労働条件通知書(労働条件の明示)とは?記載事項、通知方法などを解説【2024年最新版】
- 1. 労働条件通知書とは
- 1.1. 労働条件の明示
- 1.2. 労働条件通知書とは
- 1.3. 雇用契約書との違い
- 2. 労働条件が事実と異なる場合
- 3. 労働条件の明示事項(絶対的明示事項・相対的明示事項)
- 3.1. 絶対的明示事項
- 3.1.1. (※1)有期労働契約の場合
- 3.1.2. (※2)就業の場所・従事すべき業務・これらの変更の範囲
- 3.1.3. (※3)昇給に関する事項
- 3.2. 相対的明示事項
- 4. 短時間労働者・有期雇用労働者に対する労働条件の明示事項
- 5. 有期労働契約を更新する際の対応
- 6. 労働条件の明示方法(書面・メール・ファックス)
- 6.1. 書面の交付(労働条件通知書)
- 6.2. ファックスまたは電子メールの送信
- 6.2.1. 従業員が希望したこと
- 6.2.2. 電子メールの定義
- 6.2.3. 電子メールの記録の出力
- 7. 罰則
労働条件通知書とは
労働条件の明示
会社は、法律によって、労働契約の締結(従業員の雇入れ)に際しては、従業員に対して、労働条件(労働時間、賃金など)を明示しなければならないとされています(労働基準法第15条第1項)。
労働条件の明示は、従業員の雇用形態や契約内容に関わらず義務付けられており、正社員、パート、アルバイトなどを問わず、すべての従業員に対して行う必要があります。
労働条件通知書とは
労働条件のうち、一定の事項については、原則として「書面」によって明示(通知)することが義務付けられており、当該労働条件を明示(通知)するために会社が作成する書面のことを、一般に「労働条件通知書」といいます(労働基準法施行規則第5条第4項)。
雇用契約書との違い
会社によっては、従業員の入社時に「雇用契約書」を作成し、締結することがあります。
雇用契約書には、一般的に労働条件の明示事項をすべて盛り込みますので、その内容自体は労働条件通知書とほとんど同じものになります。
雇用契約書は、会社と従業員の双方が、契約書に署名・押印することによって、互いにその内容に合意したこと、およびその日付などを記録として(後に紛争が生じた場合の証拠として)残しておくことができる点にメリットがあります。
一方、労働条件通知書は、会社から従業員に対して一方的に労働条件を通知するものであり、従業員がその内容に合意したのかどうか(そもそも、確かに交付されたのかどうか)が記録して残りにくいといえます。
労働条件が事実と異なる場合
会社から明示された労働条件が事実(実際の労働条件)と異なる場合には、従業員は、即時に労働契約を解除することができるとされています(労働基準法第15条第2項)。
また、この場合において、従業員が就業のために住居を変更しており、労働契約を解除した日から14日以内に帰郷する場合には、会社は、必要な旅費を負担しなければならないとされています(労働基準法第15条第3項)。
労働条件の明示事項(絶対的明示事項・相対的明示事項)
会社が従業員に対して明示する労働条件には、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)と、会社が定めをした場合には必ず明示しなければならない事項(相対的明示事項)があります(労働基準法施行規則第5条第1項)。
そして、このうち、絶対的明示事項については、原則として書面(労働条件通知書)によって行うことが義務付けられています(その他の明示方法については後述)(労働基準法施行規則第5条第3項)。
なお、書面によって明示すべき事項については、当該従業員に適用される部分を明確にして、就業規則を交付することも認められます。
例えば、退職に関する内容が多岐にわたる場合に、労働条件通知書の記載として、「退職に関する事項については、就業規則第何条の定めによる」などと就業規則の条文を引用し、併せて就業規則を交付することも問題ありません。
絶対的明示事項
会社が従業員に対して、必ず明示しなければならないとされる絶対的明示事項は、次のとおりです。
絶対的明示事項
- 労働契約の期間に関する事項
- 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または契約更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)(※1)
- 就業の場所および従事すべき業務に関する事項(これらの変更の範囲を含む)(※2)
- 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当および臨時賃金などを除く)の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期ならびに昇給に関する事項(※3)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(※1)有期労働契約の場合
「有期労働契約」とは、6ヵ月や1年など、あらかじめ期間を定めて雇用される契約をいい、一般に、パート、アルバイト、契約社員などと呼ばれる雇用形態が該当します。
会社は、有期労働契約を締結する場合には、労働条件通知書において、次の内容を記載する必要があります。
有期労働契約の場合の記載事項
- 契約期間の定め
- 契約の更新の有無
- 契約を更新する際の判断基準(更新がある場合)
- 通算契約期間または契約更新回数の上限の有無とその内容(更新がある場合)
契約の更新がある場合には、契約を更新する際の判断基準として、例えば、契約期間満了時における業務量や、契約期間中の勤務成績に応じて契約を更新する、などといった内容を記載する必要があります。
さらに、その有期労働契約が更新される場合において、通算契約期間の上限や、契約更新回数に上限があるのか否か(上限がある場合には、その内容)を記載する必要があります(2024年4月1日施行)。
また、会社は、有期労働契約を締結した後、当該契約の変更時・更新時において、新たに通算契約期間や更新回数の上限を定める場合、または、これらを短縮する(引き下げる)場合は、あらかじめ、その理由を従業員に説明しなければならないとされています(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条)(2024年4月1日施行)。
労働条件通知書に関する法改正(2024年4月1日施行)については、次の記事をご覧ください。
