「就業規則」とは?就業規則の作成義務・記載内容など基本を解説

はじめに
企業の労務管理においては、企業の成長や法改正など、社内外の状況の変化に合わせて就業規則を適宜アップデートしていくことが、法令遵守やトラブルの起こりにくい労務管理を目指す上で、非常に重要となります。
本稿では、就業規則について、その作成義務や記載内容など基本的な事項を解説します。
「就業規則」とは
「就業規則」とは
「就業規則(しゅうぎょうきそく)」とは、簡単にいうと、労働時間や服務規律など、労働者が働くうえで守らなければならないルール(労働条件)について定められている、いわば「職場のルールブック」をいいます。
就業規則に記載する内容や、作成・変更する際の手続などについては、労働基準法に定められています。
就業規則の必要性
企業では多様な考えをもった労働者が働いており、全員がそれぞれの意見や価値観に基づいて勝手に行動してしまうと、企業の秩序を維持することができません。
そこで、就業規則によって職場のルールを定めることにより、労働者が一定のルールに従って行動することで、企業の秩序を維持することができるようになります。
また、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効となり、無効となった部分は就業規則で定める基準によります(労働契約法第12条)。
つまり、労働者は、就業規則で定められている労働条件よりも不利な条件(就業規則を下回る条件)で働くことのないよう、法律によって保護されているといえます。
就業規則の作成義務
労働基準法では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に対して、就業規則を作成することを義務付けています(労働基準法第89条)。
就業規則の作成義務
- 「常時10人以上」であること
- 「労働者」を使用していること
- 法律の適用は「事業場」単位であること
「常時10人以上」であること
人数の要件については、常態として雇用している人数をいいます。
例えば、常態として9人の労働者を雇用しており、繁忙期にだけ一時的に1人増員する場合には、この要件を満たしませんので、就業規則の作成義務はありません。
一方、常態として10人の労働者を雇用しており、退職によって一時的に9人になっているとしても、常時10人以上に該当するものとして就業規則の作成義務があります。
「労働者」を使用していること
ここでいう「労働者」とは、使用者に雇われている者であれば、雇用形態を問いません。
したがって、正社員に限らず、アルバイト、パート、嘱託なども含まれます。
例えば、正社員が7人で、その他にパートが3人いることが常態であれば、合計して常時10人以上の要件を満たします。
なお、派遣契約に基づき派遣される労働者は、派遣元の使用者の労働者として人数に含められ、派遣先の労働者としては人数に含められません。
法律の適用は「事業場」単位であること
就業規則の作成義務は、「事業場」という場所を単位として生じるものであり、企業全体の人数は作成義務に影響しません。
例えば、本社と異なる所在地に支店がある場合、原則として、本社と支店とは別の事業場として取り扱われることになります。
したがって、本社と支店のそれぞれで、常時10人以上であるかどうかを判断します。
例えば、本社で常時9人、支店で常時9人の労働者がいる場合には、いずれの事業場も常時10人に満たないため、就業規則の作成義務はありません。
就業規則の記載内容
絶対的記載事項
就業規則には、「労働時間」「賃金」「退職」の3つの内容を必ず記載する必要があります。
これを「絶対的記載事項」といいます(労働基準法第89条)。
これらの内容が記載されていない就業規則は、労働基準法が定める罰則の対象となります。
絶対的記載事項の具体例
- 労働時間等…始業・終業時刻・休憩時間・休日・休暇・交替制の場合の就業時転換など
- 賃金…決定方法・計算方法・支払方法・締切日・支払日・昇給など(臨時の賃金等を除く)
- 退職…定年・退職事由・解雇事由など
相対的記載事項
また、これに加えて、決まりがあるのであれば、就業規則に記載することが求められる事項があり、これを「相対的記載事項」といいます。
相対的記載事項の具体例
- 退職手当
- 賞与・最低賃金額
- 食費・作業用品などの費用負担
- 安全衛生
- 職業訓練
- 災害補償・業務外の傷病扶助
- 表彰・制裁
- その他(事業場の労働者のすべてに適用される定め)
さらに、上記のいずれにも該当しない事項を記載することも可能です。
これを「任意的記載事項」といいます。
任意的記載事項には、例えば、次の事項などがあります。
任意的記載事項の例
- 会社の理念
