【社会保険】標準報酬月額の「随時改定」とは?要件などを解説

はじめに
本稿では、社会保険(健康保険、厚生年金保険、および介護保険)における標準報酬月額の随時改定について解説します。
社会保険料と標準報酬月額
社会保険料(以下、健康保険料、厚生年金保険料、および介護保険料をいいます)は、従業員に対して支払われる実際の給与の額ではなく、「標準報酬月額」に対して、保険料率を乗じて算出します。
「標準報酬月額」とは、実際の給与の額を一定の幅(等級)に当てはめた、社会保険料を計算する上での、いわば「仮の給与」ともいえます。
これによって、社会保険料の計算を簡便かつ効率的に行うことができるようにしています。
標準報酬月額は、まずは社会保険への加入時(一般的には、入社時)に決定され、その後は3つのタイミングで決定・改定されることとなります。
標準報酬月額が決定・改定されるタイミングを整理すると、次のとおりです。
【標準報酬月額が決定・改定されるタイミング】
| タイミング | 手続名 (作成する書類) | 手続の期限 | |
| 1 | 社会保険に加入するとき | 資格取得時決定 (資格取得届) | 資格取得日から5日以内 |
| 2 | 年に1回の見直しをするとき | 定時決定 (算定基礎届) | 毎年7月1日から7月10日まで |
| 3 | 昇給などにより、固定的賃金が変動したとき | 随時改定 (月額変更届) | 固定的賃金が変動した月から4ヵ月目以降、速やかに |
| 4 | 育児休業等が終了した後、標準報酬月額が変動したとき | 産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定 (月額変更届) | 標準報酬月額が変動した月から4ヵ月目以降、速やかに(被保険者の申出により行う) |
詳細は、次の記事をご覧ください。
社会保険料(標準報酬月額)はいつ決定・改定される?4つのタイミング(資格取得時・定時・随時・育児休業等終了時)について解説
随時改定とは
健康保険では、年に1回、7月1日現在のすべての被保険者について、標準報酬月額の見直しを行うための手続が行われ、これを「定時決定」といいます(健康保険法第41条)。
定時決定で決定された標準報酬月額は、原則として、その年の9月から翌年の8月まで適用されます。
そして、定時決定された標準報酬月額は、翌年の8月まで適用されるのが原則ですが、それまでの間において、報酬額に大幅な変動が生じた場合には、次の定時決定を待たずに、その実態を標準報酬月額に反映する必要があり、そのための手続を「随時改定」といいます(健康保険法第43条)。
具体的には、次の要件にすべて該当する場合には、変動月から4ヵ月目の標準報酬月額を改定します。
随時改定の要件
- 固定的賃金に変動があったこと
- 変動した月から3ヵ月間の報酬の平均額により算出した標準報酬月額が、従前の標準報酬月額に比べて2等級以上変動したこと
- 変動月以後引き続く3ヵ月の報酬の支払基礎日数がすべて17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)であること
以下、随時改定の要件を順に解説します。
固定的賃金に変動があったこと【要件1】
固定的賃金とは
「固定的賃金」とは、支給額や支給率が決まっているものをいいます。
固定的賃金の変動に該当する例は、次のとおりです。
固定的賃金の変動に該当する例
- 昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
- 給与体系の変更(日給制から月給制への変更など)
- 日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更(※)
- 請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
- 通勤手当、住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、支給額の変更 ・一時帰休(レイオフ)のため、継続して3ヵ月を超えて通常の報酬よりも低額の休業手当等が支払われた場合
- 一時帰休が解消され、継続して3ヵ月を超えて通常の報酬が支払われるようになった場合
(※)時給単価の変動はないものの、契約上の所定労働時間が変わった場合は、固定的賃金の変動に該当し、随時改定の対象となります。
なお、休職による休職給を受けた場合は、固定的賃金の変動がある場合には該当しないため、随時改定の対象とはなりません。
固定的賃金の変動とは
随時改定は、固定的賃金に変動がなければ、他の賃金に変動があっても対象となりません。
「固定的賃金の変動」とは、基本給や時給単価の変更(昇給・降給など)、毎月固定で支払われる手当の額の変更(手当の新設・廃止など)などをいいます。
一方、残業時間に応じて残業手当が増減する場合や、仕事の成果に応じて歩合給が増減する場合などは、固定的賃金の変動に該当しません。
また、固定的賃金が上昇しても、他の賃金の減少により、3ヵ月間の報酬総額の平均額が従前のものと変わらない場合は、随時改定の対象となりません。
留意事項
