【労働基準法】「休業手当」とは?休業手当の要件(帰責事由)、計算方法(平均賃金の60%)などを解説

休業手当とは

休業手当とは

休業手当」とは、会社の責任(帰責事由)によって従業員に休業を命じたことにより、従業員が労務を提供できなくなった場合に、その従業員の休業期間中の生活を保障するために、会社に支払いが義務付けられる賃金をいいます(労働基準法第26条)。

休業手当の額は、平均賃金(労働基準法第12条)の60%以上とされています。

休業手当(労働基準法第26条)

(休業手当)

第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

休業手当は、労働義務のある日(所定労働日)について、休業によって従業員が労務を提供できなくなった場合に支給するものであることから、労働義務のない会社の休日(所定休日)には、休業手当を支払う必要はありません

休業手当と休業補償との違い

休業手当と混同されやすい制度として、「休業補償」があります。

休業補償」とは、従業員が業務中の労働災害によって休業する場合に、会社に義務付けられる補償をいいます。

会社は、従業員が、業務上の負傷または疾病による療養のため、働くことができないために賃金を受けない場合においては、休業補償として、平均賃金の100分の60を支払わなければならないとされています(労働基準法第76条)。

基本的には、労災保険によって、労働基準法に定める災害補償と同等の給付が行われることをもって、その限りにおいて、会社は災害補償を行う責任を免れる(補償のための費用を直接負担する必要がなくなる)こととなります(労働基準法第84条第1項)。

災害補償について詳しくは、次の記事をご覧ください。

労働災害に対する「災害補償」とは?労働基準法と労災保険法の違いを比較しながら解説

休業手当と民法に基づく賃金の全額請求(100%)との関係

契約関係の一般原則を定める「民法」では、債務者が債務の履行をなし得なかった場合でも、それが債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債務者は反対給付を受ける権利を失わないと規定しています(民法第536条第2項)。

この規定は雇用契約にも適用されますので、会社(労働義務の履行にかかる債権者)の故意・過失によって、従業員(労働義務の履行にかかる債務者)が労働(債務)を提供できず賃金(反対給付)を受けることができないときは、従業員は民法に基づき、会社に対して賃金の全額(100%)を請求することができると解されます。

ただし、民法の定めは「任意規定」であり、労使の合意によって、その適用を排除することが可能です。

そこで、労働基準法(強行法規)では、従業員の生活を保障するために、休業手当の支払いを定めています。

このように、休業手当は、民法が従業員の生活保障として不十分であるために、労働基準法によって保障するものであり、必ずしも民法の規定を排除するものではないと解されます(昭和24年3月22基発502号)。

就業規則や雇用契約書に休業手当に関する定めがなく、休業の事由が会社の故意・過失による場合には、従業員に賃金の全額を請求する権利が生じる可能性があります。

ただし、例えば、就業規則や雇用契約書に、「休業手当は平均賃金の6割を支払う」旨を定めていれば、労使の間で合意が成立し、労働基準法に基づく休業手当の支払いをもって足りる(民法は適用されない)と解されますので、休業時の賃金について、労使の間で取り決めをしておくことが必要です。

使用者の責に帰すべき事由(帰責事由)とは

休業手当の要件とされる「使用者の責に帰すべき事由」とは、一般に、「不可抗力を主張できないもの」を指すと解されています。

これには、会社に故意・過失がある場合に限らず、会社側に起因する、経営・管理上の障害を含むものと解されています(ノース・ウエスト航空事件/昭和62年7月17日判決)。

休業手当の支払いを必要とする場合の例

休業手当の支払いを必要とする場合の例

  • 親工場の経営難から、下請工場が資材、資金の獲得ができない場合(昭和23年6月11日基収1998号)。
  • 金融難、円の急騰による輸出不振など、使用者の経営努力によって乗り切ることができる場合
  • 解雇予告と同時に、従業員に予告期間満了まで休業を命じた場合(昭和24年7月27日基収1701号)
  • 経営の拙劣による休業(帝国金属工業事件/仙台高等裁判所昭和24年10月8日判決)
  • 金融難などに起因する経営障害による休業(国際産業事件/東京地方裁判所昭和25年8月10日決定)
  • 関連企業の争議による業務停止に起因する休業(扇興運輸事件/熊本地方裁判所八代支部昭和37年11月27日決定)

