【2024年法改正】労働条件通知書の明示事項の改正(就業場所・業務の変更範囲、更新の上限、無期転換など)と記載例を解説
- 1. はじめに
- 1.1. はじめに
- 1.2. 労働条件通知書とは
- 2. 法改正の概要
- 2.1. 改正される法律と施行日
- 2.2. 法改正の概要
- 3. 就業場所および従事すべき業務の「変更の範囲」に関する明示
- 3.1. 法改正前(2024年3月31日以前)
- 3.2. 法改正の内容(2024年4月1日以降)
- 3.3. 労働条件通知書の記載例①(変更の範囲が決まっている場合)
- 3.4. 労働条件通知書の記載例②(変更の範囲が決まっていない場合)
- 4. 有期労働契約の「更新上限の有無とその内容」の明示
- 4.1. 法改正前(2024年3月31日以前)
- 4.2. 法改正の内容(2024年4月1日以降)
- 4.3. 労働条件通知書の記載例(下線は法改正により追加する内容)
- 4.4. 契約期間の上限を新設・短縮する場合の説明義務
- 5. 無期転換申込権に関する事項の明示
- 5.1. 無期転換ルール・無期転換申込権とは
- 5.2. 法改正の内容(2024年4月1日以降)
- 6. 無期転換後の労働条件の明示
- 6.1. 無期転換後の労働条件
- 6.2. 法改正の内容(2024年4月1日以降)
- 6.3. 労働条件通知書の記載例
- 6.4. 「待遇の均衡を考慮した事項」の説明
- 7. 罰則
はじめに
はじめに
会社と従業員との間の労働契約関係を明確にすることを目的として、2024(令和6)年4月1日に労働基準法施行規則などが改正され、労働条件を通知する際の明示事項・説明事項が追加されます。
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労働条件通知書とは
会社は、法律により、労働契約の締結に際しては、従業員に対して、労働条件(賃金、労働時間など)を明示しなければならないとされています(労働基準法第15条第1項)。
また、労働条件の明示は、原則として、「書面」によって行うこととされており、労働条件を明示するために作成される書面のことを、一般に、「労働条件通知書」といいます(労働基準法施行規則第5条第4項)。
労働条件通知書によって明示しなければならない事項(以下、「明示事項」といいます)は、労働基準法施行規則によって定められており、今回の法改正によって、明示事項が追加されることとなります。
法改正の概要
改正される法律と施行日
改正される法律は、「労働基準法施行規則」(厚生労働省令)、および「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(厚生労働省告示)です。
いずれも施行日は、2024(令和6)年4月1日です。
法改正の概要
法改正の概要は、下表のとおりです。
【法改正の概要】
対象者 | 対応する時期 | 明示・説明する内容 | |
1 | すべての従業員 | 労働契約の締結時・更新時 | 就業場所および業務の「変更の範囲」を明示する |
2 | 有期契約の従業員 | 有期労働契約の締結時・更新時 | 「更新上限の有無と内容」を明示する (変更時・更新時)更新上限を新設・短縮する場合は理由を説明する |
3 | 有期契約の従業員 | 有期労働契約の更新時 (無期転換申込権が発生する場合) | 「無期転換の申込機会」を明示する 「無期転換後の労働条件」を明示する 「待遇の均衡を考慮した事項」を説明する(努力義務) |
以下、順に解説します。
就業場所および従事すべき業務の「変更の範囲」に関する明示
法改正前(2024年3月31日以前)
労働条件通知書における明示事項のひとつとして、「就業の場所および従事すべき業務に関する事項」があります(労働基準法施行規則第5条第1項第一号の三)
その記載内容としては、法改正前は、「雇入れ直後」の就業場所および従事する業務を明示すれば足りるとされていました(平成11年1月29日基発45号)。
法改正の内容(2024年4月1日以降)
法改正後は、雇入れ直後の就業場所および従事する業務に加えて、これらの「変更の範囲」を明示する必要があります。
【法改正前後の比較】
明示する項目 | 法改正前 (2024年3月31日以前) | 法改正後 (2024年4月1日以降) |
就業の場所および従事すべき業務に関する事項 | 「雇入れ直後」の就業場所および従事する業務 | 「雇入れ直後」の就業場所および従事する業務 就業場所および従事する業務の「変更の範囲」 |
「変更の範囲」とは、将来の配置転換・人事異動などによって変わり得る、就業場所および業務の範囲をいい、従業員に対してこれらを明示することにより、従業員が将来のキャリアを予測できるようにする必要があります。
