【2024年改正】「企画業務型裁量労働制」とは?制度内容・対象業務・手続(労使委員会)などを解説

「企画業務型裁量労働制」とは

「企画業務型裁量労働制」とは

企画業務型裁量労働制」とは、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に従業員の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定などに関して会社が具体的な指示をしないこととする業務について、労使の間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の4)。

企画業務型裁量労働制は、会社の事業運営に関する企画や立案などの業務を、高い専門性や経験に基づき、自らの裁量をもって遂行する、いわゆるホワイトカラーの従業員を対象とした制度として、2000(平成12)年4月1日に施行されました。

企画業務型裁量労働制の対象となる業務

企画業務型裁量労働制は、どのような業務についても適用できるものではなく、次の要件をすべて満たす業務に限り、適用することが認められます。

企画業務型裁量労働制の対象となる業務

  • 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であること
  • 業務の性質上、これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に従業員の裁量に委ねる必要がある業務であること
  • 業務の遂行の手段および時間配分の決定などに関して、会社が具体的な指示をしないこととする業務であること

「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務」とは、例えば、経営企画を担当する部署において、会社の経営状態や経営環境について調査・分析を行い、経営に関する計画を策定する業務などをいいます。

そして、対象業務を遂行する従業員は、その業務を適切に遂行するための知識、経験などを有することが必要です。

これらの知識、経験などの範囲については、対象業務ごとに異なりますが、例えば、大学を卒業したばかりで職務経験がない従業員は制度の対象になり得ず、少なくとも3年から5年程度の職務経験を経ていることが、対象業務を適切に遂行するための知識、経験などを有するかどうかの判断基準になり得ると解されます。

「みなし労働時間」とは

企画業務型裁量労働制においては、従業員が業務を遂行した場合に、労使の間であらかじめ合意された一定時間を働いたものと「みなす」ことに特徴があり、この時間のことを「みなし労働時間」といいます。

従業員が実際に働いた時間に関わらず、一定時間働いたものとみなされるため、みなし労働時間を何時間と定めるのかは、制度の適用において重要な事項となります。

なお、同じく、みなし労働時間による制度として、「専門業務型裁量労働制」があります。

専門業務型裁量労働制については、次の記事をご覧ください。

「専門業務型裁量労働制」とは?制度内容・適用業務(職種)・手続(労使協定)などを解説

企画業務型裁量労働制のメリット・デメリット

企画業務型裁量労働制のメリット

企画業務型裁量労働制を適用することにより、従業員にとっては、業務を進めるうえでの裁量が大きくなり、自分のペース、やり方で働くことができるというメリットがあります。

一方、会社にとっては、実際の労働時間を厳密に把握する必要がなくなることで、労務管理の負担が軽減されます。

また、みなし労働時間を定めることによって、労働時間を平準化し、残業代(割増賃金)などの人件費をコントロールしやすくなるというメリットがあります。

企画業務型裁量労働制のデメリット

企画業務型裁量労働制の適用においては、労働時間の管理を厳密に行わないことから、業務量の増加によって、長時間労働につながりやすいことに留意する必要があります。

もし長時間労働によって、従業員に健康上の問題が生じた場合には、会社は安全配慮義務に違反するおそれがあり、労使共にリスクを負うというデメリットがあります。

そこで、会社は、企画業務型裁量労働制を適用する際には、健康・福祉を確保するための措置を講じることが必要とされており、制度の適用後においても、常に従業員の労働時間や健康状態などに気を配る必要があります。

企画業務型裁量労働制を適用・運用するための手続

企画業務型裁量労働制を適用・運用するためには、次の手続が必要となります(労働基準法第38条の4第1項)。

企画業務型裁量労働制の適用・運用手続

  1. 労使委員会を設置し、運営に関する規程を作成すること
  2. 労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により、法定の決議事項について決議すること
  3. 労使委員会の決議を管轄の労働基準監督署に届け出ること
  4. 企画業務型裁量労働制の運用状況を、管轄の労働基準監督署に定期的に報告すること

以下、順に解説します。

労使委員会の設置および規程の作成

労使委員会とは

労使委員会」とは、企画業務型裁量労働制を適用する事業場における労働条件(労働時間、賃金など)に関する事項を調査・審議し、当該事項について会社に対して意見を述べることを目的として組織される委員会をいいます。

労使委員会の構成員

労使委員会は、会社の代表者と、企画業務型裁量労働制を適用する事業場の従業員の代表者を構成員とする必要があります。

また、労使委員会の委員の半数については、事業場の従業員の過半数を代表する者(従業員の過半数で組織する労働組合がある場合には、その労働組合)によって、任期を定めて指名されることが必要です(労働基準法第38条の4第2項第一号)。

なお、この指名は、労働基準法第41条第二号に規定される管理監督者(監督または管理の地位にある者)以外の従業員について行わなければならず、また、会社の意向に基づくものであってはならない(※)とされています(労働基準法施行規則第24条の2の4第1項)。

(※)下線部分につき、2024年4月法改正により追加

労使委員会の開催頻度

労使委員会の開催頻度は、6ヵ月以内ごとに1回とする必要があり、また、当該事項を後述の労使委員会の運営規程に定める必要があります(※)(労働基準法施行規則第24条の2の4第4項ニ)。

