「フレックスタイム制」とは?制度の内容・導入手続(就業規則・労使協定)をわかりやすく解説
- 1. はじめに
- 2. フレックスタイム制とは?
- 2.1. フレックスタイム制とは?
- 2.2. フレックスタイム制のメリット
- 2.2.1. 会社のメリット
- 2.2.2. 従業員のメリット
- 3. コアタイムとフレキシブルタイム
- 4. 清算期間と総労働時間(労働時間の総枠)
- 4.1. 清算期間とは?
- 4.2. 法定労働時間・割増賃金(残業代)との関係
- 4.3. 総労働時間(労働時間の総枠)の算出方法
- 5. 運用上の留意点(休憩時間・遅刻・早退・有給休暇)
- 5.1. 労働時間の把握
- 5.2. 休憩時間の取り扱い
- 5.3. 遅刻・早退の取り扱い
- 5.4. 有給休暇の取り扱い
- 6. フレックスタイム制の導入手続
- 6.1. フレックスタイム制の導入手続
- 6.2. 就業規則への記載
- 6.3. 労使協定の締結
- 6.3.1. 対象となる労働者の範囲
- 6.3.2. 清算期間(起算日)
- 6.3.3. 清算期間における総労働時間
- 6.3.4. 標準となる1日の労働時間
- 6.3.5. コアタイム(任意)
- 6.3.6. フレキシブルタイム(任意)
- 7. 総労働時間の過不足と清算(割増賃金)
- 7.1. 実労働時間が総労働時間を超える場合
- 7.2. 実労働時間が総労働時間に足りない場合
- 8. 清算期間が1ヵ月を超える場合の上限時間
はじめに
昨今、労務管理においては、効率的な働き方を目指すことにより、労働時間を削減して、ワークライフバランスを図ることのできる労働環境を整備することが求められています。
労働基準法が定める「フレックスタイム制」は、出退社の時刻について従業員に裁量を与えることにより、日々の業務の繁閑や、育児や介護など家庭の事情に応じた柔軟な働き方を実現することができる制度であり、労働環境の整備のために上手く活用したい制度といえます。
この記事では、フレックスタイム制について、制度の内容や導入手続をわかりやすく解説します。
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フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制とは?
「フレックスタイム制」とは、一定の期間(最大3ヵ月以内)の労働時間の上限をあらかじめ定めておき、従業員がその範囲内で、日々の始業・終業時刻を自ら決定して働くことを認める制度をいいます(労働基準法第32条の3)。
フレックスタイム制を採用する場合には、始業時刻と終業時刻の「両方」を従業員の決定にゆだねる必要があり、始業時刻または終業時刻の一方についてのみ従業員の決定にゆだねているだけでは、法律の定めるフレックスタイム制とは認められないことに留意する必要があります(昭和63年1月1日基発第一号)。
なお、満18歳未満の従業員(年少者)には、フレックスタイム制を適用することはできません(労働基準法第60条第1項)。
フレックスタイム制のメリット
会社のメリット
フレックスタイム制を導入することによる会社のメリットは、従業員が効率的に働くことにより、労働時間を削減(短縮)し、労働環境の改善を図ることによって、会社全体の生産性を高め、人材の定着率を向上させることが期待されることです。
もともと、フレックスタイム制は、従業員がそのワークライフバランスを図りながら、効率的に働くことによって、その結果、労働時間を短縮することを目的に導入された制度です(昭和63年1月1日基発第一号)。
従業員のメリット
フレックスタイム制を導入することによる従業員のメリットは、始業時刻と終業時刻を自分の裁量で決めることができることにより、日々の業務の繁閑や、育児や介護など家庭の事情に応じて、柔軟な働き方ができるようになることです。
コアタイムとフレキシブルタイム
フレックスタイム制を導入する場合には、日々の勤務時間の中に、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」の2つの時間帯を設定することが一般的です。
「コアタイム」とは、従業員が必ず勤務しなければならないとされる時間帯をいいます。
「フレキシブルタイム」とは、従業員がその時間帯であれば、裁量によって、いつ出社または退社してもよいとされる時間帯をいいます。
コタタイムとフレキシブルタイムは、法律上必ず定めなければならないものではありませんが、コアタイムを定めることで、その時間帯に会議や打ち合わせなど、複数人が共同で行う仕事のスケジュールを組みやすくなります。
コアタイムの時間帯は労使協定(後述)で自由に定めることができ、コアタイムを設ける日と設けない日を区別して定めることや、日によってコアタイムの時間帯が異なるように定めることも可能です。
なお、コアタイムを設けないフレックスタイム制のことを、「スーパーフレックス」などということがあります。
また、フレキシブルタイムが極端に短い場合や、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致しているなどの場合は、フレックスタイム制の趣旨に沿わず、認められないものと解されます(昭和63年1月1日基発第一号)。
清算期間と総労働時間(労働時間の総枠)
清算期間とは?