休業手当の支払いを必要としない場合の例

休業手当の支払いを必要としない場合の例

  • 天災事変などによる場合
  • 正当な争議行為による場合
  • 代休付与命令による場合(昭和23年6月16日基収1935号)
  • 労働安全衛生法の規定による、健康診断の結果に基づく休業の場合(昭和23年10月21日基収1529号)
  • 休電・計画停電の実施による場合(昭和26年10月11日基発696号)
  • 経営困難による営業廃止(松崎建設事件/東京高等裁判所昭和28年3月23日判決)
  • 雨天の予報のために元請けが工事を中止し、下請けの従業員が就労できなかったため休日とした場合(最上建設事件/東京地方裁判所平成12年2月23日判決)

なお、派遣中の従業員の休業手当にかかる帰責事由の有無は、派遣先の会社ではなく、派遣元の会社について判断されます(昭和61年6月6日基発333号)。

休業手当の計算方法(平均賃金の計算)

平均賃金の計算

休業手当の額は、平均賃金の60%以上とされています。

平均賃金」とは、算定事由が発生した日の直近3ヵ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(総暦日数)で割った額をいいます(労働基準法第12条)。

平均賃金の計算方法

算定事由が発生した日の直近3ヵ月間に支払われた賃金の総額÷その期間の総日数(総暦日数)

算定事由が発生した日

休業手当の算出における「算定事由が発生した日」とは、従業員を休業させた日をいい、休業が2日以上にわたる場合には、最初の日をいいます。

「直近3ヵ月間」については、賃金の締切日がある場合(一般的な月給のケース)には、休業があった直近の賃金の締切日から起算した3ヵ月間で計算します。

賃金の総額

平均賃金を計算する際において、「賃金の総額」には、次の賃金は含まれません。

賃金総額に含まれない賃金

  • 臨時に支払われた賃金
  • 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

「臨時に支払われた賃金」とは、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいいます(昭和22年9月13日発基17号)。

例えば、結婚手当(昭和22年9月13日発基17号)、私傷病手当(昭和26年12月27日基収3857号)、加療見舞金(昭和27年5月10日基収6054号)などがこれに該当します。

また、「3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、例えば、年に2回(6ヵ月ごと)支払われる賞与などが該当します。

したがって、直近3ヵ月の間に賞与を支給していたとしても、当該賞与は賃金総額には含めずに平均賃金を計算します。

1日のうち一部を労働した場合(早上がりなど)

例えば、飲食店など、接客・サービス業におけるアルバイトについて、業務量に応じて、当初予定していた所定労働時間(シフト)よりも短い労働時間で終了することがあります(いわゆる早上がり)。

この早上がりについても、会社の都合によって一部休業をさせているため、休業手当の支払いが問題になります。

1日のうち一部を労働した場合の取り扱いについては、行政通達により、休業手当は、平均賃金に対して60%を保障する趣旨であり、そのことは1日のうち一部を休業した場合でも同様であると解されています(昭和27年8月7日基収3445号)。

例えば、平均賃金が1日5,000円、時給が1,000円のアルバイト従業員について、1日の所定労働時間が5時間の日に、4時間働いた後、1時間の早上がりを命じた場合における休業手当は、4時間の労働に対して支払われる給与4,000円が、平均賃金の60%(3,000円)を上回っているため、休業手当の支払いは不要となります。

反対に、労働時間が短く、その日の給与が2,000円しか支給されていなければ、平均賃金3,000円との差額の1,000円を、休業手当として支払う必要があります。

休業手当に関する罰則と付加金

休業手当の支払日

休業手当の支払日については、休業手当は労働基準法上の賃金とみるべきとする行政解釈がありますので(昭和25年4月6日基収207号)、休業手当は通常の給与支払日に合わせて支給する必要があります。

罰則

休業手当を適切に支払わない場合には、罰則として30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第120条第1項)。

付加金

休業手当の不払いが裁判によって争われた場合、従業員の請求により、裁判所は会社に対して、本来支払うべき休業手当に加えて、これと同額の付加金の支払いを命ずる(会社は不払いの休業手当の倍額を支払う必要がある)ことができます(労働基準法第114条)。

休業手当に関する就業規則の規定例(記載例)

休業手当に関する就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。

休業手当に関する就業規則の規定例(記載例)

(休業手当)

第●条 会社の都合により、所定労働日に従業員を休業させた場合は、休業1日につき労働基準法第12条に定める平均賃金の6割を支給する。

2 前項の場合において、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労働基準法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。