある)もの、および有効期間を定める必要があるものとないものとに分類されます。

本稿では、労働基準法が定める労使協定について、整理して解説します。

労使協定の種類と届出義務・有効期間等の一覧

労働基準法では、次のとおり、15種類の労使協定が定められています。

 労使協定の種類届出有効期間労働基準法様式
任意貯蓄必要不要18条第1号
賃金の一部控除不要不要24条なし
デジタルマネーによる賃金の支払い不要不要24条なし
1ヵ月単位の変形労働時間制※1必要必要32条の2第3号の2
フレックスタイム制不要※2不要32条の3第3号の3
1年単位の変形労働時間制必要必要32条の4第4号
1週間単位の非定型的変形労働時間制必要不要32条の5第5号
休憩の一斉付与の除外不要不要34条なし
時間外及び休日労働(36協定)必要必要36条第9号
10代替休暇不要不要37条なし
11事業場外のみなし労働時間制必要※3必要38条の2第12号
12専門業務型裁量労働制必要必要38条の3第13号
13時間単位年休不要不要39条4項なし
14年次有給休暇の計画的付与不要不要39条6項なし
15年次有給休暇中の賃金不要不要39条9項なし

※1就業規則によって制度を導入する場合には、労使協定の締結は不要

※2清算期間が1ヵ月を超える場合には、届出が必要

※3「みなし労働時間」が法定労働時間以下であるときは、届出は不要

以下、順に解説します。

任意貯蓄

労働基準法では、会社は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、または貯蓄金を管理する契約をしてはならないと定められており、いわゆる「強制貯金」を全面的に禁止しています(労働基準法第18条第1項)。

ただし、労働契約に付随するものではなく、従業員の委託に基づき、任意で貯蓄金を預かる「任意貯蓄」については、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出ることによって、認められています(労働基準法第18条第2項)。

なお、当該労使協定の届出は、「様式第1号」により行う必要があります(労働基準法施行規則第6条)。

賃金の一部控除

労働基準法では、賃金は、原則として全額を従業員に支払わなければならず、会社による恣意的な賃金の控除が禁止されており、この原則を一般に、「賃金の全額払いの原則」といいます(労働基準法第24条第1項)。

ただし、例外として、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結した場合には、労使協定で取り決められた賃金について、賃金から控除して支払うことが認められています(労働基準法第24条第1項但書)。

例えば、労使協定に基づき、福利厚生施設(社宅、寮など)の費用、社内預金、労働組合費、財形貯蓄の積立金などを控除することがあります。

ただし、行政通達により、どのようなものであっても当然に控除することが認められるものではなく、事理明白なものであり、かつ、社会通念上相当と認められる範囲に限られます(昭和27年9月20日基発675号)。

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

デジタルマネーによる賃金の支払い

労働基準法では、賃金は、原則として「通貨」によって支払わなければならず、この原則を一般に、「通貨払いの原則」といいます(労働基準法第24条第1項)。

「通貨」とは、いわゆる現金のことであり、貨幣と紙幣(日本銀行券)をいいます。

一方、従業員が同意した場合には、賃金を従業員の指定する「銀行口座」、「証券総合口座」または「資金移動業者口座」(資金決済法に基づき、内閣総理大臣の登録を受けることで、為替取引を行うことができる事業者)に振り込むことが認められています(労働基準法施行規則第7条の2)。

会社がデジタルマネーにより賃金を支払うためには、会社と、従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります(令和4年11月28日基発1128第4号)。

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

1ヵ月単位の変形労働時間制

1ヵ月単位の変形労働時間制」とは、1ヵ月以内の一定の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えないように所定労働時間を定める制度をいいます(労働基準法第32条の2)。

会社が1ヵ月単位の変形労働時間制を導入する場合には、制度の内容を就業規則に定めるか、または、従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結するか、いずれかの手続を行う必要があります(いずれの手続によるかは、会社が任意に決めることができます)。

ただし、労使協定を締結した場合には、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については「様式第3号の2」により行う必要があります(労働基準法施行規則第12条の2の2)。

フレックスタイム制

フレックスタイム制」とは、一定の期間(最大3ヵ月以内)の労働時間の上限をあらかじめ定めておき、従業員がその範囲内で、日々の始業・終業時刻を自ら決定して働くことを認める制度をいいます(労働基準法第32条の3)。

フレックスタイム制を導入する際に必要な手続として、会社は、就業規則に定めるとともに、従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります

このとき、清算期間が1ヵ月を超える場合には、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります(清算期間が1ヵ月以内の場合には、労使協定の届出は不要です)(労働基準法第32条の3第4項)。

なお、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については「様式第3号の3」により行う必要があります(労働基準法施行規則第12条の3第2項)。

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制」とは、1年以内の一定期間において、その期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、業務の繁閑に応じて所定労働時間を柔軟に設定することを認める制度をいいます(労働基準法第32条の4)。