フレックスタイム制では、一定の期間(最大3ヵ月以内)の労働時間の上限(労働時間の総枠)を設定し、その時間の範囲内に収まるように、従業員が日々の労働時間を決定します。
このとき、会社が3ヵ月以内で設定する一定の期間のことを「清算期間」といい、労働時間の総枠は、清算期間を単位として決定します。
例えば、ある会社で清算期間を1ヵ月と定め、各月の労働時間の総枠を160時間と定めた場合、各月の労働時間が合計で160時間に達すれば、1日10時間働く日があれば、5時間で仕事を切り上げる日があってもよい、という働き方をすることができます。
法定労働時間・割増賃金(残業代)との関係
法定労働時間とされる「1日8時間または1週40時間」を超えて働くと、原則として、その超えて働いた時間は法定時間外労働となり、割増賃金(残業代)を支給する必要があります。
これに対して、フレックスタイム制を導入することにより、従業員が清算期間における労働時間の総枠の範囲内で働く限り、ある日の労働時間が1日8時間を超え、または、ある週の労働時間が40時間を超えても、法定時間外労働とはならず、割増賃金(残業代)を支給する必要はありません。
総労働時間(労働時間の総枠)の算出方法
清算期間における総労働時間(労働時間の総枠)は、次の計算によって算出します。
清算期間における総労働時間
1週間の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7日
1週間の法定労働時間は、原則として40時間となります。
例えば、4月の1ヵ月(暦日数30日)を清算期間とする場合には、その月の総労働時間は「171.4時間」(40時間×30日÷7日)となります。
なお、この計算は、変形労働時間制において、変形期間の労働時間の総枠を求める際の計算と同じです。
フレックスタイム制も変形労働時間制の一種であるため、他の変形労働時間制(1ヵ月単位の変形労働時間制など)についても、ある程度は理解しておくとよいでしょう。
変形労働時間制とは?4種類の制度(1ヵ月・1年・1週間・フレックス)の内容を解説
運用上の留意点(休憩時間・遅刻・早退・有給休暇)
労働時間の把握
フレックスタイム制は始業・終業時刻の決定を従業員にゆだねる制度ですが、これによって労働時間の管理が不要になるものではありません。
会社は、フレックスタイム制を導入した場合であっても、従業員の各日の実労働時間を把握する義務があり、適切な労働時間管理や賃金清算を行う必要があります(昭和63年3月14日基発第150号)。
休憩時間の取り扱い
フレックスタイム制を採用した場合でも、会社は、法律の定めるとおりに休憩時間を与えることが必要です(労働基準法第34条)(昭和63年3月14日基発第150号)。
休憩時間は法律上、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、労働時間が8時間を超える場合には少なくとも60分の休憩時間を与える必要があります。
休憩時間は、原則として、従業員が一斉に取得しなければならないとされており(「一斉付与の原則」といいます)、したがって、コアタイムがある場合には、コアタイム中に一定の休憩時間を定める必要があります(労働基準法第34条第2項)。
なお、一斉付与の原則は、会社と従業員との間で労使協定を締結することによって適用を除外することができるため、コアタイムを定めない場合には、労使協定を締結しておく必要があります。
遅刻・早退の取り扱い
フレックスタイム制においては、遅刻・早退は、コアタイムについてのみ生じます。
フレキシブルタイムについては、従業員の裁量で始業・就業時刻を決めることができるため、遅刻・早退という概念はありません。
有給休暇の取り扱い
フレックスタイム制においては、従業員が自分で始業・終業時刻を決めることから、1日の労働時間が一定にならず、そのため有給休暇を取得した日が何時間分の労働に相当するのか(何時間分の賃金を支払えばいいのか)が問題となります。
そこで、フレックスタイム制では、労使協定(後述)によって、あらかじめ「標準となる1日の労働時間」を定めておくことで、従業員が有給休暇を取得した場合には、その日は「標準となる1日の労働時間」を働いたものとして取り扱い、その時間分の賃金を支払うこととなります。
フレックスタイム制の導入手続
フレックスタイム制の導入手続
フレックスタイム制を導入する際に必要な手続として、会社は、就業規則に定めるとともに、従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります。
就業規則への記載
労働基準法は、就業規則において始業・終業時刻を定めなければならないとしています(労働基準法第89条第1項)。
この点について、会社がフレックスタイム制を採用する場合には、就業規則に「始業・終業時刻は、従業員の決定にゆだねる」旨の定めをすれば、労働基準法の要件を満たすものと解されています。
就業規則の規定例(記載例)は次のとおりです。
就業規則の規定例(記載例)
(フレックスタイム制)
