就業規則の3つの記載事項(絶対的・相対的・任意的)と各内容について解説
- 1. はじめに
- 2. 就業規則の3つの記載事項(絶対的・相対的・任意的)
- 2.1. 絶対的必要記載事項
- 2.2. 相対的必要記載事項
- 2.3. 任意的記載事項
- 3. 絶対的必要記載事項の内容
- 4. 相対的必要記載事項の内容
- 4.1. 退職手当に関する事項
- 4.2. 臨時の賃金(賞与など)、最低賃金額に関する事項
- 4.3. 食事、作業用品、社宅などの費用負担に関する事項
- 4.4. 安全衛生に関する事項
- 4.5. 職業訓練に関する事項
- 4.6. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 4.7. 表彰、制裁に関する事項
- 4.8. その他、すべての労働者に適用される事項
- 5. 任意的記載事項の内容
- 6. 記載漏れがあった場合の罰則と就業規則の効力
- 7. 別規程(委任規定)の作成
はじめに
「就業規則」とは、従業員の労働時間や賃金などの労働条件や、職場の服務規律などについて定めた規則集をいい、いわば「働き方のルールブック」といえます。
就業規則は、法律で定められた要件に該当すると、会社にその作成と届出が義務付けられます。
そして、就業規則に記載する内容については、法律によって、記載事項が定められているため、就業規則を作成・変更する際には、記載事項に漏れがないように留意する必要があります。
この記事では、法律によって定められている就業規則の記載事項と、その各内容について解説します。
「就業規則」とは?作成義務・記載内容・届出手続などをわかりやすく解説
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就業規則の3つの記載事項(絶対的・相対的・任意的)
就業規則に記載する内容については、法律によって、記載事項が定められています(労働基準法第89条)。
就業規則の記載事項は、大きく分類すると次の3つです。
就業規則の記載事項
- 絶対的必要記載事項
- 相対的必要記載事項
- 任意的記載事項
絶対的必要記載事項
「絶対的必要記載事項」とは、法律によって、その内容を就業規則に必ず記載しなければならないとされている事項をいいます。
もし記載を欠いていれば、その就業規則は法的に適正な就業規則とはいえません。
相対的必要記載事項
「相対的必要記載事項」とは、会社で制度を設けて実施している場合には、その内容を就業規則に記載しなければならないとされている事項をいいます。
制度を設けるかどうかは会社の自由(任意)とされていますが、いったん制度を設けて実施している場合には、就業規則に記載する必要があります。
任意的記載事項
「任意的記載事項」とは、絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項以外の事項をいいます。
法律では記載する内容について特に定められておらず、制度を設けるかどうかはもちろん、制度の内容を就業規則に記載するかどうかも会社の自由(任意)とされています。
絶対的必要記載事項の内容
絶対的必要記載事項には、大きく分類すると、「労働時間」「賃金」「退職」の3つに関する事項があります。
これらは、従業員の労働条件の中でも、特に重要な内容であるため、就業規則に必ず記載することが求められます。
絶対的必要記載事項
- 労働時間に関する定め … 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項
- 賃金に関する定め … 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
- 退職に関する定め … 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
「労働時間に関する定め」においては、特に「休暇」や「休業」の項目について、就業規則に記載するボリュームが多くなる傾向があります。
休暇・休業には、次の例のように、法律に定めがあるものと、福利厚生として会社が独自に設けるもの(夏季休暇、冬季休暇(年末年始休暇)、慶弔休暇、特別休暇など)があります。
法律上の休暇・休業の例
- 年次有給休暇(労働基準法第39条)
- 産前産後休業(労働基準法第65条)
- 生理休暇(労働基準法第68条)
- 育児休業・介護休業(育児介護休業法第5条・11条)
- 看護休暇・介護休暇(育児介護休業法第16条の2・5)
「退職に関する定め」においては、一言に退職といっても、様々なケースがあるため、漏れのないように記載する必要があります。
例えば、次の内容について定めることがあります。
退職に関する定めの例
- 自己都合退職(退職願の提出期限など)
- 定年の年齢
- 再雇用制度の有無
- 休職期間満了による退職
- 解雇(解雇事由、解雇時の手続など)
相対的必要記載事項の内容
「相対的必要記載事項」とは、会社で制度を設けて実施している場合には、その内容を就業規則に記載しなければならないとされている事項をいいます。
相対的必要記載事項としては、次の事項があります。
相対的必要記載事項
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与など)、最低賃金額に関する事項
- 食事、作業用品、社宅などの費用負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他、すべての労働者に適用される事項
以下、各内容について解説します。
退職手当に関する事項
「退職手当に関する事項」とは、例えば次の内容が該当します。
退職手当に関する事項の例
- 適用される従業員の範囲
- 退職手当の決定、計算
- 退職手当の支払の方法
- 退職手当の支払時期
退職手当(退職金)は、法律上は支給することを義務付けられていないため、支給する場合には、その内容について会社が独自に定めることとなります。
