退職金制度とは?4種類の退職金制度の内容とメリット・デメリットをわかりやすく解説
- 1. 退職金とは
- 1.1. 退職金とは
- 1.2. 退職金の法律上の支給義務
- 2. 退職金の支給方法(退職一時金と退職年金(企業年金))
- 3. 退職金制度の種類
- 4. 退職一時金(自社積立)
- 4.1. 退職金制度の概要
- 4.2. 生命保険の利用
- 5. 確定給付企業年金制度(外部積立)
- 5.1. 退職金制度の概要
- 5.2. 確定給付企業年金の種類(規約型と基金型)
- 6. 確定拠出年金制度
- 6.1. 退職金制度の概要
- 6.2. 退職金の受け取り年齢
- 6.3. 確定拠出年金制度のメリット
- 7. 中小企業退職金共済(中退共)
- 7.1. 退職金制度の概要
- 7.2. 中小企業退職金共済(中退共)の加入要件
- 7.3. 中退共のメリット
- 8. 退職金制度の比較
- 8.1. 従業員が自己都合退職した場合の減額の可否
- 8.2. 掛金額の上限額
- 8.3. 支払準備コストの平準化
- 8.4. 退職理由による減額(自己都合退職など)
退職金とは
退職金とは
「退職金」とは、従業員が退職する際に、会社が支払う金銭をいいます。
一般的には、あらかじめ退職金規程などによって、退職金の額の算定方法や支給方法などのルールを定めます。
会社にとって退職金制度を設ける目的は、従業員の長期勤続を奨励することにより、定着率を上げ(離職を防止し)、優秀な人材を確保することにあります。
統計では、退職給付制度(一時金・年金)がある企業の割合は、80.5%となっています(厚生労働省平成30年就労条件総合調査)。
退職金の法律上の支給義務
法律上、会社には退職金を支給する義務はありません。
会社の規模、従業員数などに関わらず、退職金を支給するかどうかは会社の判断に委ねられています。
しかし、会社がいったん退職金制度を導入した場合は、退職金の支払いが、会社と従業員との間の労働契約の内容になる(法律上の約束事になる)ことから、その後、会社が一方的に退職金制度を廃止したり、退職金を減らしたりすることはできません。
また、退職金規程に定められた退職金は、原則として、会社の経営状況に関わらず支払う義務があり、会社の経営状態によって支払義務がなくなることはありません。
したがって、会社は、退職金制度を導入する際には、長期的な目線にたち、将来にわたって退職金制度を維持・運用できるかどうか、慎重に検討する必要があります。
退職金の支給方法(退職一時金と退職年金(企業年金))
退職金は、その支給方法に着目すると、「退職一時金」と「退職年金(企業年金)」に分類されます。
退職時に一括して支給する退職金を、「退職一時金」といいます。
これに対して、退職金の全部または一部を年金で支給する退職金を、「退職年金(企業年金)」といいます。
さらに退職年金には、5年や10年といった支給期限がある「有期年金」と、国の老齢年金制度のように、受取人が亡くなるまで支給する「終身年金」があります。
退職年金は、会社が退職金を分割して支給するのではなく、外部の機関に委託して従業員に支給することが一般的です。
退職年金制度を導入している会社においては、年金支給に加えて、従業員の希望によっては一時金での受け取りも選択することが認められる(退職一時金と退職年金を併用する)ことが多いようです。
退職金制度の種類
一般的に、退職金制度を分類すると、次の4種類となります。
退職金制度の種類
- 退職一時金(自社積立)
- 確定給付企業年金制度(外部積立)
- 確定拠出年金制度
- 中小企業退職金共済(中退共)
以下、順に解説します。
退職一時金(自社積立)
退職金制度の概要
「退職一時金」とは、退職時に、現金を一括して支払う制度をいいます。
基本的に、外部の機関を利用することなく、自社で資金繰りをして、退職金を積み立てるものです。
退職一時金の準備額について、税制を優遇する制度はありませんので、決算日をまたいだ場合には、会社の利益として課税対象となります。
中小企業では、退職者が発生する都度、資金調達をして退職金を支払うケースもあります。
生命保険の利用
なお、自社積立をする方法の選択肢のひとつとして、生命保険を利用する場合もあります。