第●条 労使協定によりフレックスタイム制を適用することとした従業員については、始業および終業時刻を当該従業員の自主的な決定に委ねるものとする。 始業および終業時刻につき従業員の自主的な決定に委ねる時間帯(フレキシブルタイム)、必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)、および休憩時間は次のとおりとする。
一、フレキシブルタイム
始業時刻 午前7時から午前10時まで
終業時刻 午後3時から午後7時まで
二、コアタイム
午前10時から午後3時まで
三、休憩時間
午後0時から午後1時まで
(標準労働時間)
第●条 標準となる1日の労働時間は、7時間とする。
(清算期間)
第●条 清算期間は1ヵ月間とし、毎月1日を起算日とする。
労使協定の締結
フレックスタイム制を採用する場合には、労使協定において、次の事項を定めたうえで、従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります。
なお、清算期間が1ヵ月を超える場合には、労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出る必要があり、これに違反すると罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。
清算期間が1ヵ月以内の場合には、届出は不要とされています。
労使協定の協定事項(労働基準法施行規則第12条の3)
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間(起算日)
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(任意)
- フレキシブルタイム(任意)
対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制の対象となる従業員の範囲(対象部署など)を定めます。
清算期間(起算日)
フレックスタイム制において、労働時間の総枠を定める期間であり、その長さは3ヵ月以内の期間にする必要があります。
清算期間における総労働時間
フレックスタイム制において、従業員が労働する義務のある時間を定めるものであり、清算期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるように定めます。
標準となる1日の労働時間
フレックスタイム制において、従業員が有給休暇を取得した際に支払われる賃金の計算の基礎となる労働時間を定めるものです。
ここでは、7時間や8時間など、単に時間数を定めれば足ります。
コアタイム(任意)
コアタイムを設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻を定めます。
フレキシブルタイム(任意)
フレキシブルタイムを設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻を定めます。
総労働時間の過不足と清算(割増賃金)
ここでは、清算期間が1ヵ月以内の場合における総労働時間の清算について説明します(清算期間が1ヵ月を超える場合については、割愛します)。
実労働時間が総労働時間を超える場合
フレックスタイム制でも割増賃金(残業代)が支払われることがあります。
割増賃金が発生するのは、清算期間における総労働時間よりも、実際に働いた時間の方が長い場合です。
例えば、ある1ヵ月の清算期間において、総労働時間を160時間と定めている場合に、実際には合計180時間働いた場合には、20時間分(180時間-160時間)の割増賃金(残業代)を支給する必要があります。
実労働時間が総労働時間に足りない場合
実労働時間が総労働時間に足りない場合、次の2通りの方法があり、いずれの方法によるかを労使協定で定めておく必要があります。
実労働時間が総労働時間に足りない場合
- 不足する時間分の賃金を控除する(欠勤控除)
- 賃金を控除せず(一時的には過払いとなる)、不足する時間を翌月に繰越する(翌月の労働時間に上乗せする)
不足する時間を翌月に繰り越す場合には、繰り越しを受けた翌月の労働時間(総労働時間+前の清算期間から繰り越された不足時間)は、繰り越した時間も含めて法定労働時間の範囲内でなければならないことに留意する必要があります(昭和63年1月1日基発第一号)。
なお、実労働時間が総労働時間を超過する場合には、その時間を翌月に繰り越す(翌月の労働時間を減らす)ことはできません。
その期間に発生した賃金を、その期間に対応する賃金の支払い日に支払わないことは、「賃金の全額払いの原則」(労働基準法第24条)に違反するためです。
清算期間が1ヵ月を超える場合の上限時間
清算期間が1ヵ月を超える場合には、従業員の過重労働を防止するために、各月における上限時間が設けられています。
清算期間が1ヵ月を超える場合には、その清算期間を1ヵ月ごとに区分した各期間(最後に1ヵ月未満の期間を生じたときには、その期間)ごとに、その期間を平均して1週間あたりの労働時間が50時間を超えることができません(平成30年9月7日基発0907第1号)。
具体的には、次の算式による時間が上限となります。
各月における上限時間
50時間×各月における暦日数÷7日
これには、忙しい月だけ極端に労働時間が長くなることによる、過重労働を防止する目的があります。