労働条件通知書の記載例①(変更の範囲が決まっている場合)
「変更の範囲」の明示としては、採用時点で将来の就業場所や従事する業務がすでに合意されている(限定されている)場合には、その具体的な内容を記載します。
「変更の範囲」の記載例①
【就業場所】
(雇入れ直後)入社後の就業場所は、京都本社とする。
(変更の範囲)適性に応じて、京都府内の支店への異動を命じることがある。
【従事する業務の内容】
(雇入れ直後)入社後に従事する業務は、法人営業職(ルート営業担当)とする。
(変更の範囲)適性に応じて、法人営業職(新規開拓担当)または営業企画職への異動を命じることがある。
労働条件通知書の記載例②(変更の範囲が決まっていない場合)
一般に総合職といわれる従業員などの場合であって、異動や転勤を伴い、就業の場所および業務に変更が生じる可能性がある場合には、これらを限定せずに、採用することがあります。
この場合には、例えば、次のような記載によって明示することが考えられます(厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書(2022(令和4)年3月30日)」を参考に作成)。
「変更の範囲」の記載例②
【就業場所】
(雇入れ直後)入社後の就業場所は、京都本社とする。
(変更の範囲)会社の定める事業所への異動(転居を伴う配置転換を含む)を命じることがある。
【従事する業務の内容】
(雇入れ直後)入社後に従事する業務は、法人営業職(ルート営業担当)とする。
(変更の範囲)適性に応じて、会社の指示する業務への異動を命じることがある。
有期労働契約の「更新上限の有無とその内容」の明示
法改正前(2024年3月31日以前)
会社は、有期労働契約を締結する従業員に対しては、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」を明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条第1項第一号の二)。
「有期労働契約」とは、6ヵ月や1年など、あらかじめ期間を定めて雇用される契約をいい、一般に、パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員などと呼ばれる雇用形態が該当します。
会社は、有期労働契約を更新する可能性がある場合には、労働条件通知書において、更新するか否かを判断する際の基準(更新時における業務量や勤務成績など)を明示する必要があります。
法改正の内容(2024年4月1日以降)
法改正後は、会社は、有期労働契約を締結する従業員に対して、当該契約を締結する際、および更新する際において、「更新上限の有無とその内容」を明示することが必要となります。
「更新上限の有無とその内容」とは、その有期労働契約が更新される場合において、通算契約期間の上限や、更新回数の上限があるのかどうかを意味します。
労働条件通知書の記載例(下線は法改正により追加する内容)
「更新上限の有無とその内容」の記載例
【契約期間】
1.契約期間の定め
あり(2024年4月1日から2025年3月31日までの1年間)
2.契約の更新の有無
1年を単位として、更新する場合がある
3.契約を更新する際の判断基準
契約期間満了時の業務量、勤務成績、会社の経営状況を勘案して判断する
4.更新上限の有無
あり(更新回数は2回まで/通算契約期間は3年までとする)
契約期間の上限を新設・短縮する場合の説明義務
法改正により、会社は、有期労働契約を締結した後、当該契約の変更時・更新時において、新たに通算契約期間や更新回数の上限を定める場合、または、これらを短縮する(引き下げる)場合は、あらかじめ、その理由を従業員に説明しなければならないとされました(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条)。
「あらかじめ」と定められていることから、通算契約期間や更新回数の上限を新設・短縮する「前」のタイミングで説明を行う必要があります。
例えば、契約の当初は、契約期間を1年、通算契約期間を5年(更新回数の上限は4回まで)としていたものの、1回目の更新の際に、通算契約期間を4年に短縮する(更新回数の上限を3回に引き下げる)ような場合がこれに該当します。
【法改正前後の比較】
明示する項目 | 法改正前 (2024年3月31日以前) | 法改正後 (2024年4月1日以降) |
期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 | 有期労働契約を更新する場合の基準 | 有期労働契約を更新する場合の基準 「更新上限の有無と内容」 (変更時・更新時)更新上限を新設・短縮する場合は理由を説明 |
無期転換申込権に関する事項の明示
