有給休暇の計画的付与(計画年休)の就業規則・労使協定の規定例(記載例)とポイントを解説
有給休暇の計画的付与と就業規則・労使協定
有給休暇の計画的付与とは?
「有給休暇の計画的付与」とは、会社と従業員との間で取り決めを行うことによって、有給休暇の取得日について事前に計画を作成し、当該計画に従って、有給休暇を取得する制度をいいます(労働基準法第39条第6項)。
制度の基本的な内容については、次の記事をご参照ください。
「有給休暇の計画的付与(計画年休)」とは?制度の内容・手続(労使協定)などをわかりやすく解説
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有給休暇の計画的付与と就業規則・労使協定
会社が有給休暇の計画的付与を行う場合には、就業規則の定めと、労使協定の締結が必要となります。
就業規則の規定例(記載例)
就業規則の規定例(記載例)
(年次有給休暇の計画的付与)
第1条 従業員の過半数代表者との書面による協定により、各従業員の有する年次有給休暇のうち5日を超える部分【注1】について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
(年次有給休暇の時季指定)
第2条 年次有給休暇が10日以上与えられた従業員に対しては、付与日から1年以内に、当該従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日【注2】について、会社が従業員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、従業員が第1条(年次有給休暇の計画的付与)の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除する【注3】ものとする。
【注1】計画的に付与できる日数の制限
有給休暇の計画的付与の対象とすることができる日数には制限があり、従業員の有する有給休暇の日数のうち、「5日間を超える部分」についてのみ計画的付与の対象とすることが認められますので、当該内容を就業規則に規定します。
従業員が病気などの個人的な理由による取得ができるように、最低限の日数を留保しておく趣旨から、従業員の有給休暇の日数のうち5日間については、計画的付与の対象とすることができないことに留意する必要があります。
【注2・3】有給休暇の取得義務との関係
会社には、年10日以上の有給休暇が付与される従業員について、そのうち5日の有給休暇を取得させなければならない義務があります(労働基準法第39条第7項)。
そこで、有給休暇の計画的付与は、会社が有給休暇の取得義務を果たすための手段のひとつとして用いられることがあります。
法律では、従業員が計画的付与によって有給休暇を取得した場合には、当該取得した分の有給休暇の日数について、有給休暇の取得義務の対象となる5日間から差し引くことができると定められています(労働基準法第39条第8項)ので、当該内容を就業規則に定めます。
労使協定の規定例(記載例)
年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定の規定例(記載例)
●●株式会社(以下、「会社」という)と従業員の過半数を代表する者【注4】は、年次有給休暇の計画的付与に関し、以下のとおり協定する。
(年次有給休暇の指定日)【一斉付与方式の場合の例】【注5】
第1条 会社に勤務する従業員が有する●年度の年次有給休暇のうち、3日分については、次の日に計画的に与えるものとする。
一、●月●日
二、●月●日
三、●月●日
(年次有給休暇の指定日の変更)
第2条 この協定の定めにかかわらず、業務遂行上やむを得ない事由のために、指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員の過半数を代表する者との協議の上、第1条に定める指定日を変更するものとする。
(特別有給休暇の付与)【注6】
第3条 従業員のうち、その有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた残日数が3日に満たないものについては、その不足する日数の限度で、第1条に掲げる日に特別有給休暇を与える。
(適用除外)
第4条 次に掲げる者に対しては、年次有給休暇の計画付与に関する規定を適用しない。
一、計画付与期間中に退職する従業員
二、休職中の従業員
三、業務上の負傷による療養のため休業している従業員
四、産前産後休業期間中の従業員
五、育児休業期間中または介護休業期間中の従業員
六、その他、適用除外とすることが必要と認められる従業員
(有効期間)【注7】