生命保険を利用することで、退職金の準備額について、税務上、全部または一部が損金となる点で、社内で積み立てるよりも有利になることがあります。
確定給付企業年金制度(外部積立)
退職金制度の概要
「確定給付企業年金」は、あらかじめ退職金規程で定められた退職金額を支給するために必要な資金を、会社が外部機関に拠出する制度をいいます。
従業員が退職したときは、退職金規程で定められた退職金が、外部機関から従業員に対して直接支払われます。
「確定給付」の名のとおり、最終的な給付額が確定しており、会社と従業員との間であらかじめ定めた退職金額の約束を守ることがこの制度の特徴です。
会社と従業員との間に外部機関を設け、そこに資金を積み立てるという「外部積立」の形態であり、退職金制度と、資金の準備が一体となっている点で、前述の自社積立とは異なります。
なお、最終的な退職金の給付額については、会社が責任を負うこととなります。
一般的には、会社が生命保険会社や信託銀行と契約を締結し、掛金の積み立てや運用、給付などの管理を委託します。
このとき、資産運用の不調などにより、退職金が十分に準備できなかった場合には、会社側にその不足を補うリスクが生じます。
確定給付企業年金の種類(規約型と基金型)
確定給付企業年金には、「規約型」と「基金型」の2種類があります。
「規約型」は、会社が生命保険会社や信託銀行と契約を締結し、掛金の積み立てや運用などを委託する方法です。
「基金型」は、会社とは別に企業年金基金を設立し、基金が退職金にかかる業務を行う方法です。
基金を設立する場合には、加入者数が300人以上必要であるなど、設立のための要件が定められているため、大企業向けの制度といえます。
確定拠出年金制度
退職金制度の概要
「確定拠出年金制度」とは、会社は従業員の退職金の原資とするために、毎月の掛金を拠出し、掛金は従業員個人の資産となり、従業員が自ら運用していく制度をいいます。
積み立てられた資産については、従業員ひとりひとりが個人の判断で運用し、その結果は自己責任となります。
つまり、会社は、確定した掛金を拠出する義務を負うのであって、最終的に従業員が手にする退職金の額について責任を負うことはありません。
確定拠出年金制度では、会社は掛金を「資産管理機関」に拠出し、従業員は、その資産の運用を「運営管理機関」に指図し、運営管理機関から資産管理機関に運用の指図を行う、というフローになります。
退職金の受け取り年齢
確定拠出年金制度は、法律上、60歳以降の受け取りが定められています。
また、受け取り開始時期は、60歳~70歳の任意の時期を、従業員が自ら決めることができます。
もし中途退職をしても、60歳になるのを待ってから年金給付を受ける権利が発生するため、例えば、中途退職して、まとまった退職金を元手に独立をするといったことはできません。
確定拠出年金は、老齢年金制度を補完する役割を担う制度といえます。
確定拠出年金制度のメリット
会社にとって、確定拠出年金制度のメリットは、一度拠出をすれば、その後の運用リスクは従業員が負うことになるため、会社にとって将来の追加負担が生じないことにあります。
一方、従業員にとっても、運用成績次第では、将来、拠出額以上の退職金を手にすることができる可能性があります。
ただし、実際には、従業員側に必ずしも投資・運用に関する十分な知識があるということはなく、結局は一番運用リスクの少ない商品を選択し、資産額を維持するだけの運用になってしまい、制度の意義が薄れてしまうことがあります。
中小企業退職金共済(中退共)
退職金制度の概要
中小企業退職金共済(以下、「中退共」といいます)とは、公的な団体(独立行政法人勤労者退職金共済機構)によって運用される共済制度に加入し、企業年金のように外部積立を行い、退職金を支払う方法をいいます。
会社が機構と共済契約を締結し、雇用する従業員を加入させます。
その後、会社は毎月掛け金を機構に支払い、機構は資産運用を行います。
なお、同様の仕組みの共済制度として、各地の商工会議所などが中心となり運営する「特定退職金共済」もあります。
中小企業退職金共済(中退共)の加入要件
共済制度は加入できる要件が定められており、従業員数や資本金の額などの要件を設けています。
中退共の加入要件は以下のとおりです。
業種 | 常用従業員数または資本金・出資金 |
一般業種(製造業・建設業等) | 300人以下または3億円以下 |