退職手当を支給する場合には、退職手当の支給基準(誰に、どのような場合に退職手当を支給するか、金額の算定はどうするか、など)を具体的に定めます。
「退職手当の決定、計算」とは、例えば、勤続年数や退職事由など、退職手当の金額を決定するための要素や、退職手当の金額の算定方法(例えば、基本給額に支給率を乗じるなど)をいいます。
「退職手当の支払の方法」とは、退職手当を一時金で支払うか、または年金で支払うか、などの支給方法をいいます。
なお、退職手当について、従業員の非違行為による退職などの場合には、不支給または減額するといった運用がなされることがありますが、そのような運用は「退職手当の決定、計算の方法」に関する事項に該当するため、就業規則に記載する必要があるとされています(昭和63年1月1日基発第1号)。
臨時の賃金(賞与など)、最低賃金額に関する事項
賞与(ボーナス、寸志)は、法律上は支給することを義務付けられていません。
賞与を支給する場合には、賞与の支給基準(誰に、どのような場合に賞与を支給するか、金額の算定はどうするか、など)を具体的に定めます。
ただし、賞与は、会社の業績に大きく左右される性質があるため、あまりに基準を明確にし過ぎると、従業員に対して確約をしたかのような形になり、いざ会社が支給しないという判断をした場合にトラブルを引き起こす可能性があります。
そこで、就業規則では、「賞与額は業績に応じて算定する」などのように定めておくことで、賞与を支給するタイミングで、業績などに応じて支給額をその都度決定するといった運用がなされることがあります。
食事、作業用品、社宅などの費用負担に関する事項
食事、作業用品、社宅などの費用について、従業員に対して補助をする場合には、その内容(対象者や金額など)を記載します。
安全衛生に関する事項
業務災害の防止や、従業員の心身の健康の保全など、安全衛生面について、会社の取り組みや制度を記載します。
職業訓練に関する事項
職業訓練に関する事項としては、実施する職業訓練の種類、訓練にかかる職種など、訓練の内容、訓練期間、訓練を受けることができる従業員の資格などについて記載することとされています(昭和44年1月24日基発77号)。
災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
業務災害が生じた場合の従業員の補償について記載します。
また、業務外の傷病(従業員の私傷病)については、会社は補償する法律上の義務はありませんが、福利厚生として見舞金などを支給する場合には、記載します。
表彰、制裁に関する事項
表彰に関する規定は、勤続表彰や営業表彰など、従業員の功績を称える場合に記載します。
制裁に関する規定は、就業規則の中でも重要な項目のひとつです。
会社が従業員を懲戒する場合には、原則として就業規則上の根拠が必要であるとされています。
ここでは、懲戒の種類(けん責、減給、懲戒解雇など)と、それぞれの懲戒処分の対象となる従業員の行為(懲戒事由)について、明記しておく必要があります。
その際、就業規則のひな型をそのまま流用するのではなく、自社の経営理念、道徳・倫理観、社風、慣習など様々な事項を勘案して定めることが大切です。
その他、すべての労働者に適用される事項
「すべての労働者に適用される事項」とは、必ずしも従業員の全員が確実に適用対象となるものに限られません。
行政解釈によれば、結果的に一定の範囲の従業員のみに適用される事項であっても、すべての従業員がその適用を受ける可能性があれば、相対的必要記載事項に含まれるとされています。
例えば、出張旅費に関する規定、休職に関する規定、配置転換に関する規定、出向に関する規定などがこれに該当するといえます。
任意的記載事項の内容
任意的記載事項として記載する内容について、法的な規制は特にないため、社会通念や公序良俗に反しない範囲内で、会社が独自に規定を設けることができます。
任意的記載事項としては、例えば、就業規則の基本精神や、就業規則の適用範囲(正社員だけでなく、パートや嘱託社員にも適用されるかなど)を記載することがあります。
また、応募・採用に関する事項や、副業や競業の容認または禁止に関する事項などについて記載することがあります。
記載漏れがあった場合の罰則と就業規則の効力
必要とされる記載事項を欠いた就業規則は、労働基準法第89条が定める就業規則の作成義務に違反することになります。
就業規則を「作成する」ということは、法律の定める記載事項をすべて含んだ就業規則を作成することを意味するためです。
したがって、法律上は、必要記載事項の一部を欠いた就業規則は、就業規則の作成義務違反として、30万円の罰金が科される対象となります(労働基準法第120条第1号)。
なお、必要記載事項を欠く就業規則であったとしても、就業規則全体が無効になるものではなく、周知の要件(労働基準法第106条1項)等を具備する限り、効力としては有効と扱われるものとされています(昭和25年2月20日基収第276号)。
別規程(委任規定)の作成
就業規則に記載されている分量が多くなると、いわゆる委任規定を設けることによって、別規程(別冊)を作成することがあります。
委任規定を設けることについて法律による制限はなく、どのような内容であっても別規程にすることは問題ありません。
実務上、賃金(給与)規程、育児・介護休業規程、退職金規程などは記載内容の分量が多くなりやすいため、別規程にすることが多い傾向にあります。
委任規定は就業規則において、例えば「従業員の賃金に関する事項については、別に定める賃金規程による」のように設けられます。
委任規定を設けた場合の留意点としては、たとえ就業規則とは別規程であっても、法的には就業規則の一部であると解釈される点です。
したがって、例えば、賃金規程を作成・変更する場合においては、就業規則を作成・変更する場合と同様の手続が必要になるため、従業員代表者の意見聴取や、作成・変更した規程の労働基準監督署への届出、従業員への周知などの手続を行う必要があります。