- 制度の趣旨
- 採用手続
就業規則の別規程
企業によっては、就業規則の他に、「賃金規程」「退職金規程」「安全衛生管理規程」など、別規程が作成されることがあります。
これらは、もともとは就業規則に記載すべき内容ですが、ボリュームが多いなどの理由から、就業規則とは独立させて別規程を設けることで、社内規程を整理して管理しやすくなるというメリットがあります。
このとき、就業規則には、「賃金に関する事項については、賃金規程に定めるものとする」など、いわゆる委任規定を定めておくことが一般的です。
なお、別規程といえども就業規則の一部であることに変わりはないため、後述する労働基準監督署への届出など、就業規則の作成・変更に関する手続が必要となります。
就業規則の作成・変更手続
実務上、就業規則を作成・変更する場合には、次の手順によって手続を行います。
就業規則の作成・変更にかかる手続
- 就業規則の作成・変更案を用意する
- 労働者代表から意見を聴取する
- 労働基準監督署に届出をする
- 労働者に就業規則を周知する
以下、順に解説します。
就業規則の作成・変更案の用意
就業規則の作成・変更案の用意については、自社で行うか、または専門家に依頼するかの選択肢があります。
自社で制定する場合には、厚生労働省が提供する様式(モデル就業規則)など、信頼できるひな型を用いる方がよいでしょう。
専門家に依頼する場合には、就業規則の作成・変更を取り扱う社会保険労務士や弁護士に依頼することが一般的です。
労働者代表への意見聴取・就業規則の労働基準監督署への届出
労働基準監督署への届出義務
就業規則を制定したとき、または改訂したときは、使用者はその就業規則を、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。
届出は事業場単位で行う必要があるため、企業は同じでも複数の事業場がある場合は、事業場ごとに、それぞれの管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
なお、これはあくまで届出の手続きであって、就業規則の内容について、労働基準監督署の「許可」を得るものではありません。
労働者代表への意見聴取と意見書の添付
就業規則の届出をする際には、事前に労働者を代表する者(過半数労働組合がある場合はその組合)の意見を聴く必要があり、それを証するために「意見書」を添付する必要があります(労働基準法第90条)。
この意見書には、労働者代表の氏名を記載する必要があります(労働基準法施行規則第49条第2項)。
なお、労働者の過半数代表者になることのできる労働者の要件や、その選出方法については、法令によって次のとおり定められています(労働基準法施行規則第6条の2第1項)。
労働者の過半数代表者の要件
- 労働基準法第41条第2号に規定する監督・管理の地位にある者でないこと
- 労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと
意見書では、労働者代表が、作成・変更される就業規則の内容について意見を述べます。
ただし、これはあくまで労働者代表を通じて、労働者の意見を尊重するための手続であって、仮に「就業規則の内容について反対する」旨の意見が記載されていたとしても、労働基準監督署では届出が受理されます。
つまり、就業規則の作成・変更の際には、労働者代表の「同意」を得ることまでは求められていないということを意味します。
就業規則の周知
作成・変更された就業規則は、見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって、労働者に周知しなければならないとされています(労働基準法第106条)。
労働者に周知されていない就業規則は、法律上、就業規則としての効力を認めない(無効である)と判断した裁判例があるため、必ず周知をしておく必要があります(フジ興産事件/最高裁判所平成15年10月10日判決)。
就業規則を労働者に周知するための具体的な方法は、法令によって、次の3つの方法が定められています(労働基準法施行規則第52条の2)。
就業規則の周知方法
- 常時、各作業場の見やすい場所に掲示または備え付けすること
- 書面を労働者に交付すること
- データを労働者が常時確認・閲覧できるように、パソコンなどの機器を設置すること
罰則
法律上、就業規則の作成・届出(労働基準法第89条)、意見聴取(労働基準法第90条1項)、周知(労働基準法第106条1項)の違反があった場合には、罰則として、使用者に対して、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第120条)。