(※)2024年4月法改正により追加

労使委員会の議事録

労使委員会の議事については、労使委員会の開催の都度、その議事録を作成するとともに、従業員に対して所定の方法により周知する必要があります(労働基準法施行規則第24条の2の4第3項)。

また、当該議事録は、労使委員会の開催の日(決議が行われた会議の議事録については、当該決議にかかる書面の完結の日)から起算して5年間保存しなければならないとされています(労働基準法施行規則第24条の2の4第2項)。

労使委員会の運営に関する規程の作成

労使委員会の運営に関する事項として、次の内容について、規程を定める必要があります(労働基準法施行規則第24条の2の4第4項)。

労使委員会の運営に関する規程

  • 労使委員会の招集、定足数および議事に関する事項
  • 対象従業員に適用される評価制度、およびこれに対応する賃金制度の内容について、会社が行う説明に関する事項(※)
  • 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(※)
  • 開催頻度に関する事項(開催頻度は6ヵ月以内ごとに1回とすること)(※)
  • 上記の他、労使委員会の運営について必要な事項

(※)2024年4月法改正により追加

「制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項」とは、制度の実施状況の把握について、その方法や頻度を定めることをいいます。

なお、会社は、規程の作成または変更については、労使委員会の同意を得なければならないとされています(労働基準法施行規則第24条の2の4第5項)。

労使委員会による決議

労使委員会による決議

企画業務型裁量労働制を適用するためには、労使委員会において、労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により、次の事項について決議することが必要です。

企画業務型裁量労働制にかかる決議の内容

  1. 制度の対象とする業務
  2. 制度の対象とする従業員の範囲
  3. 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)(1日あたりの時間数)
  4. 対象となる従業員の労働時間の状況に応じて実施する、健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
  5. 対象となる従業員からの、苦情の処理のために実施する措置の具体的内容
  6. 制度の対象となる従業員の同意を得ること
  7. 制度の適用に従業員が同意をしなかった場合に、不利益な取り扱いをしないこと
  8. 制度の適用に関する同意の撤回に関する手続(※)(労働基準法施行規則第24条の2の3第3項第一号)
  9. 対象となる従業員に適用される賃金・評価制度を変更する場合には、労使委員会に変更内容の説明を行うこと(※)(労働基準法施行規則第24条の2の3第3項第二号)
  10. 4から6、および7(※)に関して、従業員ごとに講じた措置の記録を、労使協定の有効期間およびその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること(労働基準法施行規則第24条の2の3の2)
  11. 決議の有効期間

(※)2024年4月法改正により追加

健康・福祉を確保するための措置

企画業務型裁量労働制においては、裁量労働によって働き過ぎにつながるなど、従業員が健康上の不安を感じないように、健康・福祉を確保するための措置を講じなければならないとされています(労働基準法第38条の4第1項第四号)。

2024年4月の法改正後は、健康・福祉を確保するための措置を講じるにあたっては、①事業場における対象従業員全員を対象とする制度的な措置、および、②個々の対象従業員の状況に応じて講じる措置の分類から、それぞれ1つずつ以上の措置を実施することが望ましいとされています(労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針)。

なお、このうち特に、対象従業員について把握した勤務状況や健康状態を踏まえ、「労働時間の上限措置」を実施することが望ましいとされています。

健康・福祉を確保するための措置

【①事業場における対象従業員全員を対象とする制度的な措置】

  • 勤務間インターバルの確保(※)
  • 深夜労働の回数制限(※)
  • 労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)(※)
  • 年次有給休暇の連続取得の促進

【②個々の対象従業員の状況に応じて講じる措置】

  • 一定の労働時間を超える対象従業員への医師の面接指導(※)
  • 代償休日または特別休暇の付与
  • 健康診断の実施
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  • 適切な部署への配置転換
  • 産業医による助言・指導、または保健指導の実施

(※)2024年4月法改正により追加

労働基準監督署への届出義務

労使委員会による決議を行った後、当該決議の内容について、所定の様式「企画業務型裁量労働制に関する決議届(様式第13号の2)」により、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出ることが必要です(労働基準法第38条の4第1項)。

なお、決議届の有効期間については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内とすることが望ましいとされています(平成15年10月22日基発1022001号)。

労使委員会の決議の届出は、企画業務型裁量労働制の効力が発生するための要件であり、会社がこの届出をしない場合には、企画業務型裁量労働制の効力は発生しません(平成12年1月1日基発1号)。

労働基準監督署への定期報告の義務

会社は、労使委員会の決議の有効期間の始期(※)から起算して、初回は6ヵ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回(※)、所定の様式(様式第13号の4)により、管轄の労働基準監督署に対して定期的に報告を行う必要があります(労働基準法施行規則第24条の2の5)。

(※)2024年4月1日法改正前は「決議が行われた日」から起算して、6ヵ月以内ごとに1回

定期的に報告する事項は、次のとおりです。

報告事項

  • 対象となる従業員の労働時間の状況
  • 対象となる従業員の健康・福祉を確保するための措置の実施状況
  • 従業員の同意、およびその撤回の実施状況(※)

(※)2024年4月法改正により追加