無期転換ルール・無期転換申込権とは
「無期転換ルール」とは、同一の会社と従業員との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、従業員からの申し込みによって、当該労働契約が無期労働契約(期間の定めがない労働契約)に転換されるルールのことをいいます(労働契約法第18条第1項)。
「無期転換申込権」とは、無期転換ルールに基づき、通算5年を超えて雇用された従業員が、期間の定めがない無期労働契約への転換を申し込むことができる権利をいいます。
無期労働契約への転換は、無期転換ルールの対象者の要件に当てはまれば自動的に行われるものではなく、対象者となった従業員から、会社に対して無期転換申込権を行使する(無期労働契約への転換を申し込む)ことによって行われます。
従業員から無期転換申込権の行使があった場合、法律上、会社は当該申し込みを「承諾したものとみなす」と定められていることから、申し込みを拒否することはできません。
無期転換ルール(5年)とは?有期労働契約の「無期転換申込権」をわかりやすく解説
法改正の内容(2024年4月1日以降)
法改正により、会社は、有期労働契約の更新時において、その契約期間内に従業員に無期転換申込権が発生する場合には、「無期転換の申し込みに関する事項」を明示することが義務付けられます(労働基準法施行規則第5条第5項)。
「無期転換の申し込みに関する事項」とは、例えば、従業員が無期転換申込権を行使する際の申込期限や、申し込んだ場合の転換時期、申込手続などが考えられます。
また、もし契約期間中に対象従業員から無期転換の申し込みがなかったとしても、その従業員が無期転換申込権を有する限り、契約更新の度に、「無期転換の申し込みに関する事項」を明示する必要があります(記載例は後述)。
無期転換後の労働条件の明示
無期転換後の労働条件
無期転換後の労働条件(労働時間や賃金など)は、基本的に、有期労働契約を締結していたときと同じ労働条件を引き継ぎます。
このとき、当然ですが、無期労働契約の性質上、有期労働契約のときの労働条件の一つであった「契約期間」については、引き継ぐことはありません。
また、会社が無期転換権を行使した従業員を対象とした就業規則などを作成することによって、無期労働契約の従業員の労働条件を別に定め、適用することは問題ありません。
法改正の内容(2024年4月1日以降)
法改正により、会社は、契約の更新時において、無期転換権が発生する従業員に対しては、無期転換後の労働条件を明示しなければならないとされました(労働基準法施行規則第5条第5項)。
従業員にとっては、無期転換後の労働条件が不明確では、無期転換権を行使しにくいためです。
このとき、明示すべき無期転換後の労働条件は、労働条件通知書の絶対的明示事項(労働基準法施行規則第5条第1項第一号から第四号。ただし、更新に関する基準(同法第一号の二)および昇給に関する事項を除く)と同様の内容について、書面によって明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条第6項)。
労働条件通知書の記載例
無期転換の申し込みに関する事項の記載例
【無期転換の申し込みに関する事項】
1.無期転換の申し込み期間
本契約の開始日から、本契約の末日(2025年3月31日)まで
2.無期転換の時期
本契約の末日の翌日(2025年4月1日)から、無期労働契約による雇用に転換する
3.無期転換後の労働条件の変更の有無
あり(別紙、「無期転換後の労働条件通知書」のとおり)
4.無期転換の申し込み方法
「無期転換申込書(社内様式)」に必要事項を記入し、本社総務部に提出する。総務部は、社内決裁を受けた後、「無期転換申込受理書」をもって本人に通知する。
「待遇の均衡を考慮した事項」の説明
無期転換後の労働条件に関しては、同一労働同一賃金(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の対象にはなりませんが、労働契約法により、就業の実態に応じて待遇の均衡を考慮することが会社に求められています(労働契約法第3条第2項)。
法改正により、無期転換後の従業員の労働条件について、正社員等との待遇の均衡(バランス)を考慮した事項(例として、業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)を、従業員に対して説明する義務(ただし、努力義務に留まります)が定められました(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第5条)。
罰則
労働条件通知書による労働条件の明示を怠った場合には、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第120条)。