【2022年改正】アルコールチェック義務化(白ナンバー車)の内容と企業対応を解説(道路交通法改正)
- 1. 改正の概要
- 2. アルコールチェック義務の対象事業者(安全運転管理者の選任事業者)
- 2.1. 安全運転管理者の選任事業者
- 2.2. 安全運転管理者の業務内容
- 3. 記録簿への記録・保存義務(1年間)・記録内容
- 3.1. 記録簿への記録内容
- 3.2. 罰則
- 4. 酒気帯びの有無の確認対象者・タイミング・確認方法
- 4.1. 確認する対象者
- 4.2. 確認するタイミングはいつか?
- 4.3. 確認する方法
- 4.3.1. 原則
- 4.3.2. 例外(直行直帰の場合など)
- 4.4. 確認者
- 5. アルコール検知器
- 5.1. アルコール検知器の性能
- 5.2. 常時有効に保持する義務
- 5.3. アルコール数値の基準
- 6. 必要となる企業対応
- 6.1.1. 1.対象となる事業所の確認・2.安全運転管理者の適切な選任
- 6.1.2. 3.酒気帯びの有無の確認のルール化(確認のタイミング、対象者など)
- 6.1.3. 4.記録簿の作成・記録・保管
- 6.1.4. 5.アルコール検知器の手配
- 6.1.5. 6.就業規則の整備
改正の概要
道路交通法施行規則の改正により、安全運転管理者に対して、下記の業務が義務化される(業務が拡充される)こととなります(道路交通法施行規則第9条の10第6号・第7号新設)。
2022(令和4)年4月1日改正
- 運転前後の運転者の状態を、目視などで確認することにより、運転者の酒気帯びの有無を確認すること
- 酒気帯びの有無について記録し、記録を1年間保存すること
2022(令和4)年10月1日改正
- 運転者の酒気帯びの有無の確認を、アルコール検知器(※)を用いて行うこと
- アルコール検知器を常時有効に保持すること
(※)「アルコール検知器」とは、呼気中のアルコールを検知し、その有無またはその濃度を警告音、警告灯、数値などにより示す機能を有する機器をいいます。
なお、本記事は令和3年11月10日付の警察庁通達(以下、「通達」といいます)を参考に作成しています。
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アルコールチェック義務の対象事業者(安全運転管理者の選任事業者)
安全運転管理者の選任事業者
一定台数以上の自動車を使用する事業者は、自動車を使用する事業所ごとに、安全運転管理者を選任しなければならないと定められています。
アルコールチェックは、安全運転管理者の業務として義務付けられることから、安全運転管理者を選任しなければならない事業所を有する事業者が、法改正の対象となる事業者といえます。
安全運転管理者の選任基準
- 乗車定員が11人以上の自動車1台以上 または、
- その他の自動車5台以上(※)
(※)自動二輪車(原付を除く)は1台を0.5台としてカウントする
上記は、会社全体で何台使用しているか(企業単位)ではなく、一事業所あたり(事業所単位)の台数を基準に判断されます。
今回の改正は、アルコールチェックを義務付ける対象を、緑ナンバー(他人の荷物を有償で運ぶ車両、例えば、タクシーやトラック)(2011(平成23)年5月1日義務化)を使用する事業所から、新たに白ナンバー(自社の荷物を自社の車で運ぶ車両、例えば、社用車や営業車)の自動車を使用する事業所にまで拡大したことが大きな特徴といえます。
安全運転管理者の業務内容
安全運転管理者の業務は法律によって定められており、例えば、運行計画の作成、点呼、日常点検、安全運転指導などが挙げられます。
今回の改正により、安全運転管理者の業務が7つから9つに拡大され、新たにアルコールチェックを行うことが義務付けられることとなりました。
【改正前】 |
【改正後①】 (2022年4月1日施行) |
【改正後②】 (2022年10月1日施行) |
(1)運転者の適性等の把握 | (1)運転者の適性等の把握 | (1)運転者の適性等の把握 |
(2)運行計画の作成 | (2)運行計画の作成 | (2)運行計画の作成 |
(3)交替運転者の配置 | (3)交替運転者の配置 | (3)交替運転者の配置 |
(4)異常気象時等の措置 | (4)異常気象時等の措置 | (4)異常気象時等の措置 |
(5)点呼と日常点検 | (5)点呼と日常点検 | (5)点呼と日常点検 |
ー | (6)目視等による運転前後の酒気帯びの有無の確認 | (6)アルコール検知器を用いた運転前後の酒気帯びの有無の確認 |
ー | (7)アルコールチェックの記録(1年) | (7)アルコールチェックの記録(1年)と常時有効性確認 |
(6)運転日誌の備付け | (8)運転日誌の備付け | (8)運転日誌の備付け |
(7)安全運転指導 | (9)安全運転指導 | (9)安全運転指導 |
なお、会社は、安全運転管理者を選任したときは、選任日から15日以内に、事業所を管轄する警察署に届け出る必要があります。
記録簿への記録・保存義務(1年間)・記録内容
記録簿への記録内容
通達によると、酒気帯びの有無の確認を行った場合は、会社は次の事項について記録することとされています。
アルコールチェックの記録簿の様式・保存方法については特に指定はありません。
したがって、会社が任意に作成した様式でよく、また、紙またはデータ保存のいずれでも構いません。
記録内容
- 確認者氏名
- 運転者氏名
- 自動車のナンバー(連番5567等でよい)
- 確認の日時
- 確認方法(アルコール検知器の使用の有無(2022(令和4)年10月1日以降)/対面でない場合は具体的方法)
- 酒気帯びの有無(検査機器で示された数値だけでもよい)
- 指示事項(酒気帯びがあった場合にどのような措置を取ったのか記録する)
- その他、必要な事項
記録表を提出する義務は特にありませんが、従業員が業務運転中に重大事故を起こしたなどの場合には、警察から記録表の提出を求められる可能性はあります。
また、記録表を適切に記録・保存していなかった場合には、道路交通法第74条の3に基づき、安全運転管理者の解任を命じられることがあります。
罰則
アルコールチェックを怠っていた場合、安全運転管理者の業務違反となりますが、この違反に対する罰則は特に定められていません。
なお、安全運転管理者を選任しなかった場合には、5万円以下の罰金となります(道路交通法120条第1項第11号の3)。
また、飲酒運転を行った場合は、道路交通法の酒気帯び運転等の禁止違反として、代表者や運行管理責任者などの責任者も、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されるおそれがあります(道路交通法第117条の2第1号)。
酒気帯びの有無の確認対象者・タイミング・確認方法
確認する対象者
酒気帯びの有無を確認する対象者となるのは、事業所における業務のために運転する従業員です(私有車両を業務で使用する場合を含む)。
業務として車を運転しない者は確認の対象とされていません。
しかし、マイカー通勤であっても、通勤中の事故について会社は使用者責任を負う可能性があるため、マイカー通勤者についても同様に、飲酒運転を防止するための取り組みを実施することは有用です。
確認するタイミングはいつか?