会社が1年単位の変形労働時間制を導入する場合には、変形労働時間制の内容について就業規則に定めるとともに、会社と従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結し、その内容を労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第32条の4第4項)。

なお、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については、「様式第4号」により行う必要があります(労働基準法施行規則第12条の4第6項)。

1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制」とは、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生じることが多く、これを予測することが困難であるとされる一定の業種(事業場における従業員が常時30人未満である、小売業、旅館、料理店、および飲食店)について、1日10時間まで労働することを認める制度をいいます(労働基準法第32条の5第1項)。

1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合には、変形労働時間制の内容について、会社と従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結する必要があります(労働基準法第32条の5第1項第3項)。

なお、当該労使協定の届出は、「様式第5号」により行う必要があります(労働基準法施行規則第12条の5第4項)。

休憩の一斉付与の除外

休憩時間は、原則として、その事業場の従業員について、一斉に与えなければならないとされており、この原則を一般に、「一斉付与の原則」といいます(労働基準法第34条第2項)。

しかし、実際には、会社の組織事情や業務内容などによって、全員を一斉に休憩させることが困難な場合があります。

そこで、会社と従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結した場合には、例外的に、一斉に休憩時間を与えないことが認められています(労働基準法第34条第2項但書、労働基準法施行規則第15条)。

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

時間外及び休日労働(36協定)

従業員が法定時間外労働をする場合、または法定休日労働をする場合には、会社は、従業員の過半数代表者との間で「36(さぶろく)協定」を締結した上で、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第36条第1項)。

会社が36協定を締結せずに、法定労働時間を超え、または法定休日に従業員を働かせた場合には、罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が定められています(労働基準法第119条)。

なお、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については、原則として「様式第9号」(特別条項に関する定めをする場合は、併せて「様式第9号の2」)により行う必要があります(労働基準法施行規則第16条第1項)。

代替休暇

代替休暇」とは、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超えた場合に、その超える時間に対する割増賃金(割増率が50%になる部分)の一部の支払いに代えて、相当の休暇を与えることにより、割増賃金の支払いを免れることができる制度です(労働基準法第37条第3項)。

会社が代替休暇の制度を導入する場合には、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります(労働基準法施行規則第19条の2)。

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

事業場外のみなし労働時間制

事業場外のみなし労働時間制」とは、従業員が事業場外で業務に従事することにより、その労働時間を算定することが困難な場合において、当該従業員の労働時間について、あらかじめ取り決めた時間を働いたものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の2)。

会社が事業場外のみなし労働時間制を適用する際において、みなし労働時間が所定労働時間を超えるときは、会社と従業員の過半数代表者との間で、「通常必要時間」について労使協定を締結する必要があります(労働基準法第38条の2第2項)。

さらに、通常必要時間が法定労働時間(1日8時間)を上回る場合には、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第38条の2第3項)。

なお、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については、「様式第12号」により行う必要があります(労働基準法施行規則第24条の2第3項)。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制」とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に従業員の裁量にゆだねる必要がある業務について、労使の間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の3第1項)。

専門業務型裁量労働制を導入するためには、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります

なお、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については、「様式第13号」により行う必要があります(労働基準法施行規則第24条の2の2第4項)。

また、労使協定の有効期間については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内とすることが望ましいとされています(平成15年10月22日基発1022001号)。

時間単位年休

「1時間単位の有給休暇」(以下、「時間単位年休」といいます)とは、1時間を単位として年次有給休暇の取得を認める制度をいいます(労働基準法第39条第4項)。

例えば、1日の所定労働時間が8時間の会社において、1時間単位で時間単位年休を取得する場合、従業員は1日分の年次有給休暇を8分割して、休暇を取得することが可能になります。

会社が時間単位年休を導入するためには、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります(労働基準法施行規則第24条の4)。

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

年次有給休暇の計画的付与

年次有給休暇の計画的付与」とは、会社と従業員との間で取り決めを行うことによって、年次有給休暇の取得日について事前に計画を作成し、当該計画に従って、年次有給休暇を取得する制度をいいます(労働基準法第39条第6項)。

会社が年次有給休暇の計画的付与を行うためには、会社と従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結する必要があります

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

年次有給休暇中の賃金

従業員が年次有給休暇を取得した日に、会社が支払う賃金の計算方法については、労働基準法によって、「通常の賃金を計算して支払う方法」、「平均賃金を計算して支払う方法」、または「健康保険料の標準報酬日額を計算して支払う方法」の3つの方法が定められています(労働基準法第39条第9項)。

このうち、会社が「健康保険料の標準報酬日額を計算して支払う方法」を選択する場合には、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります

なお、当該労使協定は、法令による様式の定めはなく、任意で作成した書面で足り、労働基準監督署に届け出る必要はありません。