労働契約の終了事由(期間満了・任意退職・解雇・定年など)を解説
はじめに
「労働契約」とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することによって成立する契約をいいます(労働契約法第6条)。
労働契約が終了する場合には、その事由に応じて、それぞれ留意すべき点があります。
本稿では、労働契約の終了事由ごとに、それぞれに適用される法律や、留意点を解説します。
労働契約の終了事由
労働契約の終了事由について分類すると、次のとおりです。
労働契約の終了事由
- 労働契約の期間の満了
- 任意退職(辞職)
- 解雇
- 定年
- 事実上の終了(使用者の倒産、労働者の死亡など)
以下、順に解説します。
労働契約の期間の満了
労働契約における期間の定め
労働契約においては、期間を定めずに契約する場合と、期間を定めて契約する場合があり、一般に、前者を無期労働契約、後者を有期労働契約といいます。
「労働契約の期間に関する事項」は、労働条件通知書における絶対的明示事項とされており、労働者の雇入れ時において、使用者が必ず明示しなければならない事項とされています(労働基準法施行規則第5条第1項第1号)。
有期労働契約を締結する際には、労働基準法により、労働契約は、原則として3年を超える期間について締結してはならないとされています(労働基準法第14条)。
ただし、例外として、高度の専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る)との間で締結される労働契約、および、満60歳以上の労働者との間で締結される労働契約については、最長で5年まで労働契約を締結することが認められます。
また、道路建設など、一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約については、当該事業の完了までを終期として、労働契約を締結することが認められています。
なお、これらは1回の契約における契約期間の上限であり、契約を更新することによって、結果的に3年(または5年)を超えることは問題ありません。
期間の満了による労働契約の終了
使用者は、有期労働契約を締結するときは、労働者に対して、契約期間の満了後における、当該契約の「更新の有無」を明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条第1項第1号の2)。
契約を「更新しない」旨を明示していた有期労働契約について、契約期間が満了した場合には、当該期間の満了によって、何ら手続を要することなく、労働契約が終了します。
一方、契約を「更新する(または更新する場合がある)」旨を明示していた有期労働契約については、労働契約はいったん終了するものの、あらかじめ労働契約で定めた更新の判断基準(例えば、契約期間満了時における業務量や、契約期間中の勤務成績に応じて契約を更新するなど)に基づき契約が更新され、同時に新たな労働契約が成立することとなります。
なお、使用者が、次に該当する有期労働契約の契約を更新しない場合(あらかじめ契約を更新しない旨を明示している場合を除く)には、契約期間満了日の30日前までに予告をしなければならないとされています(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第2条)。
契約の不更新時に予告を要する場合
- 労働契約が3回以上更新されている場合
- 労働者が雇入れの日から1年を超えて継続勤務している場合
任意退職(辞職)
任意退職(辞職)とは
「任意退職(辞職)」とは、労働者の意思表示に基づいて、労働契約を解約することをいいます。
解約にかかる手続について、一般的には、就業規則などによって、退職願(または退職届)を提出することが定められていますが、法的には、口頭やメールによる意思表示も有効と解されます。
また、どのような理由に基づいて解約するかによって、法的な効力に影響はありません。
慣習として、退職願(または退職届)には、「一身上の都合」などと記載することが一般的といえます。
退職にかかる使用者の承認
就業規則などによって、「退職をする場合には、1ヵ月前に退職を願い出て、使用者の承認を得ること」などと定められていることがあります。
このとき、原則として、任意退職(辞職)にかかる意思表示をするだけでは、退職は成立せず、退職にかかる使用者の承認を得て、はじめて退職が確定することとなります。
このような退職を、一般に、「合意解約」といい、合意解約とは、労働者と使用者の間の合意によって、労働契約を将来に向けて解約することをいいます。
合意解約による場合、使用者の承認があるまでは、退職することが確定しないため、承認があるまでの期間は、労働者から退職の申出を撤回することが可能です。
裁判例では、「自主退職に理事長の承認を要する」としていたところ、その承認がなされる前に、労働者の弁護士から「引き続き働きたいのでもう一度話し合いたい」という旨の電話連絡があったことを、退職の申し込みの撤回として認めた事例があります(学校法人大谷学園事件/横浜地方裁判所平成23年7月26日判決)。
退職に関する民法の定め