卸売業 | 100人以下または1億円以下 |
サービス業 | 100人以下または5,000万円以下 |
小売業 | 50人以下または5,000万円以下 |
掛金については月額3万円の上限が定められているため、自ずと退職金額にも上限があります。
そのため、掛金を上回る退職金を支払う場合には、中退共と退職一時金を組み合わせるなどして制度設計することもあります。
中退共のメリット
中退共のメリットは、制度を維持するための費用負担を含めて、1%の利回りで計算されるため、コストパフォーマンスに優れている点です。
また、拠出額は毎月定額のため、会社が将来的に追加負担をすることもありません。
一方で、懲戒解雇などの例外的な場合を除いて、退職理由による退職金額の差をつけることができませんので、例えば、定年退職か自己都合退職かによって退職金額に差をつけたいと考える場合などには、適していません。
退職金制度の比較
従業員が自己都合退職した場合の減額の可否
一般的な退職金規程では、「定年退職」「会社都合退職」「自己都合退職」などの退職理由に応じて、退職金の額に差をつけることがあります。
特に、退職金は長期勤続を期待して導入する制度であることから、従業員がすぐに辞めてしまった場合にまで満額の退職金を支払うことは、退職金の趣旨に沿わないケースがあります。
そこで、「3年未満で自己都合退職した場合には、退職金を不支給とする」などの規定を設けることがあります。
しかし、中退共と確定拠出年金制度による退職金については、勤続期間が短いことによる減額は、限定的にしか行うことができないことに留意する必要があります。
中退共の場合、退職金の支給は中退共から退職者に対して直接行われるため、会社は原則として離職理由を支給額に反映させることはできません。
確定拠出年金制度についても、拠出された掛金は従業員に帰属するため、会社が後から返還を求めることは原則として認められません(勤続3年未満の自己都合退職などについては、拠出金の返還を求めることができる場合があります)。
掛金額の上限額
退職金制度によっては、掛金額に上限額が設けられているものがあり、その場合、自ずと退職金額にも上限が生じます。
各退職金制度について、掛金額の制限を比較すると次の表のとおりです。
退職金の種類 | 掛金額 |
退職一時金 | なし |
中退共 | 5,000円~30,000円 |
確定給付企業年金 | 上限なし |
確定拠出年金 | 55,000円 (確定給付型との併用時:27,500円) |
支払準備コストの平準化
退職金制度によっては、退職金の準備にかかるコストがほぼ一定であるものと、将来的に追加負担が生じる可能性のあるものがあり、会社の経営状況に左右されずに退職金を準備したいと考える場合には、できるだけコストを平準化することのできる制度を選択する必要があります。
各退職金制度について、会社にとって、退職金の準備にかかるコストの平準化の可否(将来的に追加負担が生じるリスク)を比較すると、次の表のとおりです。
退職金の種類 | コスト平準化の可否 | 理由 |
退職一時金 | × | 退職者の増減による費用の変動が生じる |
中退共 | 〇 | 拠出額は毎月定額 |
確定給付企業年金 | △ | 運用状況の低迷による積立不足が生じることがある |
確定拠出年金 | 〇 | 運用成績による追加負担は生じない |
退職理由による減額(自己都合退職など)
退職金制度の主な目的は、人材の定着であり、短期の自己都合退職や、不祥事による懲戒解雇があった場合など、離職理由によって退職金の減額規定を設けることにより、これらを抑制することができる効果があります。
退職理由による退職金額の減額ができるかどうか、という観点から制度を比較すると、次の表のとおりです。
退職金の種類 | 退職理由による減額の可否 | 理由 |
退職一時金 | 〇 | 自由に制度設計可 |
中退共 | × | 原則として減額不可(※) |
確定給付企業年金 | 〇 | 自由に制度設計可 |
確定拠出年金 | △ | 限定的に返還請求可(3年未満の自己都合退職者など) |
(※)懲戒解雇による退職の場合、中退共に減額を申し出ることはできますが、減額の判断は中退共側が行い、減額された場合でも、会社に掛け金が返戻されることはありません。