次の場合は、随時改定の対象とはなりません。
- 固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため、変動月以後引き続く3ヵ月の報酬の平均額により算出した標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
- 固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が増加したため、変動月以後引き続く3ヵ月の報酬の平均額により算出した標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合
変動した月から3ヵ月間の報酬の平均額により算出した標準報酬月額が、従前の標準報酬月額に比べて2等級以上変動したこと【要件2】
「変動月」とは、変動した固定的賃金により報酬を支払った月のことをいいます。
例えば、4月に支払われる報酬に変動があった場合は、4月が変動月となり、4月から6月までの3ヵ月間の報酬の平均額により算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額を比較します。
なお、過去に遡って昇給があり、昇給差額が支給された場合(例えば、3月に遡った昇給差額が5月に支給された場合)は、差額が支給された月(5月)を変動月として、差額を差し引いた3ヵ月間(5月・6月・7月)の報酬の平均額により算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合に、随時改定の対象となります。
また、標準報酬月額の上限または下限にわたる等級変更(1等級から2等級への変更など)の場合は、1等級の差でも随時改定の対象となります。
変動月以後引き続く3ヵ月の報酬の支払基礎日数がすべて17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること【要件3】
「支払基礎日数」とは、給与計算の対象となる日数のことをいいます。
日給制や時給制の場合は出勤日数、月給制や週給制の場合は暦日数で把握します。
定時決定では、報酬支払基礎日数が17日未満の月があるときは、その月を除いて行うのに対し、随時改定では、継続した3ヵ月間において、各月とも報酬支払基礎日数が17日以上でなければ改定自体が行われない点が異なります。
随時改定の手続
随時改定の手続としては、固定的賃金の変動があった月以後3ヵ月間の報酬額を、当該変動月から4ヵ月目以降、速やかに、「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」を管轄の年金事務所(または健康保険組合)に届け出る必要があります(健康保険法施行規則第26条第1項)。
有効期間
随時改定で決定された標準報酬月額の有効期間は、次のとおりです(健康保険法第43条第2項)。
随時改定で決定された標準報酬月額の有効期間
- 1月から6月までの間に随時改定された場合…随時改定された標準報酬月額は、その年の8月までの各月の標準報酬月額とする
- 7月から12月までの間に随時改定された場合…随時改定された標準報酬月額は、翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする
【参考】年間平均による随時改定
下記2.の差が、業務の性質上例年発生することが見込まれ、かつ、報酬月額の変動(※)も、業務の性質上、例年発生することが見込まれ、さらに被保険者が同意している場合には、次の要件をすべて満たすことにより、年間平均による随時改定の対象となります。
(※)固定的賃金の増加(減少)も、例年発生していること(定期昇給など)が条件となります。例えば、定期昇給とは別の単年度のみの特別な昇給による改定、例年発生していない業務の一時的な繁忙と昇給時期との重複による改定、転居に伴う通勤手当の支給による改定などは、年間平均による随時改定の対象外となります。
年間平均による随時改定の要件
1.現在の標準報酬月額と、通常の随時改定による標準報酬月額(昇給(降給)月以後の継続した3ヵ月間の報酬の平均から算出した標準報酬月額)との間に2等級以上の差があること
2.次の①と②との間に2等級以上の差があること
①通常の随時改定による標準報酬月額
②昇給(降給)月以後の継続した3ヵ月の間に受けた固定的賃金の月平均額に、昇給(降給)月前の継続した9ヵ月および昇給(降給)月以後の継続した3ヵ月の間に受けた非固定的賃金の月平均額を加えた額から算出した標準報酬月額(年間平均額から算出した標準報酬月額)
3.現在の標準報酬月額と年間平均額から算出した標準報酬月額との間に1等級以上の差があること
手続
年間報酬の平均で算定することを申し立てる場合、以下の添付書類が必要となります。
(様式1)年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
(様式2)健康保険 厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較および被保険者の同意等(随時改定用)