法律では、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者」に対して酒気帯びの有無を確認することと定められています。
ここで「運転」とは、一連の業務としての運転をいうことから、酒気帯びの有無の確認は、必ずしも個々の運転の直前または直後にその都度行わなければならないものではなく、運転を含む業務の開始前や出勤時、および業務の終了後や退勤時に行うことで足りると解されています(通達)。
実務上は、会社ごとにその実情を踏まえて、「従業員の出勤時および退勤時に、酒気帯びの有無の確認を行う」など、一定のタイミングで漏れなくチェックすることができるルールを定めておく必要があると考えます。
確認する方法
原則
運転者の酒気帯びの有無を確認する方法は、「対面」が原則であるとされています(通達)。
例外(直行直帰の場合など)
通達では、直行直帰の場合など対面での確認が困難な場合には、これに準ずる適宜の方法で実施すればよいとしています。
例えば、運転者に携帯型のアルコール検知器を携行させるなどした上で、モニターや携帯電話などによって、運転者の状態(表情、応答の声の調子など)を確認し、アルコール検知器による測定結果を報告させる方法が挙げられています。
確認者
酒気帯びの有無の確認者は、原則として安全運転管理者ですが、安全運転管理者の不在時などにより、確認が困難である場合には、副安全運転管理者または安全運転管理者の業務を補助する者に、酒気帯びの有無の確認を行わせることは問題ありません(通達)。
アルコール検知器
アルコール検知器の性能
アルコール検知器の性能については、呼気中のアルコールを検知し、その有無またはその濃度を警告音、警告灯、数値などにより示す機能を有するものであれば、特段の性能上の要件は問われていません(市販のもので構いません)。
常時有効に保持する義務
アルコール検知器については、常時有効に保持する義務が定められています。
これは、アルコール検知器が正常に作動し、故障がない状態で保持しておくことをいいます。
アルコール検知器は、一般的に、機種によっては1年程度の使用期限が定められているものや、使用回数に制限が設けられていることがあるため、これらを踏まえて管理方法(点検・交換の時期など)を定めておく必要があります。
アルコール数値の基準
アルコール検知器によって、アルコールが検出された場合は、数値の如何に関わらず、一切運転をさせてはなりません。
道路交通法第65条では「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない」と定めており、これは酒気帯びの程度に関わらず運転をしてはならないことを意味します。
酒気帯び運転の処罰基準が呼気1リットル中、0.15ミリグラム以上と定められていますが、これはあくまで処罰基準であり、当該基準以下だからといって、運転をしてもいいことにはなりません。
また、アルコールチェックによって、万が一従業員の飲酒運転が発覚した場合には、会社は直ちに警察に通報する義務があります。
必要となる企業対応
上記を踏まえて、必要となる企業対応は次のとおりです。
必要となる企業対応
- 対象となる事業所の確認
- 安全運転管理者の適切な選任
- 酒気帯びの有無の確認のルール化(確認のタイミング、対象者など)
- 記録簿の作成・記録・保管
- アルコール検知器の手配
- 就業規則の整備
1.対象となる事業所の確認・2.安全運転管理者の適切な選任
会社は、まず安全運転管理者の選任を行う必要があるかどうか、事業所ごとに、自動車の台数に応じて確認する必要があります。
もし安全運転管理者の選任が適切になされていない場合には、速やかに安全運転管理者を選任し、届け出る必要があります。
3.酒気帯びの有無の確認のルール化(確認のタイミング、対象者など)
アルコールチェックについて、いつ、誰が、誰に対して、どのように実施するのかをルール化しておく必要があります。
4.記録簿の作成・記録・保管
記録簿の様式を準備し、作成・記録・保管について責任者や運用方法を定めるなど、ルール化しておく必要があります。
5.アルコール検知器の手配
アルコール検知器を手配し、使用方法、使用期限、使用回数などをチェックしたうえで、適切に保持するためのルール(点検時期や交換時期など)を定めます。
6.就業規則の整備
アルコールチェックの実効性を担保するために、従業員が飲酒運転をしたときの懲戒処分について定めておくことに加え、従業員がアルコールチェックを拒否したとき、または故意または過失によってアルコールチェックを怠ったときなどを想定して、服務規律や懲戒規定を整備する必要があると考えます。