労務管理における「休日」「休暇」「休業」「休職」などの違いを解説
はじめに
従業員は、会社との間の労働契約に基づき、労働を提供する義務を負いますが、一方で、休日や休暇など、労働義務を負わない日(または時間)があります。
労務管理においては、従業員が「休むこと」に関する様々な法律や制度があるため、これらを適切に運用するためには、「休日」「休暇」「休業」などの違いを正しく理解し、区別して運用することが必要です。
本稿では、労務管理における「休むこと」に関する法律や制度について、それぞれの違いを整理しながら解説します。
休日(法定休日・法定外休日)
「休日」とは
「休日」とは、労働契約に基づき、従業員が労働する義務を負わない日のことをいいます。
労働基準法では、「休日」について、原則として、毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないと定めており(週休制の原則)、この休日のことを、「法定休日」といいます(労働基準法第35条第1項)。
法定休日は、1日単位で与える必要があり、ここでいう「1日」とは、午前0時から午後12時までの1暦日をいいます(昭和23年4月5日基発535号)。
また、一般に、法定休日に加えて与えられる休日(法律上の義務に基づかない休日)のことを「法定外休日」といい、法定休日と区別する意味で用いられます。
例えば、毎週土曜日と日曜日を休日とする、いわゆる完全週休2日制の会社においては、いずれか1日が法定休日、もう1日が法定外休日となります。
「休日」と、「休暇」「休業」の違い
休日と同じく、従業員が労働義務を負わない日として「休暇」があります。
ただし、「休暇」は、労働契約上、本来は従業員が労働義務を負う日(就業日)であるものの、会社が個別的に労働義務を免除する点で、休日と異なります。
また、「休業」についても、「休暇」と同様に、労働契約上、本来は従業員が労働義務を負う日(就業日)であるものの、一定期間にわたって労働義務を免除する点で、休日と異なります。
休暇(年次有給休暇など)
「休暇」とは
「休暇」とは、労働契約上、本来は従業員が労働義務を負う日(就業日)であるものの、会社が個別的に労働義務を免除した日(または時間)をいいます。
休暇の種類
「休暇」は、法律上の権利として定められる休暇(法定休暇)と、会社が福利厚生の一環として、任意に定める休暇(法定外休暇)とに分類することができます。
「休暇」のうち、法律上、会社に休暇中の賃金を支払うべき義務が定められているのは、年次有給休暇のみであり、他の休暇を取得した際には、会社に賃金を支払う義務はなく、無給とすることもできます。
休暇の種類
【法定休暇の例】
- 裁判員休暇(労働基準法第7条)
- 年次有給休暇(労働基準法第39条)
- 生理休暇(労働基準法第68条)
- 看護休暇(育児・介護休業法第16条の2)
- 介護休暇(育児・介護休業法第16条の5)
【法定外休暇の例】
- 特別休暇(夏季休暇、リフレッシュ休暇、私傷病休暇など)
- 慶弔休暇(結婚休暇、忌引き休暇など)
なお、休暇を取得する単位について、年次有給休暇は、従業員の過半数代表者との間で労使協定を締結することによって、1時間単位で取得することができます(労働基準法第39条第4項)。
また、看護休暇および介護休暇は、法律上、1時間単位で取得することが認められています。
休業(産前産後休業など)
「休業」とは
「休業」とは、労働契約上、本来は従業員が労働義務を負う日(就業日)であるものの、会社が個別的に労働義務を免除した日(または期間)をいいます。
法律上の性質は、「休暇」と同様であり、「休暇」と「休業」の使い分けについては、明確な理由があるものではありません。
一般的には、「休業」という場合、産前産後休業など、法律の定めに基づいて、従業員が一定期間にわたり労働義務を免除される場合に用いられています。
休業の種類
法律が定める休業の種類は、次のとおりです。
法律上の休業制度
- 産前産後休業(労働基準法第65条)
- 育児休業(育児・介護休業法第5条)
- 介護休業(育児・介護休業法第11条)
従業員が休業をした際には、法律上、会社に賃金を支払うべき義務はなく、無給とすることもできます。
なお、産前産後休業、育児休業および介護休業については、社会保険(健康保険または雇用保険)による保障が行われます。
休業手当
従業員の意思に関わらず、会社の都合により、一方的に労働義務を免除する場合にも「休業(を命じる)」ということがあり、労働基準法では、休業によって従業員が不利益を被らないように、会社が休業を命じた場合に行うべき賃金の補償として、「休業手当」を定めています。