【2024年法改正】労働条件通知書の明示事項の改正(就業場所・業務の変更範囲、更新の上限、無期転換など)と記載例を解説
(※2)就業の場所・従事すべき業務・これらの変更の範囲
労働条件通知書には、従業員の雇入れ直後(入社時点)の就業場所および従事する業務に加えて、これらの変更の範囲を記載する必要があります(2024年4月1日施行)。
「変更の範囲」とは、将来の配置転換や人事異動などによって変更され得る、就業場所および業務の範囲をいいます。
(※3)昇給に関する事項
絶対的明示事項のうち、「昇給に関する事項」については、書面の交付によらず、口頭によって明示しても差し支えないとされています(労働基準法施行規則第5条第3項)。
相対的明示事項
会社が定めをした場合には、従業員に対して必ず明示しなければならない事項(相対的明示事項)は、次のとおりです。
相対的明示事項は、会社が定めをしていない場合(例えば、退職金制度がない場合)には、明示する義務がありません。
相対的明示事項
- 退職手当の定めが適用される従業員の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法・支払時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、労働基準法施行規則第8条各号に掲げる賃金、最低賃金額に関する事項
- 従業員が負担する食費、作業用品その他に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
短時間労働者・有期雇用労働者に対する労働条件の明示事項
会社は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」といいます)」の第2条に定める短時間労働者・有期雇用労働者を雇い入れる場合(契約の更新時を含む)には、次の内容について、労働条件通知書などによって明示することが義務付けられています(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項・同法施行規則第2条第1項)。
パートタイム・有期雇用従業員に対する明示事項
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口(※)
(※)会社は、短時間労働者および有期雇用労働者の雇用管理の改善などに関する事項に関して、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないとされています(パートタイム・有期雇用労働法第16条)。
有期労働契約を更新する際の対応
会社は、有期労働契約の更新時において、更新によって従業員に無期転換申込権が発生する場合には、「無期転換の申し込みに関する事項」を明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条第5項)(2024年4月1日施行)。
「無期転換の申し込みに関する事項」とは、例えば、従業員が無期転換申込権を行使する際の申込期限や、行使した場合の無期労働契約への転換時期、申込手続などが考えられます。
さらに、会社は、無期転換権が発生する従業員に対しては、契約の更新時において、無期転換後の労働条件を併せて明示する必要があります。
無期転換ルールについては、次の記事をご覧ください。
無期転換ルール(5年)とは?有期労働契約の「無期転換申込権」をわかりやすく解説
労働条件の明示方法(書面・メール・ファックス)
労働条件の明示は、次の3つの方法によって行うことが認められています(労働基準法施行規則第5条第4項)。
労働条件の明示方法
- 書面の交付(労働条件通知書)
- ファックスの送信(要件あり)
- 電子メールの送信(要件あり)
書面の交付(労働条件通知書)
労働条件の明示は、前述の絶対的明示事項について、原則として書面(労働条件通知書)によって行うこととされており、一定の要件を満たす場合には、ファックスまたは電子メールによって行うことが認められています。
ファックスまたは電子メールの送信
ファックスの送信によって労働条件を明示する場合には、次の要件のうち「1.」を満たす必要があり、電子メールの送信によって労働条件を明示する場合には、次の要件のうちすべてを満たす必要があります。
ファックスまたは電子メールの送信による労働条件の明示
- (共通)従業員が希望したこと
- (電子メールの場合)電子メールその他の受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信によること
- (電子メールの場合)従業員が当該電子メールなどの記録を出力することにより書面を作成できること
従業員が希望したこと
ファックスまたは電子メールの送信による労働条件の明示は、従業員がこれらの方法によることを希望する場合に限り、認められます。
したがって、会社が一方的にこれらの方法によることを選択することはできず、あらかじめ、従業員に対して労働条件の明示方法について選択肢を与え、従業員の希望する方法を確認しておく必要があります。
電子メールの定義
「電子メール」とは、一般に、パソコン・携帯電話端末によるEメールのほか、Yahoo!メールやGmailといったウェブメールサービスを利用したものをいいます(平成30年12月28日基発1228第15号)。
また、「受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」とは、LINEやFacebook等のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のメッセージ機能等を利用した電気通信がこれに該当すると解されます。
電子メールの記録の出力
会社は、電子メール等を送信して明示した労働条件について、従業員がいつでも書面に出力(プリントアウト)できる状態にしておく必要があります。
例えば、パソコンで閲覧できるEメールは問題なくこれに該当しますが、SNSなどの印刷を前提としないツールによる送信は、当該要件を満たさない可能性があります。
また、特定の電子デバイス上でしか閲覧できない方法や、期限が過ぎると閲覧することができなくなる方法については、明確に禁止されているものではありませんが、望ましい方法ではないと考えます。
罰則
会社が労働条件通知書による労働条件の明示を怠った場合の罰則として、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第120条)。