第5条 本協定の有効期間は●年●月●日から●年●月●日までの1年間とする。ただし、この協定の有効期間満了の1ヵ月前までに、会社または従業員のいずれからも異議の申し出がないときは、この協定はさらに1年間有効期間を延長するものとし、以降も同様とする。
協定日:●年●月●日
●●株式会社 代表取締役 ●●●●
従業員代表 ●●部●●課 ●●●●
労使協定の記載内容
労使協定には、一般的に次の内容を記載します。
括弧内は、上記の規定例(記載例)で定めている条文を指します。
労使協定の記載内容
- 計画的付与の対象者(第1条・第4条)
- 対象となる有給休暇の日数(第1条)
- 計画的付与の具体的な方法(第1条)
- 計画的付与日の変更(第2条)
- 有給休暇がない従業員の取り扱い(第3条)
【注4】労使協定の当事者
「労使協定」とは、会社と、従業員の過半数の代表者との間で締結する協定をいいます。
また、従業員の過半数で組織する労働組合があれば、その労働組合と協定を締結する必要があります。
なお、従業員の過半数代表者は、選挙など民主的な手続によって選出する必要があり、会社が一方的に指名することはできません。
選出方法が適切でない場合には、労使協定が有効に成立しないリスクがあることに留意する必要があります。
【注5】有給休暇の計画的付与の方法
有給休暇の計画的付与の方法として、次の3つのパターンに分類することができます。
計画的付与のパターン
- 会社単位で取得する方法(一斉付与方式)
- 組織・グループ単位で取得する方法(交替制付与方式)
- 個人単位で取得する方法(個人別付与方式)
規定例(記載例)は、上記のうち「一斉付与方式」を採用した場合の例です。
「一斉付与方式」とは、会社と従業員との間で有給休暇の取得日を事前に取り決めておいて、会社単位(会社全体)で、従業員全員が同一の日に、一斉に有給休暇を取得する方法をいいます。
なお、他の方式による場合の規定例(記載例)は次のとおりです。
交替制付与方式による場合の規定例(記載例)
第1条 年次有給休暇を計画的に付与するために、各部署において、その所属の従業員をA、Bの2グループに分けるものとする。当該グループの決定と調整は、各部署の所属長の判断において行う。
2 従業員が有する●年度の年次有給休暇のうち、3日分については、各グループの区分に応じて、次の日に計画的に与えるものとする。
Aグループ:●月●日から●月●日までの3日間
Bグループ:●月●日から●月●日までの3日間
「交替制付与方式」とは、会社の中で、班・チーム・グループ・部門などの組織単位で、交替して、それぞれ有給休暇を計画的に取得する方法をいいます。
個人別付与方式による場合の規定例(記載例)
第1条 従業員が有する●年度の年次有給休暇のうち、3日分については、本条に基づき、個人別に計画的に与えるものとする。
2 年次有給休暇の計画的付与の期間は、●年●月●日から●年●月●日までとする。
3 従業員は●年●月●日までに、所属長に対し、前項の期間中において年次有給休暇の取得を希望する日を、所定の届出書により届け出ることとする。
4 前項の届け出を受け、各所属長は、所属する従業員の年次有給休暇の取得希望日が特定の時期に集中することにより、業務の正常な運営に支障を与えるおそれがあると認められた場合には、従業員に対して当該希望日の変更を求めることができる。この場合において、各所属長は、希望日の変更を求める場合は、●年●月●日までに従業員にその旨を通知するものとする。
「個人別付与方式」とは、有給休暇の取得日について、計画表などを用いて、従業員ごとに、個別に計画を立てることにより有給休暇を取得する方法をいいます。
【注6】有給休暇がない(足りない)従業員の取り扱い
有給休暇がない(足りない)従業員の取り扱いとして、第一に、「特別の休暇」を与え、他の従業員と同じように有給休暇を取得したものとして取り扱うことが考えられます。
第二に、「休業手当」を支給することが考えられます。
会社は、特別休暇を与えない場合でも、休業した従業員について、欠勤扱いにして賃金を支給しないものとして取り扱うことはできず、最低でも、平均賃金の60%以上の休業手当を支給する必要があります。
したがって、労使協定には、有給休暇がない従業員の取り扱いとして、特別の休暇を与えるのか、休業手当を支給するのか、いずれの方法によるかを定める必要がります。
【注7】労使協定の有効期間と届出
労使協定の有効期間については、特に法令上の定めはありませんが、会社の年度などに合わせて、1年単位で協定することが一般的です。
また、毎年同様の内容を適用する場合には、自動更新の条項を定めておくことで、労使双方から特段の異議がない限り、労使協定を自動で更新することもできます。
なお、計画的付与にかかる労使協定は、管轄の労働基準監督署へ届け出る義務はありませんので、労使協定を締結した後、協定書を社内で保管することで足ります。