「休業手当」とは、会社の責任(帰責事由)によって従業員に休業を命じたことにより、従業員が労務を提供できなくなった場合に、その従業員の休業期間中の生活を保障するために、会社に支払いが義務付けられる賃金をいい、休業手当の額は、原則として平均賃金(労働基準法第12条)の60%以上とされています。(労働基準法第26条)。
なお、休業手当は、労働義務のある日(所定労働日)について、休業によって従業員が労務を提供できなくなった場合に支給するものであることから、労働義務のない会社の休日(所定休日)には、休業手当を支払う必要はありません。
休業補償
従業員が業務上の傷病によって労働義務を果たせず、療養する場合にも、「休業」ということがあり、会社は当該休業に対して「休業補償」を行う義務が生じることがあります。
会社は、従業員が、業務上の負傷または疾病による療養のため、働くことができないために賃金を受けない場合においては、休業補償として、平均賃金の100分の60を支払わなければならないとされています(労働基準法第76条)。
ただし、労災保険によって、労働基準法に定める休業補償と同等の給付が行われることをもって、その限りにおいて、会社は休業補償を行う責任を免れます。
休職(私傷病休職など)
「休職」とは
「休職」とは、一般に、従業員が私傷病などの事由によって、長期間にわたって業務を行うことができない場合(労務不能の場合)に、従業員としての身分を保ったままで、会社が一定期間の就労を免除する取り扱いをいいます。
休職は、法律上、制度として設けることが会社に義務付けられているものではありません。
休職制度を設けるかどうか、また、設けるとしても、その内容(休職事由や休職期間など)をどのような内容にするのかは、会社が任意に定めることができます。
したがって、会社が休職制度を設けていない場合には、従業員に休職を求める法的な権利はありません。
休職の種類
休職の種類としては、私傷病休職の他にも、「起訴による休職」、「公務就任による休職」、「出向による休職」などのように、労務は提供できるものの、就労することが不相当となったことを理由とする休職があります。
休憩
「休憩」とは、従業員の権利として、労働から離れることを保障されている時間をいいます(昭和22年9月13日発基17号)。
法律により、休憩時間は、労働時間の途中に与えなければならないとされており、これを「途中付与の原則」といいます(労働基準法第34条第1項)。
休憩時間中は労働義務が一時的に免除されますが、休憩は労働義務がある日について、労働時間と労働時間の合間に取得する短時間の休みである点で、休暇や休業と異なります。
休憩については、次の記事をご覧ください。
【労働基準法】休憩時間の長さ(45分・60分)と与え方(途中付与・一斉付与・自由利用)に関するルールを解説
休息
「休息」については、労働基準法では特に用いられていませんが、労務管理においては、次の場面で登場することがあります。
勤務間インターバル
「休息」が用いられる場合の例として、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間における時間を意味することがあり、これを「勤務間インターバル」ということがあります。
勤務間インターバルとして、一定時間以上の休息時間を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保する制度を設けることがあります。
現在では、勤務間インターバル制度を導入することは、会社の努力義務とされています(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法第2条)。
休息期間(改善基準告示)
「改善基準告示」とは、正式には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」をいい、タクシー・トラック・バスなどの自動車運転者について、労働時間などの労働条件の向上を図るため、1989(平成元)年に大臣告示として制定された基準をいいます(平成元年労働省告示第7号)。
改善基準告示では、すべての事業に共通して適用される労働基準法だけでは規制することが難しい、自動車運転業務に特有の拘束時間、休息期間、および運転時間などに関する基準を定めています。
改善基準告示における「休息期間」とは、勤務と勤務の間(終業後から次の始業までの間)の自由な時間(睡眠時間を含む従業員の生活時間)をいい、例えば、トラック運転においては、継続9時間以上(11時間以上与えるよう努める)の休息期間を与えることが義務付けられています。