労働者が退職の意思を示しているものの、使用者が承認をしないなど、退職について労使の合意が成立しない場合には、次のとおり、民法の定めが適用されることがあります。
雇用の終了に関する民法の定め
【期間の定めのない雇用の解約の申入れ】
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する(民法第627条第1項)。
【やむを得ない事由による雇用の解除】
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。
この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う(民法第628条)。
したがって、正社員など、期間を定めずに雇用される労働者については、使用者が承認するかどうかに関わらず、退職を申し入れてから2週間が経過することによって、労働契約が終了することとなります。
解雇
解雇とは
「解雇」とは、使用者から一方的に労働契約を解約することをいいます。
解雇の種類
解雇は、その態様によって、主に次の3つに分類されます。
解雇の種類
- 普通解雇…労働者の能力不足、勤務成績不良、または私傷病などによって、今後の労働契約を継続することができない場合に行う解雇
- 懲戒解雇…労働者による職場の服務規律違反に対する懲戒処分として行う解雇
- 整理解雇…使用者の業績の悪化に伴うリストラなど、使用者の都合によって行う解雇
解雇制限
労働基準法により、使用者は、原則として、次の期間中は労働者を解雇してはならないとされています(労働基準法第19条第1項)。
解雇制限
- 労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、その療養のために休業する期間中、およびその後30日間
- 女性が産前産後休業をする期間、およびその後30日間
解雇の手続
使用者が労働者を解雇する場合には、原則として、解雇までに次のいずれかの手続をとる必要があります(労働基準法第20条)。
解雇の手続
- 解雇をする30日以上前に「解雇予告」をすること
- 平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を支払うこと
つまり、使用者が労働者を解雇する場合には、前もって(30日以上前に)解雇の日を予告しておく必要があり、もし直ちに(予告をしないで)解雇をしようとする場合には、解雇予告手当を支払う必要がある、というのが原則です。
退職勧奨
解雇と混同しやすい労働契約の終了事由として、「退職勧奨」があります。
「退職勧奨」とは、使用者が労働者に対して、自主的に退職を勧めることをいいます。
これは、あくまで労働者の意思決定に委ねられている点で、使用者が一方的に労働契約を解約する解雇とは異なります。
労働者の自由な意思決定によって退職勧奨に応じる場合は、前述の「合意解約」に該当するため、問題ありませんが、使用者が労働者の自由な意思決定を妨げて退職勧奨をすると(例えば、強迫を伴う場合など)、違法な権利侵害として、解雇が違法となることがあります。
定年
定年とは
「定年」とは、労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とすることをいいます。
定年の年齢については、高年齢者雇用安定法によって下限が定められており、使用者が定年の定めをする場合には、当該定年の年齢は60歳を下回ることができないとされています(高年齢者雇用安定法第8条)。
例えば、使用者が就業規則によって、定年の年齢を50歳と定めたとしても、その就業規則の定めは法律上無効となります。
また、定年の年齢については、退職に関する事項として、就業規則によって定めておく必要があり(労働基準法第89条第3号)、就業規則に定年の年齢が定められていない場合には、法的には、定年がないものと解されます。
定年の年齢と高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法では、定年の年齢に応じて、高年齢者について次の措置を講じるべき旨を定めています。
高年齢者雇用安定法における措置
- 65歳未満の定年を定めた場合における、65歳までの雇用確保措置
- 70歳までの就業確保措置
雇用確保措置の内容
法律では、65歳未満の定年の定めをしている使用者は、「高年齢者雇用確保措置」として、次の3つの措置のうち、いずれかの措置を講じなければならないと定められています(高年齢者雇用安定法第9条)。
高年齢者雇用確保措置の内容
- 65歳までの定年の引上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年の定めの廃止
事実上の終了
使用者の倒産、解散、労働者の死亡などによって、労働契約を事実上継続することが不能になったことによって、労働契約が終了するものです。
また、就業規則に定める退職事由に基づき、労務提供ができないことを理由として退職する場合もあります。
就業規則の退職事由の一例
- 死亡したとき
- 休職期間が満了しても休職事由が消滅しないとき
- 行方不明となり、一定期間にわたり連絡がとれないとき
- 役員に就任したとき